食欲の秋。
ということで、食欲がさらに湧くオススメ映画をご紹介!
シナリオセンターの講師陣がオススメする9作品はどれもおいしい“ごはん”が出てきます。
でも、「おいしそう」だけで終わらせるのは勿体ない!
今回オススメする映画に出てくる“ごはん”は、あるときはドラマのキーに、あるときは登場人物の想いや状況を示すものに、と「小道具」として巧みに使われています。
シナリオ・センターは今年で創設47周年。これを記念して実施している「47の物語~47都道府県シナリオコンクール~」の課題テーマは“各地区(毎月地区が変わります)×ごはん”。
ぜひ、今回のおすすめ映画と講師陣のおすすめポイントを参考にして、食べ物を小道具に書いてみて下さい。すごくいい勉強になること、請け合いです!
今回の講師メンバーは、
美食家・新井巖講師(作家集団)
韓国料理大好き、久保寺民江講師(本科)
「食べ物の好き嫌いが多いのに、なんで俺!?」と戸惑う松本謙治講師(研修科)
――のお三方です。
①『トム・ジョーンズの華麗な冒険』【1963年/イギリス】
〇新井:食事のシーンで強烈に覚えているのがこの映画。主人公は捨て子のトム・ジョーンズ(アルバート・フィニー)。暴れん坊に成長し、色々な出来事を経験する冒険譚。
トムはある事件をキッカケに大地主の娘ソフィー(スザンナ・ヨーク)と出会う。
この2人が骨付きの肉にむしゃぶりつくシーンがあります。ナイフやフォークなんか使わない。見つめ合いながら、ガ―ッと頬張る。これ見ると食欲、湧きますよ。
また、このシーンは恋に落ちた2人の関係を表すメタファーにもなってると思います。ギラギラと肉にかぶりつく様子は食欲だけでなく、性欲も表しているんじゃないかと。
なんてたって脚本は、シナリオの名手・ジョン・オズボーンですからね。直接的ではなく、ある種のシャレードとして2人の関係性や気持ちを見事に表現してます。
このシーンは凄く印象的だった。皆さんもシャレード(※)のお手本としても観てみてください。
☆製作スタッフ・キャスト=監督・製作:トニー・リチャードソン/脚本:ジョン・オズボーン/出演:アルバート・フィニー、スザンナ・ヨーク
※「シャレードって何?」と思った方はこちらのブログもご覧ください。
ブログ「シナリオの書き方:『シャレード』編:「好き!」なんて言わないで。」はこちらから。
ブログ「映像製作者もおさえるべき「シャレード」という脚本理論」はこちらから。
②『かもめ食堂』【2005年/日本】
〇久保寺:フィンランドの首都ヘルシンキで、日本人女性・サチエが「かもめ食堂」を開きます。
この食堂には特別な料理はありません。メニューは、じゃがいも丸々1個使った肉じゃがとか、おにぎりとか素朴な和食が中心。
食堂なので作る過程が映るわけですが、その手際がいい!ジューと香ばしく揚げるカツ、クルクルと作るシナモンロール等々、食欲そそります!
作る様子に品があって、ただ作っているだけなのに、「いいな!」と思わせる。作っているだけで美味しそうに感じさせるにはどういうト書(※)にすればいいか。シナリオを書く上で大いに参考になります。
☆製作スタッフ・キャスト=監督・脚本:荻上直子/出演:小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ
※「ト書って何?」と思った方はこちらのブログもご覧ください。
ブログ「ト書にもキャラクターを出す」はこちらから。
③『極道めし』【2011年/日本】
〇松本:傷害罪で刑務所に入所した栗原健太(永岡佑)。彼が入れられた204房には“先輩”が4人いて、彼らから年に一度、おせち料理争奪戦があることを聞かされる。これは、思い出に一番残っている“ごはん”を発表して、1位になるとみんなから1品ずつ貰えるという賭け。
栗原が発表したのが、千切りキャベツラーメン。彼にはラーメン屋を目指している彼女がいて、試作品として食べたのがこのラーメンだった。丼の底に千切りのキャベツをしいて、その上にスープ・麺・具をのせる。
俺、食べれる数少ない野菜の1つがキャベツだから「食いてぇ!」って思った!(笑)。今度やってみてください。今までにこういうのなかったんじゃないかな。
観てて思ったのは、やっぱり最終的に人間が食べたいのは、恋人や母親とか自分が愛している人の料理なんだな、と。だから、このラーメン、ほんとに美味そうに感じる。
あと、発表される思い出のごはんエピソードは刑務所に入る前の話だから、回想シーンで出てくるんだけど、回想なのにシーンが途切れたように感じない。こういう使い方もあるんだな、と参考になりますよ。
☆製作スタッフ・キャスト=監督・脚本:前田哲/脚本:羽原大介/出演:永岡佑、勝村政信
※「回想シーンって何?」と思った方はこちらのブログもご覧ください。
