シナリオセンターの講師陣に聞きました「夏オススメ ちょっと大人になれる映画」
学生時代の夏休み、時間を持て余して、なんの気なしに観た映画がその後の人生に凄く影響してる。
なんてこと、ありませんか?
人生、恋愛、友情、などなど、深く考えられる映画との出会いって貴重ですよね。
そこで今回、「夏オススメ ちょっと大人になれる映画」を、シナリオセンターの講師陣に聞きました。
メンバーは、
普通にしてても「真面目ねぇ」と言われちゃう吉田講師(本科)
夏でも涼やか内藤講師(基礎講座)
映像も舞台も大好き横山講師(通信講座)
――のお三方です。
こちらをご参考に、思春期のお子さまがいらっしゃるかたは話のキッカケに、大人のかたはまたちょっぴり大人に、なってください。
吉田講師おすすめ:「大人になるってこういうことかな」と考える3本
①『ビッグ』【1988年/アメリカ】
望みを叶える魔王のボックスに「(身長が)大きくなりたい」と願いをかけたら、翌朝大人になっていた主人公のジョシュ(トム・ハンクス)。中身は13歳の少年なのに、「子供の心をもった純粋な大人」として仕事がうまくいき、「女性に手を出さない紳士な人」と恋もうまくいってしまう。
ですが、日が経つにつれて、彼は「いわゆる大人」になってしまいます。これを観ると、大人の定義って何だろうと思うんですよね。奥が深くて考えさせられます。
でもこれはコメディ。大人になったジョシュが大きな鍵盤で音楽を奏でるシーンがあるんですが、このシーンが凄く楽しくて強烈な印象を残します。こんなに楽しいのに、考えさせられる余韻もきちんと残せるなんて。こんな脚本が書けたらいいな、って思いますよね。
■製作スタッフ・キャスト=原作:B・B・ヒラー、ニール・ヒラー/脚本:ゲイリー・ロス、アン・スピルバーグ/出演:トム・ハンクス、エリザベス・パーキンス
②『台北の朝、僕は恋をする』【2009年/台湾】
この映画は、青年カイ(ジャック・ヤオ)が、恋人のいるフランスに行くためにある“ブツ”を運ぶことになり、そこから色々な騒動が起こります。
これを観たら、100%スキになると思います!主要な登場人物が主人公含めて11人出てくるんですが、11人のキャラクターひとりひとりがよく描けています。一瞬のシーンでも、登場人物の魅力を描いているので、悪いキャラクターも観ていると好きになっちゃう。観ているうちに全員好きになっちゃうんですよ。
みんな、人を拒否しないし、排除しない。許してあげたり、受け入れるんですよ。この登場人物たちをみていると、「心が広くありたいなぁ」と思うし、「おおらかに生きるってこういうことだな」と考えてしまいますね。
今回、3本選びましたが、この中で1本決めてと言われたら、この作品を最もオススメしますね。性別や年齢関係なく、この映画を観た人はみんな、絶対、好きになると断言します!
■製作スタッフ・キャスト=製作総指揮:ヴィム・ヴェンダース、メイリーン・チュウ/監督・脚本:ア―ヴィン・チェン/出演:ジャック・ヤオ、アンバー・クォ
You Tube シネマトゥデイ 「映画『台北の朝、僕は恋をする』予告編」より
③『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』【1997年/アメリカ】
もし親友が天才だと分かったらどうしますか?
