故郷の代わりに
シナリオ・センター代表の小林です。シナリオ・センターの夏休みも終わりました。
お盆に故郷へお帰りになった方もおいででしょう。
私は、東京が故郷で、生まれたところに今も変わらず住んでいますので、ひたすら家周辺を徘徊するにとどめておりました。(笑)
東京で、ちまちまと出かけておりました。
夏休み初日、是非とも行きたいと思っていた「川端龍子~超ド級の日本画~展」にいきました。
川端龍子は日本画の画家ですが、洋画も描かれる方なので、日本画の常識を打ち破り、洋画の域を超えた作品を描かれます。
迫力に満ちたスケールの大きな龍子作品は「昭和の狩野永徳」と称されました。
絵画のタッチもそうですが、私は龍子の発想に驚きます。
どの作品も、眼をみはるばかりの構図です。発想のすごさに息をのみます。
そこに魅せられてしまいます。
透明な戦闘機
私が、一番好きなのは「香炉峰」。
龍子は、海軍省嘱託画家として偵察機に同乗、そこからみた廬山の景観を描いた作品なのですが、なんと戦闘機の機体が半透明で描写され、景観が透けてみえ、かつパイロットを自身の姿として描いているのです。(チラシの上に載せていますのでみてください)
プロパガンダの一環として陸海軍が有名画家を従軍画家として召集、戦意高揚の画を描かされました。
川端龍子もその一人だったのでしょうね。
戦後、従軍画家はその責任を問われ、藝術とも認められないという厳しい弾劾を受けました。藤田嗣治などは有名ですね。
ところが、川端龍子は、偵察機を半透明にする、パイロットは自分自身を描くことで、見えない形で軍の言うことなど聞いていないのです。で、それがばれていない。(笑)
この機転の利いた反骨精神というか、頭の良さに、この絵を見るたびに惚れ惚れしてしまう私です。
そして、もうひとつすごいと思わせられるのは、パッと見、とてもさわやかに描かれた夏野菜の画。
実は自宅の前に米軍が落とした爆弾によって、吹き飛んだ家庭菜園の野菜たちなのです。よーくみると・・・。
タイトルは「爆弾散華」
御存じでしょうか。全滅を玉砕と言い、戦死したことを散華と言い、きれいな言葉で戦争を美化していた日本を。
龍子のつけたウイットに富むタイトル、焦げた夏野菜の蔓、葉っぱ、さりげなくやるんです。子の方は。(笑)
つい8月なので、いかにも反戦画家のように書いてしまいましたが、龍子はそれだけではなくもっとスケールの大きな人なのです。
尾形光琳を尊敬していた龍子は、杜若を光琳そっくりに描いたりします。
社会的な記事、金閣寺炎上なども描かれていますし、小さな子供も喜ぶイラスト的な絵も、挿絵も描かれますが、どれもこれも並みの構図ではないのです。
創造というのはこういうことだ!と。
是非とも観ていただきたいです。8月20日までは、恵比寿の山種美術館で。
それ以降は、大田区立龍子記念館でご覧になれるかと思います。
発想というのは、ものごとを正面からとらえるだけでなく、正面を描くのではなく、縦横無尽にみていくところから始まるのだと思います。
作家の視点とは何か、作家性とは何かを教えてくれる川端龍子です。