「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)からご紹介。
今回は、テレビドラマ『木更津キャッツアイ』を参考に、セリフを磨いていきましょう。ポイントは、セリフを短くすること。「セリフがなんか自然じゃないんだよな…」「セリフが説明的になっちゃう…」とお悩みのアナタ。解決法が見つかりますよ!
セリフを磨こう
こんにちは。エンゼル浅田です。あなたのシナリオをパラダイスに導きます。
パラダイスへの一番の近道は何ですか?
と尋ねられたら、もちろん映像描写も大事だし、ストーリーではなくドラマを組み立てる構成も外せないし、その他もろもろ「シナリオに近道なし!」と言いたいところですが、あえて一番手っ取り早くシナリオを見違えるようにしたいなら、まずセリフです。
生き生きしたセリフが多ければ多いほど、あなたのシナリオはキラキラと輝きます。
耳にタコかもしれませんが、どんなに面白いストーリーにしたいと、あれこれ考えたって、たかが知れています。
もし仮に面白いストーリーを思いついたとしても、セリフが生き生きしていなければ、つまらないシナリオになってしまいます。
だから、あれこれストーリーを考えている暇なんてありません。
さっそくセリフを磨かなくては!
たまに「セリフはセンスだ」とか「セリフが上手いのって持って生まれたものだよね」などと言う人がいます。
確かに、生まれつきセリフが上手い人がいないわけではありません。ごく稀ですが、シナリオを書き始めたばかりなのに、生き生きしたセリフが次から次へと飛び出してくるシナリオに驚かされることがあります。
例外なく女性です。たぶん脳が違うのでしょう。女性は、しゃべる脳なんですね。たとえば男性は立ち話ってしません。しても5分ぐらい。女性は1時間とか2時間とか平気で立ち話してますもんね。
でも、安心してください。男性でも、最初からセリフが上手く書けなくても大丈夫。セリフほど意識して書けば変わるものはありません。本当に見違えるほど上手くなっていきます。
セリフは磨けば磨くほど、より生き生きしてくるのです。
セリフを短くする
セリフを磨く第一歩は、セリフを短くすることです。
できれば1行にしてみてください。
『木更津キャッツアイ』のDVDの特典映像に収められているインタビューで宮藤官九郎さんは、こう語っています。
「だいたい1人のセリフを1行と考えてて、改行すると、これ改行してまで言いたいことかって思うんですよ。
1行におさめた方がカッコイイんじゃないかって思っちゃうから、2行になるほどじゃないな、このセリフはって思ったら、セリフの中でも切れるとこは切っていこうとすると、結局1人1行のセリフがバーって続くみたいな、自分の中で気持ちいいリズムにすると、ああなっちゃうんですよ」
基礎講座では、セリフの3行ストップという話をしています。3行より長いセリフを書いてはいけないというわけではありませんが、セリフを書いている時に3行になったら、ちょっと手を止めて、もっと簡潔にならないか、説明セリフや文章のようなセリフになっていないか、見直してみてくださいということです。
それが宮藤官九郎さんは2行ストップなんですね。
というわけで、今回取り上げるドラマは『木更津キャッアイ』です。
岡田准一さん演じる田渕公平(ぶっさん)が、あと半年しか生きられないと余命宣告を受けたことから、桜井翔さん演じる中込フトシ(バンビ)たち元高校野球部のチームメイト5人で「木更津キャッツアイ」を名乗り泥棒を始めるという、いわばハチャメチャ青春活劇といった感じでしょうか。
毎回、野球のイニングになぞらえて〇回表という字幕タイトルでドラマが始まり予想外の結果になると、突然、映像が巻き戻されて〇回裏の字幕タイトルが出て実はこうでしたという種明かしになるという仕掛けが、とても新鮮でした。
また、哀川翔さんが哀川さん本人として、AV男優の加藤鷹さんが加藤さん本人として、ロックバンドの氣志團が氣志團としてゲスト出演しているのもユニークでした。
