初めて取り組んだ時代劇
〇柏田:『武士の献立』の企画が立ち上がったのは大体2年ほど前。松竹のプロデューサーと私で、あぁでもないこうでもないとプロットを練っていました。
その後、朝原監督が撮ってくださることに決まり、さらに今回は主人公が女性なので、女性の感覚を入れたいということで、山室由紀子さんという脚本家さんにも参加していただくことになりました。
朝原さん自身も脚本をお書きになるので、私が書いたものを、朝原さんと山室さんに預け、戻ってきたものをまた直し……というような形で脚本作りを進めていきましたね。
決定稿になったのが12年の秋頃。撮影が13年の2月~3月ですから、結構ギリギリです。主に京都の松竹撮影所で撮って、能登を中心にロケ撮影を行った、という流れです。
初稿を読んで、どこを面白いと思ったのか、お聞かせいただけますか?
〇朝原:正直、初めは乗り気がしなかったんです(笑)。大船にあった松竹の撮影所で僕は育ったんですが、そこは現代劇を担当しているところで……僕はずっと山田洋次監督の助監督として働いていて、1本だけ『たそがれ清兵衛』をやりましたが、時代劇経験がなかった。
だからプロデューサーから話をもらった時に「なんで俺なの?」と(笑)。他に時代劇を得意とする監督がいらっしゃるだろうと思ったんですね。撮りたくないというよりは、無理だな、というのが最初の感想です。
プロデューサーの顔色を見てみると、たぶん他の人たちに断られてきたんだろうなと(笑)。なにせ、柏田さんの『武士の家計簿』は、この時代劇不振の時に、大当たりをしていますからね。
「柳の下の第二弾」を狙っているというのはもちろんわかりますが、どう考えても、前作と見比べて、いろいろ言われてしまうのが関の山ではないか……。
それがちょうど『釣りバカ日誌ファイナル』を撮り終えて、ずっとブラブラしていた時で、僕は松竹の正社員なのでいつまでも遊んでるのはマズい。他に引き受ける監督がいない時にこそ社員の出番だろうと。でもやるからにはキチッとやらないといけない。それでどこかに自分の楽しみを見つけようと思いました。
『武士の家計簿』は、公開時に家族で観に行ったんですが、松坂慶子さんの登場シーンで観客がゲラゲラ笑っていて、嫉妬に狂った覚えがあります(笑)。そうしたライトコメディーの要素を入れるのは面白いと思いました。
それと、夫婦の夫の方に以前好きだった女性がいたが結ばれなかった……という話を盛り込んだのは、僕のアイデアです。
たまたま夏目漱石の『明暗』と、水村美苗の『続明暗』を立て続けに読んで、映画化したいと思ったのですが、そう易々と撮らせてくれるわけはないので、今回の脚本にそういう夫婦関係を入れ込んでもらいました。
女性向けの作品ですから、恋愛映画としての要素を出したというわけです。こうして、やっと「自分にも撮れるな」という気持ちが湧いてきました。
〇柏田:ストーリーは、高良健吾くん演じる舟木安信が、家業を継ぐはずだった兄が死んでしまい、渋々お殿様に料理を作る包丁侍になるという話です。安信は、優秀な料理人だったお兄さんにコンプレックスを持ち、料理に熱心になれなくて……というキャラクターを、最初は強く出していた。
そこに朝原さんが恋愛要素を加えた。上戸彩さん演じる年上バツイチ女房の春が嫁いできて、夫には好きな女性がいた……という設定になったことで、より一層、春の葛藤が深くなりました。
〇朝原:柏田さんの初稿は、剣で生きていきたかった男の葛藤、男のドラマという色が濃かったんです。職業選択の自由がない男性と、婚姻の自由がない女性の葛藤には、重なる部分があるのではないかと考えたんですね。
〇柏田:映画の企画が立ち上がる時には、先に監督が決まっているというケースが多いんですが、今回はなかなか決まらなかった。
『武士の家計簿』の故・森田芳光監督は独自のカラーが強い方でしたが、朝原監督は非常にきっちりと作品を作られる方で、朝原さんに決まったと聞いた時は、ホッとしました。『釣りバカ』などは非常に安定して観られるし、松竹らしいカラーを持っている監督さんだなと。