ブログ「シナリオの書き方:回想とナレーション!」はこちらから。
なお、このブログに記載されているシナリオ作家養成講座の開校日は終了してます。
最新の講座開講日はこちらからご確認ください。
■You Tube
シネマトゥデイ 映画『極道めし』予告編より
④『ローマの休日』【1953年/アメリカ】
〇新井:『ローマの休日』は、オススメ映画の別テーマのときにも名前が挙がってましたよね(※)。
この映画には参考にすべきシナリオ技術が沢山詰まってるので、色々な角度からオススメしたくなる。
今回のテーマで言うと、特にアン王女(オードリー・ヘプバーン)がスペイン広場でジェラードを食べるシーンに注目してほしい。
美味しそうに食べてる、というのもあるんだけど、もうひとつ。このシーンには、庶民的なものに憧れているアン王女の気持ちが行動に表れています。
ジェラードを食べることは、庶民にとってはどうってことない。でも王女である彼女にとっては初めての特別な体験。
このシーンの他にも、彼女は髪を切ったり、スクーターに乗ったり、日常を満喫します。こういったシーンを積み重ねることで、アン王女のキャラクターも巧く出しています。
シナリオを書く上で学ぶことが沢山あるこちらの映画。ジェラードを食べるシーンを皮切りに色々なことをやってみるアン王女の行動に注目して観てみてください。
☆製作スタッフ・キャスト=監督・製作:ウィリアム・ワイラー/脚本:イアン・マクラレン・ハンター、ジョン・ダイトン/出演:オードリー・ヘプバーン、グレゴリー・ペック
※『ローマの休日』は、こんなテーマでもオススメしてます。ブログはこちらから。
⑤『ショコラ』【2000年/アメリカ】
〇久保寺:排他的なフランスの小さな村にやってきた母ヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)とその娘。ヴィアンヌがチョコレート・ショップを開いてから、色々なドラマが展開します。
チョコレート、食べたくなります。いい香りが漂ってきそうなシーンがいっぱい。
この映画は少しファンタジーというか、浮世離れしたようなところがあって、そんな世界観の中でチョコレートが媚薬の象徴のように描かれています。
チョコレートによって、「チョコなんて不道徳」と言っていた排他的な村の人たちが徐々に変わってきます。チョコレートを「魅力的なもの」として効果的に使うことで、「チョコ食べたい!」ともなるし、「人生、楽しまなきゃ!」という余韻にもつながっています。ぜひこの世界観に浸ってみてください。
☆製作スタッフ・キャスト=監督:ラッセ・ハルストレム/脚本:ロバート・ネルソン・ジェイコブス/出演:ジュリエット・ビノシュ、ジョニー・デップ
⑥『南極料理人』【2009年/日本】
〇松本:南極観測隊に料理人として参加した西村淳さんの原作・エッセー「面白南極料理人」を映画化したもの。
朝は納豆・焼魚・おひたしと3品小鉢が出てきたり、舞台が南極って考えるとすごく豪華。劇中では、お刺身、天ぷら、ブリの照り焼き、伊勢海老、ラーメン等々、いろいろ出てくる、南極なのに。
品数がとにかく多いので、食べることしか楽しみがないんだろうなって。
喧嘩も食べ物のことだし、食べ物に対するワガママも出てきたりして、食べ物って人間の本性が出る。
だからこの映画では、食べ物を通して登場人物のキャラクターが出ています。
食べるって、生きてる証明なんだなとつくづく感じますよ。
食べ物のほかにも、若い男の子の恋愛エピソードも描かれているんだけど、それを観ていると食べることと同じくらい、恋愛もしてないと人間、ダメなんだな、というのも分かる映画です(笑)。
☆製作スタッフ・キャスト=監督・脚本: 沖田修一/出演:堺雅人、生瀬勝久
⑦『喜劇 駅前飯店』【1962年/日本】
〇新井:シナリオ・センター創設者・新井一が脚本に携わっていた「駅前シリーズ」。これは、全24作ある喜劇駅前シリーズの第5作目。駅前大飯店のオープンを目指して大騒動が繰り広げられるというもの。
横浜中華街にあるお店の設定なんですが、即席ラーメンを食べるシーンがあって、そこがなんとも面白い。中華街で即席ラーメンはないだろ!って(笑)。
このシーンで即席ラーメンを食べる理由はないし、大して重要なシーンでもないんだけど、即席ラーメンっていうのが凄く印象に残るし、「え?なんで即席ラーメン?」って笑っちゃう。
ぜひ、シナリオでコメディーを書くときのお手本にして頂きたい。シナリオは、説明という“フリル”をつけてしまうと無駄なシーンになってしまう。
「このラーメンは」なんて、説明したら面白くないでしょ?(笑)。「腹減った!」とか言って突然食べだすから面白い。これはコメディーに限ったことではありません。
シナリオは削ぎ落してナンボ。ですよ!
