シナリオ・センター代表の小林です。今日は眠いです。なぜなら、久々に朝の4時まで一気読みしてしまったのです。
何を読んでいたかというと、「信長協奏曲」などを執筆されている出身ライター宇山佳佑さんが書かれた小説です。
「桜のような僕の恋人」(集英社文庫刊)
とっても愛おしい、そして、限りなく辛いお話です。 人の運命は、残酷です。誰にもわかりません。
私自身、今年になって、まさかと思うような方々を相次いで亡くしたせいもあるのかもしれませんが、この小説の主人公朝倉晴人に深く感情移入してしまいました。
晴人が好きになったのは美容師の美咲。一目ぼれしてしまった晴人は、まずお花見に誘おうと意を決して美容院の鏡の前に座る。 なかなか言い出せない晴人が、思いっきって言おうと振り返ったせいではさみが鋭い音を立てて・・・なんと晴人の左耳たぶを切り落としてしまう。
晴人の優柔不断の自信のないキャラクター、美咲との関係もよくわかる衝撃的な耳を切り落とされるというシーンから始まります。
そんな2人が、耳を切り落としたお詫びのデートをきっかけに、おずおずと交際が始めます。 晴人は、美咲に認められたくて一度はあきらめたカメラマンをもう一度めざしだし、美咲も晴人の優しさに惹かれていきます。
二人の恋の行方も、将来も幸せな方向にいくはずだったのですが、運命は過酷です。
美咲は、人の何十倍もの速さで年老いる難病「ファストフォワード症候群」を発病。発症から一年足らずで老人になり死に至るという治療法も見つかっていない難病。
老婆になっていく姿を愛する晴人に見せたくない美咲は晴人の前から姿を消します。
わけがわからず落ち込む晴人、日に日に老いていく己の姿と対峙しながら運命を呪う美咲。四季が一巡しないうちに、どうにもならない別れのときがやってきました。
晴人は、美咲の想いに応えられなかったことを一生後悔しながら、わずかな間しか美しく咲くことができなかった桜のような恋人を思い続けていきます。
24歳の美咲のどうにもならない運命も非情で、また遺された晴人の悔いがとても残酷で、涙なしには読むことができません。
どんな形でも遺された者には後悔が残ります。あの時・・・と。 切ないけれど、生きていくということをきちんと考えさせられます。ただのラブストーリーでは終わりません。
しかも、宇山さんの小説は、映像的です。ポイントとなるのは場所、美咲と晴人の出会いの美容院、四谷の桜並木、プロポーズした由比ヶ浜、初めてのキスした浅草のビルの谷間、隅田川、切ない別れの公園・・・etcetc
アニメ「君の名は」のように見せていける小説です。
映像化したい。老婆になっていく美咲はつらいけれど、だからこその見せ方でものすごく盛り上がる映像になる気がします。
是非、読んでみてください。
小説家としても、映画『今夜、ロマンス劇場で』等で、脚本家としても活躍する出身ライター宇山さん自身に興味が湧いた方は、こちらをどうぞ。
詳細:シナリオ作家(脚本家)、小説家のプロフェッショナルになるには?