この映画は深い心の傷を負った天才青年と、同じく失意の中にいた精神分析医がお互いに成長していく物語ですが、一番注目してほしいのは、主人公の悪友・親友であるチャッキー(ベン・アフレック)。チャッッキーはどう思っているんだろう、って考えちゃうんですよね。
で、その答えはセリフだけじゃなくて、ラストシーンの仕草や表情でも観客に伝わるんですよ。というのは、ファーストシーンとラストシーンが“対”になっているから。これが泣かせるし、“旅立ち”というのがよく分かる。こうやって伏線を張って回収すると、シーンが生きるんだな、と勉強にもなります。
この映画を観ると、僕にはそこまでの友人っていたかな、なんて考えてしまったり…。「こんな親友がいるのに!」と思うと泣けてしまう作品ですね。
■製作スタッフ・キャスト=監督:ガス・ヴァン・サント/ 脚本・出演:マット・デイモン、ベン・アフレック/出演:ロビン・ウィリアムズ
内藤講師おすすめ:同じ夏設定でも、家族の見せ方が逆な2本
④『歩いても歩いても』【2007年/日本】
15年前に死んだ兄と比較されて育ち、実家に居心地の悪さを抱いている横山良多(阿部寛)が兄の命日に、妻・息子とともに実家に帰省し1泊する話です。こう聞くと「よくある家族もの」と思いがちですが、美談にはせず、作り物感ゼロ。日常を正面から捉えています。いいシーンがギューと凝縮されてます。
例えば、母親(樹木希林)が亡くなった兄の思い出を話すシーン。でもこのエピソードは主人公の話だったりする。こんな感じで、和やかな雰囲気になってきたかなと思うと、母親が悪気なくぶち壊してしまう…。「なんでソレをいま言うの!」っていうこと、日常でもよくあるじゃないですか…。
登場人物たちと一緒に気まずくなれるのは、登場人物のキャラクターを細部まで設定しているから。特に、背景と事情の設定が凄い。だから登場人物ならではの葛藤が描けていて、セリフ1つ1つにグサッときます。タイトルの意味も、小道具を使ったシーンでハッとさせられます。
この映画は少ししんどいかもしれませんが、「これが現実だよね」と思える。夏に帰省する人もそうでない人も、「家族」を体感できますよ。
■製作スタッフ・キャスト=原作・監督・脚本:是枝裕和/出演:阿部寛、夏川結衣
⑤『腑抜けども、悲しみの愛を見せよ』【2007年/日本】
話自体は「両親の死をキッカケに姉妹が大ゲンカする話」と奇抜ではないのですが、登場人物のキャラクターが強い強い。いい人、1人も出てきません。ここまで最低すぎるキャラクターにすると、こんなに面白くなるんだなということがよく分かります。
主人公の澄伽(佐藤江梨子)は女優志望でスタイル抜群の美人ですが、どこまでも計算高く、性格が悪い。ある理由から妹の清深(佐津川愛美)を徹底的にいたぶりますが、この妹も狂気に溢れているし、兄の宍道(永瀬正敏)も性格が歪んでいます。
この最低な人たちのやりとりをさらに面白くさせているのが映像の使い方。特に後半、妹が“ネタばらし”するシーンの声とカオに仕掛けが!この作品は本谷有希子さんの同名大ヒット戯曲を映画化したものですが、この映画では映像ならではの面白さをふんだんに使っています。
『歩いても歩いても』とは真逆で、いい意味での“作り物感”が満載。でも、人間のエグい部分を、ビビットな色彩と、ぶっとんだ展開で描かれています。この爽快感は夏にピッタリ!
■製作スタッフ・キャスト=原作:本谷有希子/監督・脚本:吉田大八/出演:佐藤江梨子、佐津川愛美
横山講師おすすめ:○○と比べながら観るとさらに面白い3本
⑥『キューティ・ブロンド』(2001年/アメリカ)
女子大生のエル(リース・ウィザースプーン)は陽気な性格、ブロンドでスタイル抜群。なのに、その容姿を理由に恋人に振られてしまい、一念発起してロースクールに進学します。
エルのキャラクター設定がうまいんですよ。おバカだと思われていた子が実はすごく有能だった!っていうドラマはよくありますが、そういった場合、すぐ考え付く主人公のキャラクターは「地味で冴えない」となりがちじゃないですか。
でも、エルは美人で性格が良くて人気者。普通だったら共感しづらいのに、観れば観るほど好きになるし応援したくなる。完璧なキャラクターなのに感情移入できるのは、憧れ性だけじゃなく、「私と一緒だ」と感じる共通性もきちんと持たせているから。私は落ち込んでいるときに観たんですが、凄く元気づけられました。
この作品は神田沙也加さん主演で舞台化されていて2019年に再演するので、見比べるのも面白いのでは。働く大人が観ても元気が出るし、10代の多感な時期だったら余計にスカッとするんじゃないかな。女子だけでなく男子にもオススメ!
