映画の元になるのはシナリオ
「映画力」という言葉があるかどうかは知りませんが、映画の力が落ちているような気がしています。
私が東映に入ったのは50年前で、年間に100本も製作していた頃です。当時は、スタッフルームが機能していました。
どういうことかというと、映画製作が始まると、監督を中心に、チーフ助監督、デザイナー、カメラマンなどがスタッフルームに集まり、皆がいろいろな意見を出して、喧々諤々になる。1つの作品を作るということに対して、全員が同じ方向を向いていたんですね。
ところが今のスタッフルームでは、助監督が「監督、これ赤と青どちらにします?」「はい、青ですね。わかりました」と言うだけ。なぜ「青」なのか聞く人もいなくなっているように思います。
この風潮は、映画会社が製作する時もそうだし、配給会社の営業部でもそう。番組が埋まればいいんですよ。「この映画をお客さんに届けたい」とか「これを伝えたい」というようなことまでは気持ちが向かない。
映画製作に半世紀関わってきた身としては、このまま映画界が立ち枯れていくのが忍びないのです。
私は、日本人の才能はスゴイと思っています。
映画の元になるのはシナリオです。
映画は1人では出来ないものですが、まず種になるのはシナリオです。日本のコミックは世界中で売れている訳でしょう?
だったら映画だって、種を書ける人はいるはずなんです。
コミックを原作にするとか、視聴率の高いテレビドラマを映画にするんじゃなくて、映画独自の何かがあると思う。
それを考えられるのは、今ここにいる皆さん。私が50年も映画をやっていられるんだから、皆さんがその気で頑張ってくれたらできると思います。
今日、私がこの場に来たのは、脚本を書こうという人たちがいるなら、製作体験の多い私が、皆さんに何か伝えられるかもしれないと思ったからです。
これまで日本の映画は日本のマーケットだけで生きてきたんですね。香港やシンガポールを見ると、マーケットが自国だけではどうにもならないので、海外を目指して映画を作っています。
文芸作品、アート系、アクション、色々なジャンルがありますが、どれをとっても、今の日本はアジアの中では勝てなくなっている。
音楽が世界に通じるように、映像も通じるんです。映画は人間を描くのですから、親子、家族、恋人、そういったことは世界共通です。世界に通用するホンを書いてほしい。