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『 白い巨塔 』に学ぶ脚本の勉強法:主人公の困らせ方

「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)からご紹介。
公募の脚本コンクールの審査員は主人公が葛藤しているかを見ています。そのためには、主人公を困らせて困らせて困らせること。今回はテレビドラマ『白い巨塔』の脚本を参考に、主人公の困らせ方をんでいきましょう。

楽しいのは自分だけ

こんにちは、エンゼル浅田です。あなたのシナリオをパラダイスに導きます。

主人公のキャラクターのイメージが、ばっちり固まったら、次に何をしますか?

いよいよストーリーを考える?
う~ん、それで面白いストーリーができるのなら、いいんですが……。

何度も書いていて耳にタコかもしれませんが、ストーリーを考えて面白くなることは、めったにありません。

面白いストーリーを作る一番のコツはストーリーを考えないことなんです。と申し上げると、必ず「でもストーリーを考えちゃうんです」という方がいます。

というか、ほとんどの方が、ついついストーリーを考えてしまうのではないかと思います。

だって、ああなって、こうなってとお話を考えるのは楽しいですから。

つまり妄想ですね。妄想の世界では自分勝手に何でも思いのままです。

こんなに楽しいことはないでしょう。

なので、ストーリーを考えるなとは言いません。

あれこれストーリーを考えて、妄想を楽しむだけ楽しんでください。

でも、楽しいのは自分だけです。そのストーリーで人が楽しいと思ってはくれません。

例えて言うなら、新婚カップルの家に遊びに行って、結婚式のビデオを見せられるようなものです。

楽しいのは本人たちだけ。見せられた方は、たまったものじゃありません。

苦痛以外の何ものでもありません。あなたが自分では面白いと思っているストーリーは、そんなものだと思ってください。

なので、ある程度までストーリーを考えたら、よし、今度は自分が楽しむんじゃなくて人が面白いと思うように、一から考え直してみよう! と気持ちを切りかえてみてください。くれぐれも自分の考えたストーリーに固執しないように。

それは新婚カップルに見せられた結婚式のビデオなんだと、肝に銘じてください。

で、まず何を考えるかというと、主人公を困らせることです。

ちょっと思い出してみてください。自分が「面白い」と思った映画やテレビドラマ、主人公を困らせていませんでしたか?

主人公を困らせると観客や視聴者は、どうするかな? どうなるかな? と引きこまれます。

そして、困らせれば困らせるほど、より引きこまれるので、まず主人公を困らせ、次々に困らせ、もっともっと困らせ、常に困らせ、とことん困らせ、最後の最後まで困らせ、さらに、もう一つ困らせるよう考えてみてください。

観客や視聴者は、ぐいぐい引きこまれて「面白い」と感じてくれます。

『白い巨塔』の財前五郎

じゃあ実際、どう困らせればいいのか? 『白い巨塔』を見てみましょう。

ドラマの舞台は浪速大学医学部付属病院。第一外科の助教授で食道ガンのスペシャリストである主人公・財前五郎や、そのライバルである第一内科の助教授・里見脩二を中心に大学病院の裏側に渦巻く人間模様を描いた社会派医療ドラマです。

山崎豊子さんの小説が原作で、これまで何度もラジオドラマ、映画、テレビドラマ化されています。

今回は2003年から2004年にかけて放映された唐沢寿明さん主演作を取り上げますが、特に1978年から1979年にかけて放映された田宮二郎さん主演作も超オススメです。

脚本は映画『飢餓海峡』をはじめ数々の名作を生み出している鈴木尚之さん。

キャストは主人公・財前五郎が田宮さん、ライバルの内科医・里見が山本學さん、財前の愛人が太地喜和子さん、義父が曽我廼家明蝶さん、東教授が中村伸郎さんなどなど実力派ぞろいです。

手術シーンには実際の手術の映像が使われていて迫力にあふれています。(そういった映像が苦手な人は観ない方がいいかも……)そして、収録直後に田宮二郎さんが自殺されており、伝説の作品となっています。

唐沢寿明さん主演作に話を戻しましょう。

2クールにわたって放映されたのですが、大きな流れとして前半は教授選、後半は医療裁判のドラマが描かれています。

前半の教授選は、主人公・財前の師である東教授の退官が近づき、普通であれば助教授である財前が教授に昇進するはずが、東教授は財前の傲慢さを嫌って、ついに財前に対抗する次期教授候補を学外から呼び寄せてしまい、財前は学部長グループを味方につけて東教授グループと選挙で戦うことになります。