☆製作スタッフ・キャスト=監督:久松静児/脚本:長瀬喜伴/出演:森繁久弥、フランキー堺、伴淳三郎
⑧『千年の祈り』【2007年/日本・アメリカ】
〇久保寺:アメリカで暮らす娘イーラン(フェイ・ユー)を心配して、北京からやってきた父シー(ヘンリー・オー)。でも、会話は噛み合わないし、この娘がなんだか幸せそうじゃない…。
このお父さん、中華鍋を買い込んで、娘のために2人では食べきれないくらい沢山料理を作ります。でも、何の料理かは分からないんですよ(笑)。家庭料理だと思うんですけど。
見た目は凄く悪い。グチャグチャ。なんだけど、美味しそうなんですよ。そう感じるのは、娘のために作る男の料理だからでしょうか。このお父さんが作るから、見た目が悪くても「食べたいな」って思いますよ。
☆製作スタッフ・キャスト=監督:ウェイン・ワン/原作・脚本:イーユン・リー/出演:フェイ・ユー、ヘンリー・オー
⑨『プルコギ』【2006年/日本】
〇松本:プルコギは出てこないです(笑)。北九州を舞台に、地元で人気を誇る庶民派の焼肉店「プルコギ食堂」と高級志向の大手焼肉店チェーン店「トラ王」が繰り広げるフードバトルもの。
プルコギ食堂でお客さんが七輪で肉を焼いてるシーンがあるんですけど、映像から匂いが出てくるんじゃないかって思うほど旨そう!これ観た後は絶対、「焼肉食いに行こう!」ってなる。
とにかく焼肉が食いたくなる映画。
だけど、それだけじゃない。
プルコギ食堂で修行に励むタツジ(松田龍平)とトラ王の御曹司・トラオ(ARATA)は対立関係にあるんですが、この2人、実は…。この秘密をタツジが知るキッカケが、ある“ごはん”の味。
“ごはん”の「味」を小道具として使ってるんです。この使い方がまたいい!
脇役も豪華で、登場人物のキャラクターも面白いし、つい真似して言いたくなっちゃう“ごはん”がらみのセリフもあるので、その部分も楽しめると思うな。
☆監督:グ・スーヨン/脚本:具光然/出演:松田龍平、ARATA
“ごはん”をテーマにシナリオを書いてみよう!
「47行の物語~47都道府県シナリオコンクール~」実施中
今回オススメした映画を参考にして頂き、シナリオを書いて、ぜひ『47行の物語~47都道府県シナリオコンクール』にご応募ください!
講師・お三方から書く際のアドバイスも聞いてみましたので、こちらも参考にしてくださいね。
新井講師:シナリオの技術を使って書いてください
このコンクールの規定枚数は47行(200字詰原稿用紙約5枚)なので、セリフでサラサラ書けちゃう。でもセリフで逃げてほしくないんです。シナリオは映像にするための設計図ですからね。
極端に言うと、セリフを半分にして書いてみてください。そしてセリフで書かない分、シナリオの技術を使って書いてください。今年のサマーセミナーでも行った方法です。
シナリオを書くとき、「○○について書こう」とは思うけど、「このシナリオの技術を使おう」というように、技術から入ることってあまりしてないですよね?
例えば「シャレードを使おう」と決めて書いてみる。すると、セリフで説明しなくても、伝えたいことが映像で表現できるようになります。
うんうん唸って、どうすればもっと面白くなるか、ぜひベストを追及してください。
久保寺講師:「食べてみたいな」と思わせるセリフやト書を
シナリオを書き馴れている方に起こりがちなのが、考え過ぎてしまい、結果、“ごはん”とかけ離れてしまうこと。「どこに“ごはん”が出てくるの?」とならないように気をつけて下さい。
また、「“ごはん”を食べているだけ」にもならないように。
それから、その“ごはん”がどういうものなのか、もっと言えば、味の想像ができるくらい丁寧な描写を心掛けてください。特にその土地の人しか分からない“ごはん”は、美味しそうに見えてナンボ!ぜひ、「食べてみたいな」と思わせるセリフやト書を書いてくださいね。
松本講師:“ごはん”という小道具の使い方をもっといろんな角度から
大切な人の味や故郷の味って、「母の味」だと思うんですよね。で、お袋の味を表すときって、なんかイイ話になりがちなんだけど、そうじゃなくてもいいんじゃないかなって。
極端な例ですが、東京なら吉野家の牛丼でもおかしくないと思うんですよね。主人公が「俺のお袋の味は吉牛」って言ったら、この人の背景が見えてくるでしょ?
日常の中から、その地域の“ごはん”をひろってくるのも面白いんじゃないかな。“ごはん”という小道具の使い方をもっといろんな角度から捉えて、書いてみてください。