選考委員の講評・コメントは脚本家志望者には必聴必見
先日、第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞の受賞作品が決定し、授賞式が行われました。
応募総数は【テレビドラマ部門】【配信ドラマ部門】【映画部門】の全3部門で計1414篇(テレビドラマ部門:742通/配信ドラマ部門:361通/映画部門:311通)。応募者全体の平均年齢は41.8歳。
第3次選考で9篇まで絞られた後、選考委員で脚本家の井上由美子さん、岡田惠和さん、両沢和幸さんによって最終選考会が行われ、結果、優秀賞2作品、奨励賞1作品が決定しました。
テレビドラマ部門では松本稔さんの『はとポップ!』が優秀賞を、配信ドラマ部門では板谷将行さんの『風に吹かれて』が奨励賞を受賞。
そして映画部門では、シナリオ・センターの作家集団に所属されている川瀬太朗さんの『ハッチ&ハイク』が受賞されました!おめでとうございます!
授賞式では選考委員のお三方が、受賞3作品について講評を行いました。
選考委員の講評・コメントからは、今年の応募作品の傾向や「なぜこの作品が賞をとったのか」「なぜ今回は大賞が出なかったのか」という理由が分かっただけではありませんでした。
「こういった理由から、もっとこうしたほうが良かったのでは…」といったプロならではの指摘もあり、これから脚本コンクールに出そうと思っているかたやプロの脚本家になりたいかたには必聴必見の内容でした。
そこで今回は、第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞受賞作に対する3氏それぞれの講評・コメントをご紹介します。
これを読めば、プロの脚本家は「どこをどう見るのか」という評価ポイントと、「プロを唸らせるにはどう書けばいいか」が分かります。
井上由美子さんによる講評:
ティーンを主役にしたものが8割。もっとバラエティに富んだ作品が集まることを祈って
〇井上さん:今年度の特長としましては、中学生・高校生といったティーン世代を主役にしたものが8割を占めていました。それ以外の作品も大人を主人公にしていながら、ストーリーはティーン世代とのつきあい、ティーン世代とどう生きていくか、みたいなことをテーマにしているものが多かったです。
脚本コンクールは青春をテーマにした応募作品が多いのですが、今回は特にその傾向が顕著で、今の時代、ものを書く人にとって、気持ちを投入しやすい主人公はティーン世代なのかな、と感じました。
その中で、こちらのお三方の作品はそれぞれ工夫を凝らしていて、個性を発揮されていました。
今回、残念ながら大賞はなかったのですが、2篇を優秀賞に、また、将来性があるということで1篇を奨励賞とさせていただきました。
また来年以降、もっとバラエティに富んだ作品が集まることを祈っております!
それでは、受賞3作品について今日は徹底的に褒めたいと思います。プロになると叩かれることが多いと思いますので (笑)。
■『はとポップ!』(松本稔さん)について:
女子高生が主人公なのですが、老人との触れ合いの中で鳩レースが出てくるという、とても巧みな構成。
そして、『はとポップ!』とタイトルにあるように、どちらかというと古めかしい存在の鳩とポップな感じの女子高生がうまくブレンドされていて、とても心を打つ作品になっていました。こういう作品が映像化されるとドラマの可能性もまた広がるんじゃないかな、と思っています。
■『ハッチ&ハイク』(川瀬太朗さん)について:
母と息子のロードムービー的なお話で、息子の描写とセリフがとってもリアル。ちょっとマザコン的な関係が描かれているので、「もしかしたら川瀬さんとお母さまの関係がそうなんじゃ…」と思うくらい(笑)。
脚本コンクールの応募作品というのは、エンターテインメントというより「テーマを表現しよう」というものが多いのですが、この作品からは「エンターテインメントを書こう!」という工夫や想いや情熱をものすごく感じました。映画として映像化されたら、色々なキャストの展開がみられる作品になるかな、と思いました。
■『風に吹かれて』(板谷将行さん)について:
実は、私はこれが一番好きです。セリフにセンスがあり、世界観を作るチカラがある。
配信ドラマ部門での応募だったので、板谷さんが長いものを書くとどうなるか、というのは分からないのですが、人間の捉え方が面白い。他の人にはない捉え方をされているなと思いました。
ただ、『風に吹かれて』というタイトルや、サブタイトルに出てくる「21グラム」「ロンググッドバイ」というワードが、既存の作品のタイトルを使っているので、大賞や優秀賞ではなく奨励賞となりました。これが全部、自分のオリジナルのタイトルだったら、私個人としては大賞でもいいかな、というくらい押した作品です。
岡田惠和さんによる講評:
今後『おっさんずラブ』的なものを書くなら「コレだけは!」というものを用意して
〇岡田さん:今回、わりと似たような雰囲気の作品が最終選考に残って、若い主人公に、どこかこう、その子たちの生き方を肯定するようなドラマが多かったなと思いました。毎回、その年ごとの傾向があるので、何かを表しているんだろうなと思いました。
来年度のこのコンクールには、今年放送されて話題になったドラマ『おっさんずラブ』的なものがワッと来るんじゃないかと思っているんですが、そういう傾向のものをもし書くなら、「ここだけは本家に負けないぞ!」というものを一点用意してから取り組んでいただければと思います。
■『はとポップ!』(松本稔さん)について:
