シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“その達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』よりご紹介。
今回の達人は、仮面ライダーや戦隊シリーズのシナリオを手掛けている出身ライターの小林靖子さん。特撮ライターになったキッカケや特撮ドラマを書く上で大切にしていること等々、貴重なお話を沢山お聞き出来ました。
第1話の大切さ
まずはじめに、皆さんの中で〝戦隊〟と〝ライダー〟の違いがわからない、という方いらっしゃいますか?(笑)。大丈夫でしょうか。一般の方は意外と区別がつかないんですよ(笑)。
ご存知の通り、戦隊とライダーは1年もののシリーズです。1年ものというと、今、他にはNHKの大河ドラマしかありません。
1クールの連ドラと共通することもあります。「第1話の大切さ」です。
『仮面ライダー龍騎』と『侍戦隊シンケンジャー』と『仮面ライダーオーズ』のそれぞれ第1話冒頭、主人公が登場するまでのシナリオを用意しましたので、見てみましょう。
第1話というのは、視聴者にとっては第一印象であり、この作品はこういう世界で、こういう事件が起こり、こういう主人公がいます、というのを、なるべく早く明確に伝えなければいけません。
これはコンクール作品にも共通するポイントだと思いますので、書かれる際には冒頭に注力して、インパクトのあるシーンを心掛けてみてください。
キャラクター作りの工夫
戦隊ものはライダーものよりも対象年齢を下げています。
戦隊は3~5人の主人公がいますから、見た目で子供にもすぐに違いが分かるように、かつ性格もちょっと記号化した感じにするようにします。
戦隊はレッドが中心ですから、5人全員を目立たせる必要はないんですが、各キャラクターに生きた人格を持たせれば、レッド以外のキャラも死ぬことはありません。
ライダーはもうちょっとリアルに振ります。
普通にいるようなキャラにします。戦隊とライダーは日曜日の朝に連続して放映していますので、お互いファンの取り合いにならないようにうまく住み分けしているんですね。
私はあまり「当て書き」ということは意識しないのですが、役者さんが演じやすいセリフを心掛けています。
それはイコール、感情が乗せやすいということです。「自分のキャラがなぜこのセリフを言っているのかわからない」と役者さんが悩んでしまうのではまずい。
出来上がった映像を見て、「この役者さんはこういう表情をするんだな」と思ったら、その魅力を強調したりすることもあります。
その結果として、視聴者の皆さんに「キャスティングがハマっているな」と思っていただけるのであれば、ありがたいですね。
特撮ものならではの工夫として、ヒーローの名前を呼びやすくすることがあります。
名前を叫ぶシーンが多いので、発音しやすく、力強く聞こえるような名前を考えています。漢字の字面も、主役にふさわしいカッコいいものになるよう、企画班一同で相談して決めています。
ヒーローはカッコよく
子ども番組としての制限はあります。残酷すぎる表現はダメとか、暗くしないとか、なるべく平易な言葉を使うようにするとか。
ただし、あえてむずかしい言葉を使うこともあります。
なぜかというと、それによって親子の会話が生まれることもあるからです。子供たちにナメられたら負けなので(笑)、ちょっとだけわからないように加減しています。
スポンサーからの制限というのは、皆さんが思っているほどにはないですね。なにより、子供たちにヒーローをカッコいいと思ってもらうことが重要なんです。真似したいと思ってもらえるように。
今の視聴スタイルは、簡単に録画できるようになっていますから、繰り返し観てくださる方が多い。ですから何度観ても面白いと思われるようなポイントを作るようにしています。
悪者のキャラ設定は、視聴者に「絶対に倒してほしい」と思わせる要素を作ります。たとえ視聴者が悪者に感情移入して「倒してほしくない」と思ったとしても、倒すことでドラマ上のカタルシスを生むことは可能です。
それが視聴者の満足につながる。観ている人の気持ちを第一に考えます。
「悪者が倒されて泣けたな」というのも、ひとつの満足感。あまり悪者だけに感情移入させず、最終的にヒーロー側を立てられればいいんです。
※You Tube
東映特撮YouTube Official
仮面ライダー龍騎 第01話[公式](仮面ライダー50周年記念)
