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『 タイガー&ドラゴン 』に学ぶ脚本勉強法/ストーリーを進めない!

「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)からご紹介。
今回は、テレビドラマ『タイガー&ドラゴン』の脚本を題材に、ストーリーを先に進めない方がいい理由を解説いたします。「ストーリーをどんどん進ませなきゃ!」「ストーリーを進ませると既定枚数をオーバーするから、このシーンは削っちゃえ!」というご経験があるかたは絶対にご覧ください。ときには“寄り道”も必要なんです↓

寄り道や道草こそが面白いシーンを生み出す

こんにちは。エンゼル浅田です。あなたのシナリオをパラダイスに導きます。

ゼミで、こんなやりとりをしたことがありませんか?

講師が「もっと、ここを描いたら、すごく面白くなると思いますよ」とアドバイスすると、生徒さんが「そこ、描いていたんです。でも入らないので削ってしまったんです」と答えるのです。

そうなのです。みなさんは、せっかく面白いシーンを描いているのに削ってしまったりしているのです。もったいない!

じゃあ、どうして削ってしまったのか?
20枚に入らないからです。

何が入らないのか?
ストーリーです。

つまりストーリーを先に進めよう先に進めようとして、わざわざシナリオを面白くなくしているといってもいいでしょう。

特に20枚シナリオは枚数が少ないので、ついつい、どんどん先に進めようとしてしまいがちです。

でも、ストーリーを先に進めても、なかなか面白くなりません。

だって真っ直ぐ家に帰るより、寄り道したり道草くったりした方が楽しいですもんね。シナリオも同じです。寄り道や道草こそが面白いシーンを生み出してくれるのです。

でも、たとえ面白いシーンが生まれたとしても、それって必要ないシーンじゃないのかと疑問を持たれるかもしれません。

その通り。必要ありません。

必要ありませんが、シナリオは必要あるかないかより、まずは面白いか面白くないかです。

逆に必要があっても面白くないシーンばかりだったら「よくまとまっているんだけど何か面白くないんだよなあ」というシナリオになります。

そもそも必要なシーンって何にとって必要なのでしょう?
ほとんどの方はストーリーにとって必要か必要ないかと考えているはずです。

ストーリーが過不足なく伝わったとしても、なかなか面白くはなりません。ストーリーで「面白い」と感じさせるのは至難の業です。できたとしても千に三つでしょう。

もちろんストーリーを伝えるために必要なシーンを、より面白いシーンにしようと考えることは大切です。

それと同じぐらいストーリーから多少はみ出してしまうけれど、面白いシーンができないか考えてみてください。

ストーリーにがんじがらめになっていて、はみ出そうにもはみ出せないという方も、意外とたくさんいらっしゃいます。

そんなストーリーの呪縛から解き放たれるためにも、ぜひぜひ、ストーリーを先に進めないコツを掴んでみてください。

『タイガー&ドラゴン』の第7話からみる
ストーリーを先に進めない方法

というわけで『タイガー&ドラゴン』です。

長瀬智也さん演じる山崎虎児はヤクザ。
岡田准一さん演じる谷中竜二は裏原宿の洋服屋のオーナー店長。虎二は借金の取立てで出会った落語家・林屋亭どん兵衛に弟子入りし、どん兵衛の次男である竜二と出会います。

そして、今は洋服屋の竜二が、かつては若くして真打になるほどの落語家だったことを知り…という落語ドラマでありホームドラマです。

毎回、どん兵衛が虎二に落語を教えるという形で前半に落語の演目を高座で演じ、その演目に沿ったドラマが展開します。

そのドラマに沿ってアレンジされた演目を最後に虎二が高座にかけるというパターンになっています。

なので、宮藤官九郎さんの脚本ですが、一話一話の流れがカッチリしていて見えやすく、クドカン独特の意外性や自由奔放さは少なめといえるでしょう。

とても分かりやすくストーリーを先に進めていないのが第7話「猫の皿」の回です。

虎児は、もう一度、竜二に落語をやってほしいと思っていますが、竜二は「落語なんか3回生まれ変わってもやんないからな!」と頑なです。

そんな時、素人お笑いスカウトキャラバンが行われることになり、虎児は竜二を出場させ、どん兵衛にスカウトさせようと考えます。

そして、浅草の洋品店でヴィンテージジーンズを見つけます。それは竜二が喉から手が出るほどほしがっていた68万円はするというヴィンテージジーンズです。それが何と5千円で売っているのです。

これをスカウトキャラバンの賞品にすれば竜二は出場するに違いないと喜ぶのですが、ほんのちょっとした隙にヴィンテージジーンズがショーケースから消えています。店の人に聞くと売ったというのです。

