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『ハケンの品格』に学ぶ脚本勉強法:説明を感じさせない セリフの書き方

「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)からご紹介。
今回はテレビドラマ『ハケンの品格』を参考に、説明を感じさせないセリフの書き方を学んでいきましょう!ヒントは喧嘩をさせること、です。

喧嘩、してますか?

こんにちは。エンゼル浅田です。あなたのシナリオをパラダイスに導きます。

喧嘩、してますか?

夫婦喧嘩に兄弟喧嘩、親子喧嘩、友達同士の喧嘩、上司や部下との喧嘩、ご近所トラブルなどなど、もちろん電車や店で喧嘩になることもありますが、やはり人物関係が濃密であればあるほど、喧嘩になりやすいようです。

人物関係こそがドラマを生み出します。喧嘩はドラマの結晶といえるかもしれません。 

最近、喧嘩したことがないという人が増えているそうです。
ぜひ喧嘩してください、とは言えませんが、日常生活ではともかく、シナリオでは登場人物に喧嘩させてください。

喧嘩させて、喧嘩させて、喧嘩させまくってください。

喧嘩のシーンの効用としては、まず、告白セリフや説明ゼリフと感じさせなくできることです。

「今日は疲れたから晩ご飯はレトルトカレーにします」が、喧嘩をさせると「冗談じゃないわよ、カレーよ、カレー。レトルトに決まってるでしょ。こっちはクタクタなんだから!」となります。

それに喧嘩のシーンは観客や視聴者を引きつけやすくなります。たとえば電車の中で何やらモメているカップルがいたら思わず聞き耳立ててしまいませんか?

緊迫したやりとりでハラハラさせることも、ズバリ本音を吐かせドキッとさせることも、ちぐはぐなやりとりでコミカルにすることも、切実な想いをぶつけて胸にジーンと響かせることもできます。

喧嘩はエンターテイメントに仕上げる万能調味料なのです。ぜひぜひ使ってみてください。

喧嘩といっても激しいものばかりではありません。

殴り合いの熱い喧嘩や火花を散らす睨み合いもあれば、笑顔に隠された陰険なバトル、ちょっとした意見の食い違いや感じ方のすれ違いなどなど種類はさまざまです。

『ハケンの品格』の主人公、超個性的なキャラクター

というわけで、どういう具合に喧嘩をさせればいいのか、今回は『ハケンの品格』を観てみたいと思います。

篠原涼子さん演じる主人公・大前春子は特Aランクのスーパー派遣社員。食品会社S&Fのマーケティング課に勤務することになるが…という職業ものドラマですが、まず、この主人公のキャラクターが超個性的です。

時給3000円(途中で3500円にアップ)で契約期間は3ヶ月限定、更新は一切なし。残業も休日出勤もせず、飲み会などにも参加しません。

契約内容以外の仕事もせず、直属の上司でなければ命令にも従わず、正社員や上司に対しても決して媚びず思ったことをズケズケ発言します。

しかし、仕事の速さとレベルの高さは、まさに特Aクラス。派遣先での信頼は厚く、それが人脈にもなっているほどです。

取得している資格も助産師から犬訓練士、ふぐ調理師、車両系建設機械運転者、核燃料取扱主任者などなど数え切れません。またウグイス嬢やマグロ解体ショーでも高い能力を発揮します。

この個性的なキャラクターがポイントです。個性があればあるほど周囲とぶつかりやすいので喧嘩のシーンを描きやすくなります。

とにかく大前春子は周囲の人物とぶつかりまくり、ぶつからないシーンがないぐらい喧嘩しまくります。

一番の喧嘩相手は大泉洋さん演じる正社員の東海林武です。

毎回毎回、東海林は春子のことを「トックリ」と、春子は東海林のことを「クルクルパーマ」と呼び合い罵り合っています。その喧嘩のシーンが、とてもコミカルで生き生きとしていました。

たとえば第4話では、こんな喧嘩のシーンがありました。

第3話でマグロ解体ショーが台無しになりそうになり、あわやクビかと思われた東海林を救ってくれたのが春子でした。春子が自分に好意があるのではと思い始めた東海林は気になり始め、いきなり春子にキスしたのでした。

そして、第4話で東海林は春子を食事に誘います。ふぐでも食べに行かないかと。

「ふぐ?」「嫌い?」
「死ぬほど好きです」
「よかった、じゃあ…」
「でも東海林主任とは食べたくありません」
「え? 何で?」
「時給3000万もらったとしても東海林主任とは食べたくありません」
「ちょちょちょ、ちょっと待って。いや、一応ほら、俺たち、ああいうことになって、言ったよね、怒ってないって」
「そのへんを飛びまわっているハエが、たまたま唇に止まったからってハエに腹を立てる人間がいますか?」
「ハエ?!」
「そう、ハエです!」
「ちょっと待て! 俺がハエなら、あんた電信柱だ! 俺だってたまたま、たまたま電信柱にぶつかっただけだ!」