■製作スタッフ・キャスト=原作:アマンダ・ブラウン/監督:ロバート・ルケティック/脚本:カレン・マックラー・ラッツ、キルステン・スミス/出演:リース・ウィザースプーン、ルーク・ウィルソン
You Tube TohoChannel 「『キューティ・ブロンド』神田沙也加×桜 稲垣早希 特別インタビュー」より
⑦『オールド・ボーイ』【2013年/アメリカ】
アルコール依存症気味の妻子持ちの中年男性が突然何者かにさらわれ、監禁される。閉鎖された部屋のテレビで、自分が妻殺しの容疑者になっていることを知る。数年後、男は突然解放される。容疑者として警察に追われながらも、自分を陥れた相手を探し始める…、という内容です。
これを観ると、うっかり言ってしまったことがキッカケで予想もつかないことが起きてしまうんだ、とか自分がおかれている状況と照らし合わせて色々考えちゃうと思います。
設定が面白いなぁと思ってたら、2003年に公開された韓国映画のリメイクでした。
と思っていたら、原作は日本のマンガでした(笑)。
もっと面白いのは、日本のマンガ・韓国映画・ハリウッド映画で、微妙に設定や内容が違っています。それで私、自分のサイトに分類表を作りました!お国柄も出ているし、3本見比べるとさらに面白いですよ。
夏にホラーとして観のもいいし、シナリオを勉強している人にとっては、逆輸入でこの映画を日本でやるとしたらどう描くかを考えるのもいいのでは!
※『オールド・ボーイ』国別分類表は、こちらの横山恵美講師プライベートブログ【ライターズパレット通信「オールドボーイ」に関する一考察】からご覧ください。
■製作スタッフ・キャスト=製作総指揮:ジョー・ドレイク、ジョン・パワーズ・ミドルトン、ピーター・シュレッセル/監督:スパイク・リー/脚本:マーク・プロトセヴィッチ/出演:ジョシュ・ブローリン、エリザベス・オルセン
You Tube シネマトゥデイ 「映画『オールド・ボーイ』予告編」より
⑧『サマータイムマシン・ブルース』【2005/日本】
『キューティ・ブロンド』は映画から舞台化されましたが、この作品は逆。原作は、私が大好きな京都の人気劇団「ヨーロッパ企画」の舞台。ヨーロッパ企画さんの舞台は「映像への挑戦」が特徴の1つだと思ってます。
この作品はタイムトラベルを扱ったものなので、それを舞台だからこそ出来る方法を色々使って表現していました。この映画にもそのスピリットは共通していて、「映像じゃないと出来ないこと」が沢山!そんな色々な映像表現を使って「突然現れたタイムマシンに翻弄される、ちょっとおバカな男子大学生」を描いています。
10代の子が観ても、50・60代のかたが観ても「分かる!分かる!」と共感できると思います。タイムトラベルといっても戻るのは昨日。だけど1日戻っただけでこの主人公は成長するんですよ。スカッとするけど切なくもある。夏の終わりに観てほしい!
そして、この映画を観たら、舞台も観に行きたくなるはず!映像と舞台、それぞれ魅力がある作品です。
■製作スタッフ・キャスト=原作・脚本:上田誠/監督:本広克行/出演:瑛太、上野樹里
あらすじなどの詳しい情報はこちらでチェックしてみては?
※Yahoo!映画サイト『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』はこちらから
※Yahoo!映画サイト『キューティ・ブロンド』はこちらから
※Yahoo!映画サイト『サマータイムマシン・ブルース』はこちらから