『累』(講談社)/松浦だるま
注目ポイントは企画
美人女優の娘なのに醜悪な容姿の少女・累(かさね)は学校で虐められていた。そんな彼女に亡き母が遺した一本の口紅。それは「口づけた相手の顔が奪える」口紅だった。
シナリオや小説についてなど、創作に役立つヒントを随時アップ!ゲストを招いた公開講座などのダイジェストも紹介していきます。
マンガにはシナリオ創作に役立つヒントが満載。魅力的なキャラクターとはどんなものなのか。設定だけで面白いと思わせるにはどうしたらいいのか。その答えはマンガにある!シナリオ・センターにてマンガ原作講座を担当する仲村みなみ講師の『マンガから盗めっ!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回は取り上げるのはマンガ『累』。2018年9月7日には映画が公開され、シナリオ・センター出身ライターの黒岩勉さんが脚本を担当されています。ドキドキする展開、見習いたい企画力。ぜひ参考にしてみてください。
注目ポイントは企画
美人女優の娘なのに醜悪な容姿の少女・累(かさね)は学校で虐められていた。そんな彼女に亡き母が遺した一本の口紅。それは「口づけた相手の顔が奪える」口紅だった。
美人は得だ。理屈抜きに惹きつけられる。異性にはモテるし、同性からは憧れられる。美しさは自信につながり心に余裕が生まれるから他人にも優しくなれそうだ。
それに美人は何をしても許される気がする。たとえば菜々緒はバラエティ番組でよくドSな言動をするが、共演男性陣たちは『ゾクゾクする~。オレも虐められた~い』などと喜んでいる風にみえる。もちろんテレビ的演出なんだろうけど、やっぱり菜々緒が美人だから成立するのである。
そんなわけで(どんなわけだ?)芸能界、特に役者の世界は美人が多い。ライバルも多く、のしあがっていくには演技力だけではなく美しさも要求されるシビアな世界だ。
今月ご紹介するのはそんな舞台役者の話。ジャンルとしてはファンタジーだが哀しくもおぞましいホラーで読むのはけっこうしんどい。しんどいが続きが気になって仕方ない。
以下、ネタバレするがご容赦のほどを。
伝説の美人女優・淵 透世(ふち・すけよ)の娘で小学生の累(かさね)は、母とは似ても似つかない醜い顔が原因で、同級生から心無い仕打ちを受け続けてきた。辛いとき思い出すのは亡き母の言葉。
「辛いときは引き出しの赤い口紅を……」
でもその先がどうしても思い出せない。
そんな折、学芸会で『シンデレラ』を上演することになる。イジメの首謀者であるイチカはシンデレラ役に累を推薦する。学校中のさらし者にするためだ。
みんなに認めてもらいたい一心で練習を積む累。本番当日、母の形見の赤い口紅を塗った累は素晴らしい演技をする。思惑がはずれたイチカは劇の途中で累を舞台からひきずりおろし、この後は自分がシンデレラ役をやると言う。どんなに頑張っても認めてもらえないことに絶望する累。
「その唇からどんなに汚い言葉がこぼれようと 可愛らしい顔の均整は崩れない うらやましい ほしい その顔がほしい」
その瞬間、累は母の言葉を思い出す。
「あなたのほしいものに口づけを」
累はイチカを押し倒し口づけをする。顔をあげると二人の顔が入れ替わっているではないか。
これは口づけした人間と顔が入れ替わってしまう口紅だったのだ。累の顔になったイチカを部屋に閉じ込めた累は、愛らしいイチカの顔でシンデレラを演じきる…。
この後の展開はぜひ読んで確かめてほしい。周囲の人物を不幸にする罪悪感を抱きながらも、女優への道を昇ろうとする累の業が伝わってくる。ちなみにモチーフは怪談「累ヶ淵」で、これにファンタジーの小道具として口紅をプラスしており、何とも怖くて美しくインパクト大だ。この企画力、見習いたい。
出典:仲村みなみ著『マンガから盗めっ!』(月刊シナリオ教室2017年9月号)より
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【要ブックマーク】漫画やアニメには創作のヒントがいっぱい!
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