みたいな感じです。

しっかり描こうとすると、喧嘩になる

第5話では、春子が危ないところを東海林に助けられるのですが、助けられながらも喧嘩します。

S&F社に国税の査察が入り、小松政夫さん演じる嘱託社員の小笠原を、春子は無理やり倉庫に連れて行き、手書き伝票を探させます。契約を打ち切られそうになっている小笠原に、手柄を立てさせようとするのです。

見事に目的の伝票が見つかり、小笠原が運んでいこうとすると、エレベーターが故障し止ってしまいます。昇降機検査資格者の資格を持つ春子は、ロープを伝い降りて小笠原と伝票の脱出に成功しますが、エレベーターに一人、取り残されてしまいます。

そこにロープが下ろされます。春子はロープを昇り「どなたか存じませんが、ありが…」と言いかけると「気をつけろよ」と顔を出したのが何と東海林です。春子が足を滑らせ落ちそうになる寸前、東海林が手をつかみます。

東海林が引っ張り上げながら
「お前、重てえな」
「じゃ離しなさい」
「何言ってんだ、お前」
「あなたの力は借りません」
「かわいくねえな、まったく。一人で生きていけんだもんな。重たいから、さっさと上がれ」
「余計なことを」
「余計なことしてんのはそっちだろ。伝票だけ助ければいいのに、何で小笠原さんまで助けたんだよ」
「あれは業務の一環です」
「そんな業務、あんたの契約には入っていませんけど、何か」

という感じです。

しかも、やっと引っ張り上げられて「危機一髪ってとこだよ。助かってよかった」と東海林が言うと、春子は「バッチイ…手洗ってこよ」などと言いながら立ち去っていくのです。

東海林は「なんだ、なんだ、お前! 親の顔が見たいわ! おい、ロープ片付けてけ、お前は!」となります。

小笠原が見つけた伝票がS&F社を救い、嘱託契約は打ち切られなくなります。

しかし、小笠原は「春子ちゃん、あなたにだけ言うけど、私やっぱり次の更新はしないことにしたよ」と言ってきます。

春子が「私には関係ありませんが、どうしてですか?」と尋ねると「私のために、みんなで花道を作ってくれた。もう、その気持ちだけで十分だ。老兵は去るべきです」と答えます。

それに対し春子は「小笠原さん、ナマコがかっこつけないでください」と。「ナマコ? それ、私のこと?」
「かっこよく会社をスパッと去るのは派遣の専売特許です。社員なら社員らしく会社にしがみついてください」
「春子ちゃん……」

会社を人一倍愛する小笠原の気持ちを知っていて、無理することないですよ、というシーンなのですが、東海林との真正面のバトルとは違っていますが、喧嘩っぽいやりとりにしているわけです。

さらに、小泉孝太郎さん演じる里中賢介は春子の直属の上司ですが、東海林とは仲のよい先輩後輩です。それでも、喧嘩とまではいかないまでも、考え方や感じ方のズレを作っています。

たとえば第3話で「どいつもこいつも大前、大前って腹立つな。あの女、正社員の仕事に横槍入れるのが趣味なんだ」という東海林に、里中は「東海林さんは誤解してるよ。大前さんは、そんな人じゃないよ」と言います。

すると東海林は「何だよ、賢ちゃん、そんなに、あのトックリのこと知ってんのかよ」と突っこみ、答えられない里中に「なんで黙るんだよ。あのトックリはね、ブラックホールだよ。あのトックリから、いろんなものを、ものすごい重力で引き寄せて自分の力に変えてんだよ。気をつけろ、賢ちゃん」という感じです。

考えてみれば、まったく同じ考えや思いの人なんて存在しないでしょう。似てはいても微妙なところで違うはずです。
それぞれ違う考えや思いがあるからこそ、ドラマが生まれるわけです。
その違いを、しっかり描こうとすれば、喧嘩のシーンになるはずです。

これで、あなたもパラダイス!

出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P175より

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こちらのコーナー、次回は12月の第3土曜日に更新します

ドラマ『ハケンの品格』データ

2007年1月~3月
日本テレビ水曜10時枠
脚本:中園ミホ
演出:南雲聖一 佐藤東弥 茂山佳則 吉野洋
プロデューサー:櫨山裕子 内山雅博
出演:篠原涼子 加藤あい 小泉孝太郎 大泉洋他
平均視聴率20.2%(最高視聴率:第7話27.2%札幌STV)

 

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