そのヴィンテージジーンズを売った相手がスカウトキャラバン審査委員長を務める落語芸能協会の会長と分かり、結局、虎児はヴィンテージジーンズを手に入れスカウトキャラバンの賞品にすることができます。

ストーリーとしては浅草の洋品店で見つけたところで虎児が5千円で買えばいいのです。わざわざショーケースから消えてしまう必要はありません。

でも、あえてストーリーを先に進めないようにしているわけです。

そのために、ヴィンテージジーンズを見つける前に、落語芸能協会会長に「芸は素人だけどね」と言われた虎児が怒ってコーヒーを引っくり返し会長のズボンを汚してしまうという伏線まで張っているのです。

もし、浅草の洋品店でヴィンテージジーンズを見つけ虎児が買ってスカウトキャラバンの賞品にして…とすると、どうでしょう?

何だか主人公や作者自身にとって都合よく展開させている印象でウソ臭くて薄っぺらな作りもの感が拭えず、つまらないシナリオになってしまいます。

ストーリーの呪縛から解き放たれよう

さて、その後もストーリーを先に進めていません。

ヴィンテージジーンズが賞品になって心動かされる竜二ですが、スカウトキャラバンに出場するのかしないのか、はっきりしません。

「負けるのが怖えんだろ」と虎児は挑発しますが、竜二は乗ってきません。そこで虎児は、竜二がぞっこんに惚れこんでいるメグミちゃんに一芝居うってもらいます。

竜二とメグミが定食屋にいるとテレビでお笑い番組が流れています。

映っている三人組の芸人を見てメグミが「この人たちって面白いよね。メグミ、超好き」と言います。

竜二は「そうかな? よくあるパターンだと思うけどな」と答え「でも面白いじゃん」というメグミに「俺と、どっちが面白い?」と対抗心を燃やします。

するとメグミは「やだあ、リュウちゃんに決まってるじゃん。アハハハハ」と笑います。

竜二がニンマリしたところでメグミは「でも、ふかわりょうはリュウちゃんより面白いと思う。超好き!」と。竜二の拳がワナワナと震え、スカウトキャラバンへの出場を決心するのです。

この、ふかわりょうのセリフは絶品です。

ストーリーとしては「負けるのが怖いんだろ」と虎児に挑発されたところでスカウトキャラバンに出場する決心をすればいいのですが、あえてストーリーを先に進めないことで、このセリフが生み出されたわけです。

逆に、たとえば第5話「厩火事」の回ではストーリーとしては必要なことが描かれていません。

夫婦漫才の上方まるお・まりものまりおは、酔っ払って人を殴って刑務所に入ること3回。出所後は酒を断っています。

虎児とまりおが蕎麦屋にいると、どん兵衛から教える演目を高座にかけるとメールが入り、虎児は蕎麦屋の店主に、まりおが酒を飲まないよう見張っていろと頼んで寄席へ。

しかし、店主もどん兵衛の落語が聞きたくて寄席に来てしまいます。

まるおが一人、酒を我慢していると、衣装のデザイン画を見せに竜二が入ってきます。

そして、事情を知らない竜二が、まるおに酒を飲ませてしまうのですが、どうして竜二が蕎麦屋にまるおがいることを知っていたかは描かれていません。いきなり現れるのです。

もしかしたら虎児に電話で居場所を聞いていたのかもしれませんが、そこは描かれていないのです。

ストーリーの段取りとしては必要かもしれませんが、そこを描いても面白くないからでしょう。ストーリーとしての辻褄を合わせるのに必要だとしても、面白くなければ描かないということです。

どうですか? だいぶストーリーの呪縛から解き放たれてきましたか?

これで、あなたもパラダイス!

出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P104より
シナリオ・センターの書籍についてはこちらからご覧ください。

★こちらのコーナー、次回は10月の第3土曜日に更新いたします。
名作ドラマの“技”を自分のものにしていきましょう!★

ドラマ『タイガー&ドラゴン』データ

2005年1月に2時間単発スペシャルとして放映後、続編として連続ドラマ化。
2005年4月~6月TBS金曜ドラマ22時枠
脚本:宮藤官九郎
プロデューサー:磯山晶
演出:金子文紀・片山修・坪井敏雄
出演:長瀬智也・岡田准一・西田敏行他
平均視聴率12.8%(最高視聴率16.2%)
スペシャルで第42回ギャラクシー賞テレビ部門選奨、連続ドラマで第43回ギャラクシー賞テレビ部門大賞受賞。

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