「お客様と会話が噛み合わない」という状況を防ぐには
自分が“お客様”としてどこかに訪れたとき、店員さんや受付のかたなど“お店の人”に、自分が求めている対応をしてもらえなかったというご経験、ありませんか?
弊社の新井はこんなことがあったそうです。
お寿司屋さんへ行ったときのこと。
メニューを見るとコースが3つ。「松」「竹」「梅」。1000円ずつ高い。
メニューに写真が載っていなかったので、一緒に行った人たちと「何が違うんだろうね」と少し悩んだ後、店員さんに聞きました。
新井:「これ、何が違うんですか?」
店員さん:「ネタが違います」
新井:「……(そのネタが何なのか、1000円ごとの違いを知りたいんだけどな)」
こんな風に、会話が噛み合わないとちょっと話すのがイヤになってしまいませんか?
自分がお客様の立場のとき、こういった思いをするのはイヤですが、
自分がお店側の立場のとき、お客様にこんな風に思われるのはもっとイヤですよね。
でも実際、特に一般事務の受付業務や窓口業務のお仕事をされているかたは、お客様と会話が噛み合わず、スムーズにご案内できなかった苦いご経験があるのではないでしょうか。
では、「お客様と会話が噛み合わない」という状況にならないようにするにはどうしたらいいでしょうか。
この解決法が実は、シナリオの技術にあります。
ポイントは、
相手の「言ったこと」や「したこと」(アクション・リアクション)から
相手の背景・事情を確認して、
自分が「言うこと」や「すること」(アクション・リアクション)を考える
――ことです。
これだけではちょっと分からないですよね。
では、具体的にどういうことか、新井が講師として今年も実施させていただきました、日光市役所さんの新人職員シナリオ研修からリポートいたします。
お客様の背景と事情を考える
一昨年も昨年も小雨が降っていましたが、今年も雨…。
下今市駅に着いた途端、土砂降り。大雨の中、研修の会場へ。
今年ご参加いただいた皆さんの特長としては、昨年と違って「一般事務」の職種のかたが多いという点。
“職種柄”でしょうか、シナリオ発想トレーニングとして短いシナリオを書いていただく作業も集中して取り組んでいらっしゃいました。
この“短いシナリオ”というのは、宮田と悠子という元恋人同士が交差点の信号待ちでバッタリ会ってしまった後の展開を、短いシーンで書いていただくというもの。作業としては、宮田と悠子のセリフとト書を書き込んでいただきます。
そして、まずはグループで発表。
その後、代表で数名のかたに発表していただいたのですが、その中に、これまでにない発表をされたかたがいらっしゃいました。
それは、職員のU木さん(職種:一般事務)。
通常、シナリオを作るときは、登場人物の背景(今までのこと)・事情(これからのこと)を作ってから、その登場人物の「言うこと」や「すること」(アクション・リアクション)を考えていきます。
短いシナリオを書いていただくのは、ウォーミングアップでもあるので、まだこの説明をする前に取り組んでいただきます。
ですが、この説明をしていないのに、職員のU木さんは、宮田と悠子の背景と事情を語り出しました。
例えば…
〇U木さん: 宮田のシャツのポケットからタバコが見えていました。
悠子はそれを見ていながら、何も言いません。
2人が付き合っていた頃、宮田は悠子に「体によくないからタバコは吸わないで」といつもと注意されていました。
だから、当時、シャツのポケットからタバコが見えると悠子に凄く叱られていました。
でも今、悠子は何も言いません。これは悠子の中で、宮田と完全に終わっている、ことを表しています。
そして宮田も、これで完全に終わっているんだということを再認識します。
だから信号が青に変わると別々の道を歩いていきます。
――といった感じです。
「宮田のタバコを指摘する悠子=恋愛中」が背景、
「宮田のタバコを指摘しない悠子=恋の終わり」が事情。
まさに、背景と事情ですよね。
この発表を聞いて、市民のかたから直接問題点や不安を聞くことが多い「窓口業務」をされているU木さんだからこそだなと感じました。市民の皆さまと対応するときは必ず、なぜ窓口に来て(背景)、何を求めているのか(事情)を考えているから、今回シナリオを作成するときも、背景と事情を考えて書かれたのだと思います。
U木さんがされたように、背景と事情を考えることが、「お客様と会話が噛み合わない」という状況にならないようにするための大きなポイントなのです。
窓口には、どういった背景で、どういう事情があって来られたのか、を確認
前述したように、シナリオを作るときは、登場人物の背景(今までのこと)・事情(これからのこと)を作ってから、その登場人物の「言うこと」や「すること」(アクション・リアクション)を考えていきます。
これを、お客様との対応に置き換えると、逆になります。
シナリオのように、背景・事情をつくることはできないので、
お客様の「言うこと」や「すること」(アクション・リアクション)から、
お客様の背景(今まで)と事情(これから)を確認して、
その上で、「だから自分はこう言おう」「こうしよう」(アクション・リアクション)と考えていきます。
例えば、市民のかたが市役所の窓口に何かご相談をしに来られたら、
相談内容や行動から、
窓口には、どういった背景で、どういう事情があって来られたのか、を確認して、
その上で、自分はどう対応すればいいかを考える。
そうすれば、会話が噛み合わないということを防ぐことができるのです。
研修後には、
【新井さんのお寿司屋さんのエピソードを聞いて「あぁ、そうだな」と感じました。会話が噛み合わないとイラッとすると思います。そうならないようにしなければと思いました】
【知りたいことと話されていることが違うとお互いに気持ちが良くないですよね。相手のことを思い、状況や背景を考えながら話をしたいと思います】
――などなど、背景と事情に関する感想を沢山いただきました。
また、日光市役所行政経営部人事課人事研修係の中野祥寛さんは今回の研修を終えてこうコメントしてくださいました。
【「シナリオの発想力」と「問題解決力」。一見すると繋がりが見えない両者には、実は多くの共通点があることがこの研修で分かります。その共通点の1つである「相手(市民)の立場に立って考える」ことは、市職員としてとても大切なことです。今回の研修では、問題解決を図る上で、当事者、関係機関、背景、事情、影響など様々な視点から問題を捉えるポイントを「シナリオ」というユニークな切り口から学ばせていただきました】
今回こちらのブログでお伝えした背景と事情を考えることは、つまり、「相手(市民)の立場に立って考える」ということですよね。
そうすれば「会話が噛み合わない…」といったことも防ぐことができますよね。
気持ちの良いスムーズな会話をするために、まずは背景と事情を確認していきましょう。
※昨年の日光市役所さんの新人研修の模様は、こちらのブログ『悩みを解決するには、悩みを分解!』をご覧ください。