「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
小説は描写と説明を織り交ぜながら書きます。「え?描写と説明ってどう違うの?」「描写してるつもりが説明みたいになっちゃう…」。こんなお悩みをおもちのかた、一緒に整理していきましょう!
「描写」と「説明」はどこが違うか?
小説の「描写」について述べています。
通常小説は「地の文」と「セリフ」で書かれますが、読者は文章を読みながら、その物語に関する「情報」を得て行きます。
どういう世界なり設定で、主人公は誰で、どういう人物が出てきて、何をしようとするのか?
シナリオでもお馴染みの「天・地・人」ですね。まず読みやすい文章が求められるのは、一度で理解ができない文章では、読者は小説世界に気持ちよく入っていけない。
読者を立ち止まらせたり、書き手だけが酔っているような文章は、小説以前ということになります。さらに小説の文章表現には、ざっくりと「説明」と「描写」に分けられます。実用書や学術書とかなら、当然メインが「説明・解説」になります。
ですが小説はこの「描写」と「説明」を織り交ぜながら書くことが必要となります。物語の設定や情報を読者に理解させるための「説明」はしなくてはいけないのですが、あまり説明ばかりしていたのでは、読者は放り投げてしまいます。
理想的な小説の表現は、巧みな「描写」をしているうちに、必要な「情報」も読者に伝えていること。これはシナリオも同じですね。
つまらないシナリオの典型は、シーンで男女が向かい合ったまま長い会話をしている。もっとひどいのではナレーションでだらだらと述べる。さらには安易な回想シーンで説明したりして、物語がさっぱり前に進まなかったりします。
すぐれたシナリオは、登場人物の行動を追ったり、セリフを聞いているうちに、いつの間にか物語が進行していて、情報も得ています。
宮部みゆきさんの『ぼんくら』に学ぶ人物描写
小説の「描写」に戻ると、地の文による描写には主に、「情景描写」「人物描写」「心理描写」があります。
このうちの「人物描写」の文例として、宮部みゆきの『ぼんくら』(講談社文庫)の上巻から、主人公を描写した文章を引用します。
【井筒平四郎は働き疲れた馬があくびをしたような顔をしている。
背丈は高いが猫背なので、どうかすると四十六という年齢よりもさらにじじむさく見える。
定町廻り同心の巻き羽織は粋でいなせと誉められる江戸の風物の一つだが、それだって人によるというものだ。平四郎の巻き羽織はいつも、彼の痩せた体の両脇に、景気の悪い旗印のように垂れ下がっている。】
同心の井筒が事件の謎を解き、解決していく時代ミステリーで、NHKでドラマ化もされ、岸谷五朗さんが演じていました。
改めて解説の必要もないかもしれませんが、まず主人公の名前と年齢、まったく二枚目ではないことを伝えています。それも巧みな比喩表現を駆使しています。(比喩については、諸刃の剣ですので、いずれ詳しく)
ともあれ、“働き疲れた馬があくびをしたような顔”で、イメージを決定づけていて、“背丈は高いが猫背”で“痩せた体”なこと。さらに、平四郎が身につけている羽織について、“景気の悪い旗印のように垂れ下がっている”というように。
これを凡庸な書き手だと、そのまま説明文になってしまいます。
例えば、
井筒平四郎は四十六歳で定町廻り同心である。
背は高いが猫背で痩せていてじじむさい。同心の恰好は巻き羽織で江戸では粋でいなせの風物の一つとされるが、平四郎だとパッとしない。
これでも充分に通用しそうですが、宮部表現と比べるとはるかに落ちますね。
出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2017年1月号)より
※要ブックマーク!これまでの“おさらい”はこちらのまとめ記事で。
▼「柏田道夫 シナリオ技法で小説を書こう スキル一覧」
※シナリオ・センターの書籍についてはこちらからご覧ください。