後半の医療裁判は、財前が手術した患者が術後にガンの転移により死亡、遺族から訴訟を起こされ、裁判を闘わなければならなくなります。

術前に転移の可能性を探る検査を怠り、術後の患者の呼吸困難をガンの転移ではなく、術後肺炎と診断していたためカルテの改ざんなどを余儀なくされます。

大きな流れと設定だけでも、いかに主人公を困らせよう困らせようとしているかが伝わってきます。

部分、部分にも目を向けてみてください。

たとえば第1話、まず冒頭で主人公は大阪府知事の手術をします。

主人公の手にかかれば難なく成功すると思われていましたが、助手のミスで血管を傷つけ大量に出血します。

このシーンは特に前半の大きな流れである教授選とは関係ありません。

確かに手術後、記者会見で東教授より注目され、マスコミにも大きく取り上げられることが東教授の嫌悪感を煽り、後任の教授にしたくない気持ちが強まっていくのですが、それだけなら手術はトラブルなく上手くいけばいいだけです。

でも、助手の失敗により一気に緊迫感が高まり、さあ、どうする? どうなる? と引きこまれます。

さらに、主人公はミスをして茫然自失となっている助手に、敢えて、もう一度同じことをやるよう指示します。

「君がミスると患者が死ぬぞ。しかし君が死ぬわけじゃない。落ち着くんだ」と言って。

結果、手術は無事終わるのですが、このエピソードで主人公のキャラクターが伝わってきます。

困らせると人物のキャラクターならではの行動やセリフが生まれやすいんですね。

つまりキャラクターが伝わりやすく、シーンとしても今までにない新鮮なシーンになりやすいということです。

シナリオライターって意地悪?

この後も次々と困らせていきます。

里見が膵臓ガンの患者の手術を頼みにきます。

珍しい症例なので主人公は手術をやりたくてたまりません。

でも、それは学部長である第一内科の教授が診察で見落としたガンなのです。

その手術をしたとなると、学部長と敵対することになりかねません。

その膵臓ガンの手術を緊急オペとして秘密裏に強行するが、学部長にバレたり、さらに東教授にもバレて教授会で査問にかけられそうになったり、いよいよ東教授が対抗馬の次期教授候補を連れて来たり、謹厳で「医者の本分を忘れておる」と主人公に批判的な教授が、教授会の選考委員長に就任したり、その委員長が全国公募を提案し、10人の候補者が推薦されたりと、まさに次から次へと困らせていきます。

後半の医療裁判でも、主人公の手術後に死亡した患者の遺体が病理解剖され、死因が術前から存在した肺ガンの転移と分かったり、裁判で里見が証言することになったり、原告弁護士がカルテだけでなく、すべての記録の提出開示を要求してきたり、突然、主人公の母親が上京し傍聴席に姿を現わしたり、一度は無罪判決を勝ち取るが、原告が控訴に踏み切ったり、手術中の患者の顔が死亡した患者の顔に見えたり、東教授が原告側に協力し、ついには自ら証言をしたり、死亡した患者を担当していた若い医局員が傍聴席で自分は一審で嘘の証言をしたことや術前の検査を却下されたことを叫んだり、その言葉に数少ない事実を知る看護師が証人に名乗り出たり……。

そして、控訴審で敗れた直後、上告し最高裁で争うぞ、と叫ぶ主人公が呼吸困難を起こして倒れます。

主人公は肺ガンに侵されていたのです。

肺ガンの第一人者である東教授に、これまでの確執を越えて手術してもらえることになりますが、開腹してみると、すでに手の施しようがなく、そのまま閉じます。

また、浪速大学を辞め、患者本位の民間病院に勤務する里見が、自分の病院へ来て終末治療を受けないかと手を差し伸べますが、大学病院の教授が民間病院へ転院することは、大学病院の体面上できるわけもなく……。

こうやって見てみると、シナリオライターって何て意地悪なんだろうと思いませんか?

主人公を、これでもか、これでもかと困らせるわけですから。
確かに意地悪なのかもしれませんね。

でも、一番信じているのも作者なのです。
困難に立ち向かい乗り越えようとする時、主人公がキラキラ輝くことを。

なので、しっかりと主人公を信じてあげてください。

そして、心を鬼にして、とことん意地悪になって、思いきり主人公を困らせてみてください。

これで、あなたもパラダイス!

出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P28より

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次回は4月21日に更新予定

 

ドラマ『白い巨塔』(2003年版)データ

2003年10月~12月(第1部)
2004年1月~3月(第2部)全21話 
フジテレビ系 木曜劇場 
脚本:井上由美子 
制作統括:大多亮 
企画:和田行 
プロデューサー:高橋萬彦・川上一夫 
演出:西谷弘・河野圭太・村上正典・岩田和行 
出演:唐沢寿明・江口洋介・石坂浩二他 
平均視聴率:23.9% 
最高視聴率:32.1%(最終回)

 

 

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