今回取り上げるドラマは『モテキ』です。
このドラマは毎回、J‐POPの曲名がサブタイトルになっており、その曲以外にもドラマで使用した曲をモテ曲と呼び、時にはカラオケのように歌詞が出て歌うところの文字の色が変わっていったりします。
また、主人公の妄想シーンがマンガになっていたり、太っていたころの主人公を思わずツッコミたくなるぐらい別人の俳優さんが演じていたり、段ボール箱で作ったタイムマシン(?)で過去にさかのぼって回想シーンになったりと遊び心満載でユニークでした。
そして、主人公の困らせ方も、異性にモテるという今までにないユニークな困らせ方をしています。モテることは普通、困ることではありません。逆に、とても喜ばしいことで大歓迎なはずです。
が、森山未來さん演じる『モテキ』の主人公・藤本幸世は、どうせ自分なんて……が口癖の超ネガティブ男で、自分から行動を起こそうとはしないへタレ。しかも今まで彼女ができたことが一度もないので、恋愛経験値はゼロ。
そんな幸世にも、人生で必ず一度は訪れるというモテる時期=モテ期がやってきて、もちろん幸世自身は大喜びで大歓迎なのですが、同時に、どうしていいか分からず困らせられるのです。
幸世のモテ期は3人の女性から、お誘いの電話やメールが次々に入るところから始まります。
一人目が野波麻帆さん演じる土井亜紀。以前、同じ会社で派遣として働いていて野外ロックフェスに一緒に行ったのですが、ケンカしていた亜紀の彼氏が現れたことから、超ネガティブ思考が働き、幸世は何も言わず帰ってしまったのでした。
二人目が満島ひかりさん演じる中柴いつか。音楽やマンガの趣味が同じで、一緒にいると互いに気が楽なのですが、恋愛感情までにはならず、しかも、いつかは幸世の親友に片思いしているのです。
三人目は松本莉緒さん演じる小宮山夏樹。偶然の出会いから、当時、引きこもりのような生活で太っていた幸世が、人生で一度だけ自ら行動を起こしダイエットしたという、幸世にとって人生で一番好きになった女性。夏樹は酒に酔うと、何もかもどうでもよくなって誰とでも寝る癖があり、幸世にもチャンスがあったのですが自ら逃しています。
こんな三人に誘われても、今さら会わす顔がなく困ってしまいますが、幸世は断ることもできずノコノコ会いに行きます。
亜紀とはクラブのイベントに行き、亜紀が自分のことを好きなのかもしれないと盛りあがった幸世は、舞い上がって亜紀の手を取りステージの前に行こうとしますが、転んで機材に突っ込んで頭から血を噴き出してしまいます。
いつかとは岩井俊二監督のドラマのロケ地めぐりに出かけるのですが、終電がなくなり、温泉旅館に一緒に泊まることに。二人でベッドに入りキスを交わしますが、恋愛経験の少なさからモタモタしているうちにキレられ、結局、深夜高速バスで帰ってくることになってしまいます。
夏樹とはバーで会うのですが、「もう帰るわ」と席を立った幸世を、夏樹が追いかけてきて激しいキスを交わします。そして、そのままホテルへ。ところが、幸世の下半身が役に立ちません。それ以来、幸世のジュニアは、まったく立たなくなってしまいます。
幸世は、こんなことならモテ期なんか来ない方がよかった……と。しかし、モテ期は、まだまだ終わりません。
誕生日の飲み会で傷ついたいつかを慰め、幸世の親友への片思いを諦める後押しをしたことから、幸世はいつかと友だち以上の関係になります。
一方、幸世に好意を抱いていた亜紀とも再会し二人の仲も進展します。が、とあるマンガ家が亜紀に一目惚れ、亜紀は週末、そのマンガ家のマンションに身の回りの世話に行くことになり、幸世は気が気でなく、何と、そのマンガ家の大ファンであるいつかをマンションに連れていってしまいます。いつかと亜紀の鉢合わせ状況を幸世自身が作ってしまい右往左往するのです。
さらに亜紀に責められた幸世は亜紀にキスしますが、なおも亜紀に責められ、その場から逃げ出すという最悪の行動を取ってしまいます。また、亜紀とのキス現場に居合わせたいつかからも痛烈なメールが送られてきて……。
モテればモテるほど主人公は、より困らせられ、より窮地に追い込まれ、より右往左往する羽目になるのです。
幸世の行動が解決策になっていないことにも注目してください。というより、むしろ問題を解決しようとして行動するのですが、より悪い方へ悪い方へと陥っていってます。
解決策を考えなくていいなら、どんな困らせ方でも思いきって発想できるでしょ?
ぜひ『モテキ』のような今までにない主人公の困らせ方を描いてみてください。
これで、あなたもパラダイス!
出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P69より
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