プロの脚本家になるなら打たれ強くなって!
ゼミで作品を発表して、仲間から感想をもらったとき、「そうじゃないんだけど…」と感じたことありませんか?
自分が意図したこととは違う捉え方をされると、「気にしない!」と思っても引きずってしまいますよね…。
でも、こういったことは現場では日常茶飯事なはず。
現在、絶賛公開中の映画『メアリと魔女の花』の脚本を手掛けた出身ライターの坂口理子さんはこう仰います。
「打たれ強くなって!図太くなって!!鼻っ柱の強さを失わないで!!!」
この心のもちかたは、脚本家を目指すためにすごく必要なことではないでしょうか?
ではもっと具体的に、どんなことが必要なのでしょうか。
今回は、映画『メアリと魔女の花』の公開を記念して超緊急開催した「Theミソ帳倶楽部~達人の根っこ~」から、プロの脚本家を目指すために必要なことについて、坂口さんとプロデューサーの西村義明さん(スタジオポノック)おふたりのコメントをご紹介します。
「自分が思ったことは人には通じない」と思って取り組む
〇西村さん:
いま一度、原点に立ち返って、子ども達にむけたアニメーションを作ろうと思ったときに、僕の好きな児童文学作家のケストナーが言っていた「大事なのは何が悲しいかじゃなくて、いかに悲しいかなんだ」って言葉を思い出しました。
脚本を作っていくと、設定ばかりを考えることもあります。何をどうする、こうやるとこうなるって。これは「何が」を作るための装置ですね。
でも、子ども達にとって大事なのは、「いかに」だっていうこと。それは、脚本・演出家が共有しながら作っていきたいところでもあります。大人にとっては取るに足りないことでも、子どもにとっては一大事なんだということは。
〇坂口さん:
脚本を書くときは、「子供の視点って何なんだろう」とか、あるいは「誰に向けて書いているのか」とか、「誰に見てもらいたいのか」というのを考えますね。というのは、脚本家は文字のチカラだけで格闘するからです。そこが脚本の難しいところであり、面白いところでもあります。
だから極端な話、「自分が思ったことは人には通じない!」と思って取り組んだ方がいいんじゃないかと。文字で伝えられることには限りがあります。齟齬があるのは当たり前。自分が意図していない捉え方をされたとしても、とことん話し合えばいいんです。
『メアリと魔女の花』では、米林宏昌監督や西村さんなど、スタッフの方々ととことん話し合って作れました。こういった環境はとても恵まれていることだし、とても意味があったと思っています。
自分以外の考えも楽しむ
〇坂口さん:
脚本コンクールに出す作品は「自分だけのもの」。いわば“秘密の花園”でいられますが、映像化されるとなると、自分以外の考えや想いも加わります。
これを「私はそんなこと書いていないのに!」と思わず、「そういう描き方もあるんだ!」と楽しむことが大事なんじゃないかなと思います。
〇西村さん:
メアリってほうきから何回も落ちるんですよ。ワーって落ちて、「イテテテ」って記号的なシーンが何回かあって。ただ1回、ほうきがボワンって膨らんでメアリが落ちる前にほうきがクッションになって、転がって行くというシーンがある。
メアリを頭から落とすというのが、監督の指示だったんですけど、そのアニメーターだけは、頭から落とさなかった。絶対、メアリを落とすもんかっていうアニメーターの気持ちが乗り移っている。
その結果、ほうきのキャラクターが出来上がった。これがアニメーションの醍醐味。アニメーターが物に対して命を宿すってことです。
自分の脚本を信じるのも愛せるのも自分
〇西村さん:
坂口さんと高畑監督が共同脚本をされた『かぐや姫の物語』が第87回アカデミー賞の長編アニメーション映画部門にノミネートされた時に、授賞式に出たんです。
そこで、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』という作品で「脚本賞」を取った人がいました。その人は、舞台上で受賞コメントをワーって喋り出したんです。
「わたしは16歳のとき、自殺をはかりました。自分が人と違う、変人に思われて、どこにも自分の居場所はないんだと思っていました。でも、いま、私はアカデミー賞の場に立っています。この瞬間を、そのような子供たちに捧げたい。変で、人と違って、どこにも居場所がないと思っている子どもに。そして、こう言いたいのです。居場所はある。必ず居場所はあるんだって」。
彼はこう続けました。「Stay weird, Stay different.」。変であれ、異なるものであれ。オリジナルとは、独特ということですよね。独特とは周りと異なっているということで、つまり、変であるっていうことです。
書き続けてください。
〇坂口さん:
『メアリと魔女の花』の脚本を書くのはすごく楽しかった!だって、大の大人が「箒で空を飛ぶ」と書けるんですよ(笑)。
こういう楽しいことをするべく、皆さんはシナリオ・センターに来てチカラをつけている。
自分の脚本を信じることができるのは自分。愛せるのも自分だけ。
私は『メアリと魔女の花』を観た子どもたちが30年後、「メアリ、本当に良かった!」と言ってくれると信じています。もちろんこういった自信も、本当にそうなるまでは自分の心の中だけでこっそりと信じていればいい(笑)。今日は皆さんに言っちゃいましたけど(笑)。
どうか自信をもって、脚本を書いてください。そして、自分の脚本を愛してあげてください。
プロの脚本家・小説家は、自分の作品を愛し抜いている
出身小説家・脚本家の大山淳子さんもこう仰っていました。
「今、目の前にある自分の作品を、たった一枚でも二枚でも、自分が書いたものを見捨てず、たっぷり愛して、何度も書き直して、育ててください。」
プロの脚本家・小説家は、自分の作品を愛し抜いています。
だから皆さんも、自分の作品を愛し抜いて、今回ご紹介した脚本家を目指すために必要なことを、ぜひ心掛けてみて下さい!
※大山淳子さんのコメント詳細は、こちらのブログ【「見捨てず、愛して、書き直して、育てる」/小説家・脚本家としての信条】からご覧ください。
プロフィール
・坂口理子(さかぐち・りこ)
脚本家。映像会社勤務を経て、脚本学校のシナリオ・センターに。 2006年、『よいお年を』でテレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞、『おシャシャのシャン!』で第31回創作テレビドラマ大賞(日本放送作家協会主催)最優秀賞を受賞。 2011年、フジテレビ「月9」枠『私が恋愛できない理由』の脚本を担当(山崎宇子との共同脚本)。2013年、高畑勲監督との共同脚本、「かぐや姫の物語」が公開。2017年公開映画『メアリと魔女の花』の脚本を米林宏昌監督とともに手掛けた。
・西村義明(にしむら・よしあき)
スタジオポノック代表取締役/プロデューサー。2002年にスタジオジブリ入社。『ハウルの動く城』『ゲド戦記』『崖の上のポニョ』の宣伝に参加後、『かぐや姫の物語』プロデューサーに就任。2014年、スタジオジブリの制作部解散によりジブリを退社。2015年、アニメーション映画制作会社「スタジオポノック」を設立。スタジオポノック第1回長編作品として2017年『メアリと魔女の花』公開。