孤独な少女と鳩を扱う孤独な老人という、これだけだとすごく昔の日本映画的な素材なんですが、そこをとてもポップにまとめていて、高感度の高い作品だなと思いました。
■『ハッチ&ハイク』(川瀬太朗さん)について:
この作品に一番高い点をつけました。妙な面白さがあって、でも、嫌いな人は嫌いかもしれない…。
読んでいる人間を飽きさせずに、類型にならずに、非常に良かったと思います。母親のキャラクターには妙な説得力があって、勉強になりました。
■『風に吹かれて』(板谷将行さん)について:
読むのが新鮮でした。でも、「1つのドラマとしてこれできっちり通っているのか」というのはなかなか判断が難しいところ。配信ドラマはこれからもっと注目されていくと思うので、読んでいてすごく可能性を感じました。
両沢和幸さんによる講評:
「私はこう思う!」という部分がない。元気な男の主人公もなかなか出てこない
〇両沢さん:なぜ大賞が出なかったのかというと、いまひとつ何かが足りなかった。決定打に欠けていました。
最近つくづく思うんですが、応募された皆さんは全般的に非常にお上手になっています。
テクニカルなこともそうですし、いまの問題をうまく取り上げて、それをどういう角度から描こうかというね、そのへんが社会性もすごくあるし、視野が広いなって思います。
ただ、それに対する自分なりのパースペクティブというのかな、自分の意見みたいなね、「こういうテーマは世の中ではこういうふうに思われているけど、私はこう思う!」という部分がちょっとないんじゃないかなと。これはこの3作品に対してではなく全体的に、僕が個人的にすごく感じたことです。そういうものを見たいなというのが正直な想いですね。
それから…、最近、テレビドラマも映画もそうなんですが、元気な女性は沢山出てくるのに、元気な男はなかなか出てこない…。
若い俳優さんや脚本家志望の連中とよく会って酒飲んだりするんですけど、まぁ男はみんな迷ってる。何をしたらいいのか、迷路の中にいるような若い連中が多くて。なので「男はどうやって生きるべきか」というのをぜひ書いてほしい!といつも思っています。
では受賞3作品について、井上さんは褒めていましたが、僕はダメ出しをしたいと思います(笑)。
もともとプロデューサーでもあるので、プロデューサーとしてこの“本”を読んだらどういうところを「直してくれ」と言うか。お伝えしようと思います。
■『はとポップ!』(松本稔さん)について:
鳩レースというなかなか珍しい題材を扱っていて、僕はすごく好きでした。
女子高生が救った鳩が終盤、鳩レースに出る。その鳩の帰りを待つ女子高生と老人のところに向かって、鳩が遠くの方から段々と近づいてきて舞い降りてくるんだけど、このシーンが映像的なクライマックスとしては素晴らしいと思いました。
ただ、オープニングにインパクトがない。日常から始まっているので、インパクトがほしい。
それから個人的には、この物語の老人は最後、その…、お亡くなりになったほうが良かったのではないかと…。
なぜ敢えてそういうことを言うのかというと、最近やっぱりね、「登場人物をみんな救おう」という意識が結構ある気がするんですよ。気持ちの優しさだったり、視聴者に対する思いやりがあるからだとは思うんだけど、やはり“世代”を描くということは「どうやって死ぬのか」を描くことでもある。そこを描いてほしいし、それを観たい。個人的にそう思いました。
■『ハッチ&ハイク』(川瀬太朗さん)について:
少年が家出をして、ヒッチハイクをしながら、小さな冒険旅行に出ていくのを母親が心配でついて回るという話。話の構成・エピソード・セリフがすごく面白かったんですけど、ラストがね…。
やっぱりこれは、「少年が危機に陥って母親が助ける」じゃなくて、「母親が危機に陥って少年が助ける」じゃないといけない気がするんだよね。というのは、オープニングからエンディングまで、少年が冒険旅行を通して何を掴んだのか、があまり見えなかった。
大きなストーリーで、絵も結構スペクタクルで、エンターテインメントなんだけれども、やはり少年が成長したほうがいいんじゃないかなと思う。少年と母親の関係性が変わらないままエンディングを迎えているように感じたのがすごく不満でした。そこを直していただければ大賞になったんじゃないかなと思います。
■『風に吹かれて』(板谷将行さん)について:
これは非常に繊細な現代の男性と少女の話。繊細さというか、心の動きをうまく書いているんですが、こういう作品でいつも思うのは、最近の男性主人公には性欲がないのかと (笑)。なにか欲望を感じる瞬間があんまりないんですね。そこが個人的には気になるんです。テクニック的には素晴らしく良くできていたと思いました。
選考委員の講評・コメントを参考に、脚本コンクールに挑戦!
今回ご紹介した選考委員の講評・コメントには、脚本コンクールに出すうえの、また、プロの脚本家になるためのヒントが沢山あったのではないでしょうか。
いろいろな脚本コンクールがありますので、皆さん、今回の講評コメントで得たことを活かして、ぜひ応募してみてください!
※「主なシナリオ公募コンクール・脚本賞一覧」のサイトはこちらからご覧ください。
※テレビ朝日新人シナリオ大賞に関するブログはこちらもご覧ください。
■第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞からみる②「映画・テレビドラマ・配信ドラマの部門について」
■第18回テレビ朝日新人シナリオ大賞・映画部門・優秀賞受賞の川瀬太朗さん/コツコツ書き続ける習慣が受賞に
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