この本人が本人としてゲスト出演するパターンは『喜劇駅前シリーズ』の影響も考えられます。『喜劇駅前シリーズ』はシナリオ・センター創設者の新井一もシナリオを書いていて、ジャイアント馬場さんや王貞治さんが本人としてゲスト出演したりしています。そういえば喜劇駅前シリーズも横浜中華街や登戸といった東京近郊の町を映画の舞台としていました。
「こんなドラマ、今まで観たことないなって思いました」と宮藤官九郎さん自身がインタビューで語っていますが、確かにオリジナリティーという点では他の追随を許さないぶっちぎりのドラマであることは間違いないでしょう。
では実際に『木更津キャッツアイ』のセリフがどうなっているか、みてみましょう。
『木更津キャッツアイ』のセリフ
マスター「さて、看板消して来るわ」
バンビ「……」
アニ「俺も」
公平「お前はいいだろ」
アニ「いや煙草が……」
公平「俺の吸えよ」
アニ「えーと……」
と出ていく。
公平「おい!」
バンビ「……なあ」
公平「ああ?」
バンビ「ぶっさん、やりたいこととかないのかよ?」
公平「何だよ急に」
バンビ「だってさ、半年つったらすぐじゃん。とりあえず俺から見ると、怒るなよ、俺から見ると毎日ただブラブラしてるようにしか見えないからさ」
公平「う~ん、やりたいことねえ」
バンビ「……」
公平「ずっと考えてんだけど」
バンビ「うん」
公平「ねえな」
バンビ「……うそつくなよ」
公平「ほんとだって」
バンビ「……だったらいいけど」
公平「……」
バンビ「ぶっさん」
公平「あ?」
バンビ「来週の試合も来いよ」
公平「おめえ来んのかよ」
バンビ「……分かんない」
メリハリとリズム
これは主人公がチームメイトたちに、癌で余命半年であることを打ち明けたあとのシーンです。
確かに1人1行のセリフが並んでいます。声に出して読むとテンポがよくて生き生きとしていることを、より感じることができます。
でも、1行の短いセリフのやりとりだけではありません。4行にわたるバンビのセリフがあります。1行のやりとりの中で一際目立っています。
そうなのです。1行のセリフのやりとりを書くと自然で生き生きしたセリフになるだけでなく、ここぞという少し長めのセリフが際立つのです。メリハリがきいてリズムも生まれます。
1行のセリフのやりとりで最も効果が上がるのが説明セリフが圧倒的に少なくなることです。
セリフが長くなれば長くなると、どうしても説明セリフになりがちです。また実際にしゃべっているような自然なセリフではなく、文章のようなセリフにもなりやすくなります。
とはいえ、じゃあ実際に私たちがしゃべっている時に1行の短い言葉を交わしているかというと、そうではありません。実際には、もっと長い言葉のやりとりをしているはずです。
でも、実際にしゃべっている会話とシナリオのセリフは、まったくの別物なのです。
あくまでも1行の短いセリフのやりとりにすると、実際にしゃべっているかのような自然な感じがするということです。
コンクールでもセリフが生き生きしていると評価がワンランク上がります。
とはいえコンクールの1時間や2時間のシナリオで、いきなり1人1行の短いセリフのやりとりを書いてみようとしても、すぐにできるわけではありません。
まずは20枚シナリオで試してみてください。
セリフが変わるとシナリオが激変することを実感することでしょう。
これで、あなたもパラダイス!
出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P125より
※シナリオ・センターの書籍についてはこちらからご覧ください。
★こちらのコーナー、次回は12月の第1土曜日に更新します★
ドラマ『木更津キャッツアイ』データ
2002年1月~3月(9回)
TBS金曜日22時枠
制作: TBS
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀
プロデューサー:磯山晶
キャスト:岡田准一 櫻井翔 岡田義徳他
平均視聴率10.1%
最高視聴率13.4%(初回)
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