実在の人物を物語で描く
ギタリストの鮎川誠と妻・シーナがボーカルを務めたロックバンド「シーナ&ロケッツ」を題材とした、平成29年度福岡発地域ドラマ「You May Dream ~ユーメイ ドリーム」(NHK福岡)。
九州・沖縄地方向けに放送された後、大きな反響とともに全国各地から全国放送を望む期待の声が数多く寄せられたことから、全国放送が決定。今年2018年9月には地上波で放送され、話題となりました。
この脚本を手掛けたのは、「シーナ」と同じ福岡県北九州市出身の脚本家・葉月けめこさん。
葉月さんが手掛けたのはドラマだけではありません。
11月10日(土)・11日(日)に北九州劇場 中劇場で上演される舞台「SHEENA~I LOVE YOU~」(北九州市制55周年記念・第26回ふくおか県民文化祭2018参加作品 劇団青春座232回公演)の戯曲も手掛けていらっしゃいます。
脚本家のかたはよく、「実在の人物を描くのは難しい」と仰います。
というのは、事実をただなぞっているだけでは単なる“記録”になってしまうからです。
そうではなく、ひとつの“物語”として観客を魅了させなければいけません。
葉月さんは、北九州若松の商店街から日本ロック界の女王になった「シーナ」を、そして「シーナ&ロケッツ」を、ひとつの“物語”としてどう描いたのか。
今回ご紹介する葉月さんのコメントには、この舞台に対する熱い想いのほか、実在した人物や事実をもとに書くときのヒントもつまっています。
そして、そのヒントをぜひ劇場で、見つけてください!
「あるエピソードを聞いたとき、本作が描くべきラストが決まった」
――舞台「SHEENA~I LOVE YOU~」の「ここはぜひ注目してほしい!」というところは?
〇葉月さん:シーナさんがどんなに歌を、シーナ&ロケッツを、そして鮎川さんやご家族や故郷を愛していたか。シーナさんの想いと覚悟をぜひ感じてほしいと思います。
また、本作では当時の音楽番組やライブの再現など、みんなで盛り上がれるシーンも満載です。
結成から73年、休むことなく公演をつづけてきた劇団青春座の演者さんたちの熱演もお楽しみに!
――「ココは外せなかった!」というシーンはありますか?
〇葉月さん:鮎川さんとシーナさんの次女・純子さんが偶然聞いたというシーナさんのある言葉です。
解釈がとても難しい言葉なので、演じる女優さんはほんとうにたいへんだと思いますが、私にはそれがシーナさんの強い覚悟の言葉に思えてどうしても外せませんでした。
取材中、このエピソードを純子さんから聞いた時、本作が描くべきラストが決まったとも言えます。
――今回の舞台を書くうえで何か思い出深いエピソードはありますか?
〇葉月さん:「SHEENA」では、大きくいうとシーナ&ロケッツの現在までを描いています。
つまりシーナさんが旅立たれるシーンも描いたということなのですが、高校生の頃からシーナ&ロケッツのファンである私にとっては、できればなかったことにしたい出来事なんです。
ですが、さきほども少しお話ししたように、シーナさんの想いや覚悟を伝えるためには、どうしても描かなきゃならない……筆はわりと早いほうだと思うのですが、このあたりになると1日10行書くのがやっとという有様でした(笑)。
――ドラマ『「You May Dream ~ユーメイ ドリーム』は、海外に誇れる魅力あるドラマを表彰する「東京ドラマアウォード2018」でローカル・ドラマ賞を受賞されました!この受賞に関するお気持ちや「シーナ&ロケッツ」に対する想いを教えてください。
〇葉月さん:監督からお電話をいただいたとき、なんだか低い声だったので「え。悪い知らせですか?」と思わず訊いてしまうくらい、身構えたんです(笑)。
すると「とんでもない! めちゃくちゃ良い知らせです!!」と。
そういった経緯もあったので、喜び倍増というか、飛び上がるほどうれしかったです。ちょうど打ち合わせ中で、あるビルのエレベーターホールで聞きました。
電話を切ったあと、「シーナさん、シーナさんと鮎川さんの物語が賞をいただきましたよ!」と、エレベーターの扉に向かって(心の中で)報告しました(笑)。
鮎川さんとシーナさんの出会いなど諸々のエピソードは、地元福岡やファンの間では昔から有名で、その数々の逸話に私もずいぶんと憧れてきました。そんなお二人の物語を紡ぐことができて、ほんとうに幸せ者です。
そしてこれは、NHK福岡様や制作に関わったすべての方も同じだと思います。みなさんのシーナ&ロケッツへの愛がドラマ「You May Dream」にはあふれています。
――葉月さんは、テレビドラマ・ラジオドラマ・舞台といろいろなジャンルの作品を手掛けられていますが、取り組む際に何か違いはありますか?
〇葉月さん:まだまだ駆け出しなので大きなことは言えませんが、少ない経験で話させていただくと、「何を伝えたいのか」の芯をつかむ、この根本は変わらないのだと思います。
ただ、テレビ、ラジオ、舞台ではできることできないことがぞれぞれ違いますので、それを踏まえたうえで描いていかなきゃならないのだろうと。
ラジオだったらやはり物語を盛り上げてくれる印象的な「音」を探しますし、映像ではより画を想像しやすいシーンを描きたいなとか。
これは私の場合ですが、舞台のオープニングはできるだけ派手にしたいとか、それぞれの特性を活かした脚本を書いていきたいと精進しています。
――脚本家デビューを目指すシナリオ・センターの後輩にひとこと、お願いいたします!
〇葉月さん:月並みではありますが、描き続けてほしいと思います。
誰に強制されたわけでもなく、自分が描きたいから描いているのですから。
私もまだまだ道の途中。あきらめたらそこで試合終了です(by スラムダンク)。
一緒にがんばりましょう! You May Dream!!
※舞台「SHEENA~I LOVE YOU~」のチケットについてはこちらから。
※そのほか脚本家・小説家・映画監督の出身生コメントはこちらから。
シナリオ・センター出身の脚本家・小説家・映画監督の方々のコメント記事一覧『脚本家 ・小説家コメント記事一覧/脚本や小説を書くとは』をぜひご覧ください。