描き続けること

シナリオ・センター代表の小林です。昨日は立春で、青空に温かな陽ざし・・・ちょっと春めいた感がありましたが、今日はまた冷たい。
 第26回SIシナリオグランプリで最年長86歳で準グランプリを受賞された通信作家集団の前田幸子さんの訃報が届きました。
2014年7月授賞式。86歳で受賞された前田さんは、その時30回目の正直。それまで最高が最終選考で、ほとんどが2次止まりだったとそれでも描き続けての栄冠でした。
受賞の言葉として「私は描くことが好きというだけできましたが、描き続けていれば、このような夢のような素敵なこともありますので、皆さんは描き続けてください。
普段の生活の中にもヒントはあります。興味を持ったら、そこから膨らませて描いてみてください。
それにここまで続けてこられたのも（註：30年間在籍）ゼミの先生方と自分より若い先輩たちのおかげです。とても感謝しています。
皆さんも仲間を大事にして、たくさんの刺激をいただくといいですね」
前田さんは、若い仲間たちとよく芝居を観に行かれたり、お喋りされたり、御身足が悪くなられてお出かけになられなくなっても、描き続けられていて、最後まで前向きに生きていらっしゃいました。
この「表参道シナリオ日記」も毎日読んでくださり、感想や時には誤字脱字の指摘もくださいました。
何度、様々な場面で、前田さんの言葉に励まされたことか。
享年90歳、あと数日で91歳とのこと。
今頃は、天国で担当だった堀江先生、森先生、樋口先生、そして新井一とシナリオ談議で盛り上がっていることでしょう。いやまたまた先生方の指導の下にシナリオを描かれていらっしゃるかもしれません。

どんなにお年を召しても、決して諦めずに描き続ければ、夢は叶うことを教えてくださった人でした。
ありがとうございました。合掌

戦争とは敵も味方もなく悲惨と愚劣以外の何物でもない

「戦争とは敵も味方もなく、悲惨と愚劣以外の何物でもない」（文芸社刊）
91歳の東野利夫さんが自費出版したご本です。
東野利夫さんは、福岡の産婦人科医でシナリオ・センターが福岡教室を開設した時から今日までずーっとバックアップを続けてくださった方です。
今回「このままでは日本が危ない、脅しあう米朝、尻馬に乗る日本、今が一番危ない」と日本人への警告としてこのご本を出されました。
なぜ、ここまで声をあげるのか。
東野利夫さんは、「九大生体解剖事件」の最後の生き証人なのです。

「九大生体解剖事件」をご存知でしょうか。
1945年、熊本と大分の県境でB29爆撃機が撃墜され、搭乗員のうち捕虜となった8人が、陸軍によって九大医学部に連行され、海水を代用血液として使えるか、片肺を切除してどのくらい生きられるかなどの実験手術を受けて死亡した事件です。
戦後、関与した軍や九大関係者は、戦犯として絞首刑5人を含む23人が有罪判決を受けました。
その生体解剖実験を、九大医学生としてお手伝いしたのが東野利夫さんです。
目の前に横たわる米兵捕虜の身体は治療するべきところも見当たらないのに切り開かれ、片方の肺が切除された・・人間は片肺でどれくらい生きられるかの実験だったのです。
捕虜たちは、生きたまま解剖され、事件という名のもとに殺されたのです。
「記憶なんて生易しいものじゃない。心臓に突き刺さった。思い出すまいと思っても思い出す。焼きついとるんです、私には」と東京新聞のインタビューで語っていらっしゃいます。

3年前に九大医学部がOBの寄付などで医学歴史館を作った時、東野さんは負の歴史も直視せよと、自らが集めた貴重な事件関係資料を提示するように大学側に求められました。
答えはノー。
「なぜ教訓にいようとしないのか」・・・何度も何度もうつ病になりながら、命を奪う事件の体験から命を生み出す産科医になられ、中絶手術にも悩まれ、命を見つめてきた東野さんは、今こそ警鐘を鳴らさなければならないと、思い出したくない過去と向きあい、自費出版をされたのです。
「非常時には、人は簡単におかしくなる。
戦争とは所詮、悲惨と愚劣以外の何物でもないという九大生体解剖事件を歴史的教訓に生かしてもらいたい」と結んでいらっしゃいます。

91歳の東野さんは、思い出したくない負の歴史と自ら向きあうことで、私たちに戦争を決して繰り返してはいけないと訴えていらっしゃいます。
今を生きる私たちは、愚かな行為に、戦争へと走らないようにと、きちんと東野さんの声に応えて過去をしっかりと見つめていかなければならないと思います。

自費出版ですが、アマゾンなどでも買うことができます。
他に「汚名『九大生体解剖事件の真相』（文藝春秋刊）も上梓されています。