「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)から紹介。
前回の「小説の描写 情景描写Ⅰ/ 美文を目指すよりもまずは見えるものを書く」に続き、今回も情景描写の方法を解説。「読者がイメージできるような情景を書くにはどうしたらいいんだろう……」というお悩みが解決です!
「情景描写」はキャメラの映像
小説の地の文、「描写」について。小説の主な描写には、
①情景描写
②心理描写
③人物描写
――の3つがあると述べました。
まず①の情景描写。基本的には物語を運ぶ視点者、人物の目線で見えるもの、情景を文章で描いていく。読者は書かれたその描写を読みながら、その場所であったり、人物が見ている風景をイメージする。
前回(※)は情景描写から始まる小説の例として、いきなり大文学者川端康成の『伊豆の踊子』をご紹介しました。
道がつづら折になって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨足が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さでふもとから私を追って来た。
私という一人称ですが、この文章には神的な視点も絶妙に混じっています。しかも非常に映像的です。
映画監督ならば、明らかに俯瞰で天城峠の情景をキャメラが映し、雨がザーッと山から峠に走っていく様をとらえ、峠道をポツンと歩く私の背中にズーム、主人公の顔をアップにして、という演出をしそうじゃないですか。
全体の風景を大きく描き、そこにいる物語を動かす主要人物を捉える
さらに次の文章はこうです。
私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、紺飛白の着物に袴をはき、学生カバンを肩からかけていた。一人伊豆の旅に出てから四日目のことだった。
視点者である私の的確な紹介(人物描写)です。
巧みな情景描写をするには、いつものコツがあるのですが、この『伊豆の踊子』のように、全体の風景を大きく描き、そこにいる物語を動かす主要人物を捉えるというのもひとつの方法です。
例えば、私が大好きな小説の書き出し。
小雨が靄のようにけぶる夕方、両国橋を西から東へ、さぶが泣きながら渡っていた。
双子縞の着物に、小倉の細い角帯、色の褪せた黒の前掛をしめ、頭から濡れていた。雨と涙でぐしょぐしょになった顔を、ときどき手の甲でこするため、眼のまわりや頬が黒く斑になっている。
山本周五郎の『さぶ』です。この時代小説の主人公はタイトルとなっているさぶではなく、この後でさぶを追いかけてくる栄二なのですが。これも空間から人物の姿が映像のように浮かんできます。
余談ですが、『深夜特急』でインドから東を目指して旅をした沢木耕太郎さんは、すれ違った日本人のバックパッカーと小説を交換したら、この『さぶ』だった。沢木さんはこの書き出しの一行を異国の地で読み、どっと涙が溢れて止まらなかったと書いています。
シナリオの初歩で、ファーストシーンから【起】の部分で、「天(いつ)、地(どこで)、人(主人公)」を分からせろと習うはず。小説は文章による描写でそれを読者に伝えていかなくてはいけない。
『伊豆の踊子』は、時代としては主人公の姿から、今ではなく少し前の時代で、天城峠から伊豆が舞台と分かります。『さぶ』はいわずもがな、時代小説としての世界に読者を導いています。
出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2015年11月号)より
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※要ブックマーク!これまでの“おさらい”はこちらのまとめ記事で。
▼「柏田道夫 シナリオ技法で小説を書こう スキル一覧」
※情景描写 Ⅰ ・Ⅲも併せてご覧ください↓
▼情景描写Ⅰ
▼情景描写Ⅲ