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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

女はいつの時代も戦い続けているけれど男はどうだろうか

水曜日の凱歌(新潮社文庫刊)

記憶

シナリオ・センター代表の小林です。8月ももう終わろうとしています。 今年の夏は異常ともいえる暑さに辟易しながら過ごしましたが、9月も続くのだろうか、台風はどうなるのだろうか・・・まだまだ心配は続きます。
明日は大阪校の開講です。大阪は年4回の開講になったのでちょっと気忙しいですが、8月夏の終わりに、秋に向けて頑張って下さる受講生にエールを送ってこようと思います。

8月は、日本にとっては大きな節目の季節です。
記憶には忘れていいこと忘れてはいけないことがあります。
人はすべてを記憶していたら、アップアップしてしまって生きてはいけないのですが、ここだけはすべての人が憶えていなければいけないことはあるのです。
そのひとつが敗戦記念日。
8月にきちんと向き合うことは、日本人にとって大切な気がします。 

水曜日の凱歌

出身ライターの直木賞作家乃南アサさんの「27年度芸術選奨文部科学大臣賞」を受賞された「水曜日の凱歌」(新潮文庫刊)が文庫として上梓されました。
受賞理由「国家と人権、戦争と平和といったテーマに切り込んだ、社会性と娯楽性を兼ね備えた大作である。思春期の少女の視点からこうした問題を取り上げ、物語の形で時代を浮かび上がらせたものはかってなく、日本の現代史を踏まえ、扱いにくいテーマに誠実に向き合い、丁寧に掘り下げてきた作家姿勢も高く評価される」
私は、この本が8月に文庫化されたことに大きな意味合いを感じています。

「水曜日の凱歌」は、東京大空襲から始まり、1946年4月10日水曜日衆議院選挙39人の婦人代議士が誕生したところで終わります。
主人公は1931年8月15日生まれの鈴子。終戦の日に14歳の誕生日を迎えた女の子です。この女の子の視点を通して女性たちの新たな戦いのお話しが描かれています。

RAAをご存知でしょうか。 私もこういうことがあったことは話として知っていましたが、日本という国を動かす人たちが、これほど愚かだということに愕然としました。
RAAはRecreation and Amusement Associationの略です。日本では「特殊慰安施設協会」日本が進駐軍の性暴力に備えるために女性を募り、大森海岸や熱海など日本各地に慰安所を作った実在の組織。5万人を超える女性が売春や娯楽を提供したとされる。

実際に日本政府の肝いりで、終戦の玉音放送から3日後、早くも占領軍の将兵相手の公的慰安所を設立したのだそうです。
日本国政府が公的慰安所を、アメリカ兵に性的サービスをさせるために「新日本女性に告ぐ」という呼びかけで半ばだますように慰安婦にして、性病が蔓延するとあっという間に閉鎖し、女性たちを放り出したという驚くべき政策があったのです。
その趣旨は、「日本中の女たちが襲われないために、自分たちの身を挺して日本女性の防波堤になれ」と。応募した女性たちの多くは面接で初めて実情を知るのですが、それでも、ギリギリの困窮状態にあった女性たちには他の道を選ぶ選択などはありもしませんでした。

5人兄弟のうち、姉妹は東京大空襲で、兄は戦死、もう一人の兄は戦地から戻らず、父親は事故死、生き残ったのは裕福な家庭の貞淑な妻であった母つたゑと14歳の鈴子。
RAAの大森海岸と熱海の施設をお母様と2人で転々としていく鈴子の視点でこのお話は描かれています。
鈴子の目から、RAAの女性たちの生きざま、男を変えてアメリカ人将校の愛人になりのし上がっていく母の姿が描かれ、鈴子は「みんな戦争に負けた国の女たちだ。身体を売るのも、少年の格好をするもの、アメリカの将校と交際するのも、みんな、負けたからだ。それでも餓えをしのがなければならないし、着るものも住むところも必要だから。だから、こうしている。戦争なんてするから。」と心から叫ぶのです。

貞淑な典型的な日本女性の鑑だった母つたゑの謎めいた生き方、考え方を横軸に、子供のストレートな視点を縦軸にこの小説は、鈴子を我が子の様に支えるモトさん、インテリの慰安婦ミドリさん、幼馴染の勝子ちゃんと芸者のお母さんなど魅力的な登場人物たちが無力でありながら戦い続け、生き抜いていこうとします。

パンパン狩りにあって、蔑む男たちにミドリさんが叫びます。
「覚えておきなっ、日本の男ども!誰もかれも女のまたから生まれたくせに、その恩も忘れやがって、利用するときだけしやがって!戦争中は『産めよ殖やせよ』で、戦争に負けた途端に、今度は同じまたを外人どもに差し出せとは、なんという節操のなさなんだっ!それでも平気なのかっ!見ていやがれ、この国を駄目にした男ども!女の1人も守れないで、何が日本男児だ、大和男児だ、馬鹿野郎!いいか、あんたたちは、いつか必ず復讐される。いつか必ず、報いを受ける。アメリカからなんかじゃなくて、日本の女性たちからねっ!」

横須賀にお伺いした時、海上自衛官の方が呟いた一言「日本は敗戦国ですから」思い出します。
そう、今も尚、敗戦国の日本は、鈴子たちが味わったことが形は違えども繰り返されているのです。巧妙にさとられないように。
一番良い場所に横須賀でも沖縄でもアメリカ軍の基地はあります。
きっと、ミドリなら、
「過去をきちんと振り返れ!反省しろっ!だから、ロクでもない男どもたちは同じことを繰り返すんだよっ!」って言うのではないでしょうか。
ちなみにミドリは衆議院議員になります。女性たちよ、立ち上がろう!
是非とも男どもに読ませたいっ! 日本人に喝を入れてくれる小説です。

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