『鋼の錬金術師』荒川弘(スクウェア・エニックス)
注目ポイントは発想
亡き母を錬金術で蘇らせようとして失敗したエドとアルの兄弟。エドは片足とアルを失うが、右腕を代償にアルの魂を錬成、鎧に定着させた。命の再生という「禁忌の罪」を背負った二人の贖罪の旅がはじまる。
シナリオや小説についてなど、創作に役立つヒントを随時アップ!ゲストを招いた公開講座などのダイジェストも紹介していきます。
マンガにはシナリオ創作に役立つヒントが満載。魅力的なキャラクターとはどんなものなのか。設定だけで面白いと思わせるにはどうしたらいいのか。その答えはマンガにある!シナリオ・センターにてマンガ原作講座を担当する仲村みなみ講師の『マンガから盗めっ!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回取り上げるのは『鋼の錬金術師』。「重いテーマの作品を書きたい」という方、是非参考にしてください。
注目ポイントは発想
亡き母を錬金術で蘇らせようとして失敗したエドとアルの兄弟。エドは片足とアルを失うが、右腕を代償にアルの魂を錬成、鎧に定着させた。命の再生という「禁忌の罪」を背負った二人の贖罪の旅がはじまる。
食事でもデザートでも必ず「ね、ね、半分ずつ交換しない?」と言いだす友達がいて困る。
この前は、きつねうどんのお揚げとてんぷらうどんのえび天を半分ずつ、昨日はタルトといちごショートを半分ずつ交換させられた。「これって等価交換って言うんだよね」だって。そりゃ、あなたにとってはね。でも私は違うのよ。生クリームが苦手だし、今日はきつねうどんが食べたい気分なのっ。でもなぜか断れぬ。私は案外小心者である。
まあ、このように(どのようにだ?)ごく普通の奥さまにまで「等価交換」という言葉をインプットさせたのが「鋼の錬金術師」である。
掲載誌はスクウェア・エニックスの「コミックガンガン」。知らないでしょ。でも、マイナー雑誌(失礼)だからこそ大手じゃなかなか出来ない「冒険」ができて、結果、こーんなメガヒットが作れたのかも。
スクウェアエニックスは二大超有名RPG「ドラクエ」のエニックスと「FF」のスクウェアが合併した会社。そこのコミック誌だから、企画段階からゲーム化を視野に入れているはずだ。
RPGは、無垢な主人公がスキルや経験値を積んでどんどん強くなり、最終決戦でラスボス(敵キャラのボス)を倒す。そして失った何かを取り戻したり、世界の平和を守る…というパターンが圧倒的に多い。
少年マンガもそう。題材や設定は違っても、作りとしてはほぼ同じ路線。「キミは可能性には限界はなく努力すれば夢は叶うんだよ」と語りかける。
だが「鋼の錬金術師」は違う。主人公の旅は「無垢な少年の夢と冒険の旅」ではなく「人体錬成の罪を背負った贖罪の旅」である。
作者は幼い主人公たちに「残酷な現実」と「人間の限界」をこれでもかと突きつける。さらに軍の思惑や民族の抗争、人ならざる存在もからませる。多くの犠牲が払われ二人は傷つく。だが決して立ち止まらない。自らの罪から逃げずに、向き合うために。
辛くても立ち止まらないこと。現実から目を背けないこと。自分の弱さや限界を知ること。作者はその大切さを繰り返し説く。「世界は残酷で、努力では解決しない事もある。それでも自分の足で立ち、歩み続けて」と。
「主人公はイケメン or 好青年」という定番を破って、エドは背が低くガキっぽい風貌。
「小さい」と言う言葉に自動的に反応してキレる。シリアスになりすぎず、おちゃらけすぎないギャグの配分が絶妙です。
重いテーマだからこそ「眉間に皺を寄せて」描きすぎないことが「面白く伝える」コツ。ぜひ読んでみて。
笑った後で、しみじみ「命」と「信頼」について考えさせてくれるから。
出典:仲村みなみ著『マンガから盗めっ!』(月刊シナリオ教室2006年1月号)より
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