特撮ライターとして
番組を作る前に、プロデューサー、ディレクター、ライター、企画班が集まって、時間をかけて何度も打ち合わせをします。
朝から深夜まで話し合って、また翌朝集合ということも。設定とか、バトルフィールドをどこにしようとか、皆でアイデアを出し合うんです。そうして作品世界を作り上げていきます。
東映特撮の場合、一度に2話分撮ります。その方が効率がいいからなんですが、シナリオの発注も2話分です。
打ち合わせをしてからプロットを上げるまでに1週間。その1週間後に第1稿。その後は適宜直しをしていきます。
第1稿でそのままOKとなることはめったになくて、最大で5稿になったこともあります。大体2話を完成稿にするのに、2週間か3週間はかかります。
でも、1か月に4話作らなければいけないので、だんだん計算が合わなくなってくる(笑)。
シナリオ・センターのプログラムはプロの現場と全く同じ
私がシナリオ・センターで学んだ中で一番勉強になったのは「アウトプットすること」です。
毎週1本、20枚シナリオを書くというのは、案外むずかしい。私はとにかく書くということを自分に課したところ、アウトプットする力がついて、これがプロになってからものすごく役に立ちました。
皆さんは普段お仕事されていると思いますし「忙しい」とか「病気になった」とか、何かと書けない理由を作っちゃうと思うんですが、それをしたらプロにはなれません。
お題をいただいて、締め切りがある。締め切りまでに絶対書いてエンドマークを打つ。シナリオ・センターのプログラムはプロの現場とまったく同じなんですね。違いはギャラがないことだけです(笑)。
勉強中は、もう書きたくてたまらない、書きたいことがたくさんあって困る、というぐらいじゃないと困る。なぜならプロになると3年くらいで「書きたい」という気持ちがなくなってしまう。
だから今、勉強中の段階で、書けないとか、スランプっていうのはダメです。
私にも「書けない」という時はありますが、それでも書く。それがプロです。プロデューサーからの電話、締め切り、撮影が迫っている、放映ができなくなったら大問題……そうやって自分を追い込んでいくんですね。
自分から動く
私はテレビ朝日の番組宛に、戦隊もののシナリオを送って、それを読んだ東映プロデューサーから連絡をもらったのがきっかけでした。
内容がマニアック過ぎず、尺もちょうどよかったという点を気に入られたようです。それから1年くらい、印刷台本を送っていただいていたんですが、でも自分からは何もしなかった。
すると台本が送られてこなくなりました。そこで初めて「これはヤバい、自分から動かなきゃいけない」と思い、プロットを書いて提出するようになったんです。
そうやってデビューして今に至るわけですが、自分からアクションを起こせば、道は開けていくのではないかなと思います。デビューの道は人によって違います。
戦隊・ライダーのシナリオライターになりたいと思う方は、誰にでもチャンスはあると思うので、熱意をもってチャレンジしてください。
特撮ライターの年齢層は年々上がってきているので、若い力が必要です。ある水準以上のクオリティの作品を、コンスタントに上げられる、底力のある人が求められていると思います。
出典:『月刊シナリオ教室』(2012年1月号)より
ダイジェスト「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」
小林靖子さん 特撮ライターの根っこ
~何度見ても面白いと思ってもらえるように~
2011年9月21日・10月4日採録
プロフィール:小林靖子(こばやし・やすこ)
1993年、『特捜ロボ ジャンパーソン』第40話でデビュー。特撮テレビドラマでは『星獣戦隊ギンガマン』『未来戦隊タイムレンジャー』『侍戦隊シンケンジャー』『仮面ライダー龍騎』『仮面ライダー電王』『仮面ライダーオーズ/OOO』『特命戦隊ゴーバスターズ』『烈車戦隊トッキュウジャー』など。アニメでは『ジョジョの奇妙な冒険』『進撃の巨人』『賭ケグルイ』『どろろ』などの脚本やシリーズ構成を手掛けており、その他代表作多数。2020年に脚色を担当したドラマ『岸辺露伴は動かない』は、ギャラクシー賞テレビ部門の2021年1月度月間賞および第58回ギャラクシー賞 奨励賞を受賞。
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