向田邦子の目
シナリオ・センター代表の小林です。文化の日に向田邦子さんの作品上映とシンポジウムがありましたが、ご覧になった方はたくさんおいでかと思います。いかがでしたでしょうか。
残念ながら、私は引っ越し準備でこの連休はバタバタと過ごし、久々に「冬の運動会」を拝見したかったのに叶いませんでした。
向田邦子さんは直木賞作家としても活躍されましたが、私は向田さんの脚本が大好きでした。
特に「だいこんの花」は森繁久彌さんと竹脇無我さんのやりとり、セリフの応酬にうっとりと聞き惚れたものです。正統派のホームドラマなのですが、親子の情愛がそこはかとなく漂う、たぶん森繁さんのアドリブもあったかとは思うのですが、そこへ持っていく向田さんの手腕にほれぼれしていました。
向田さんは、人を見る目の暖かさ、やさしさの中にある厳しさ、鋭さ、その調和、バランスがなんとも言えない素晴らしい感性をお持ちの方でした。
人間を描くシナリオ、小説は、作者が人間をどれだけ好きかということに通じるような気がします。
人を見る目、脚本家にとって一番大切な感性だと思います。
出会い
国立映画アーカイブ開館記念「生誕100年映画美術監督木村威夫」が、京橋の国立映画アーカイブ2F長瀬記念ホールOZUで、今日から11月25日まで行われます。
木村さんは美術監督して91歳で亡くなられる2010年までご活躍され、ご自身でも監督をされてもいらっしゃいました。
美術監督として携わった映画は、劇場公開された映画だけでも240本以上にも及んでいます。
その中で、林海象監督の「夢みるように眠りたい」の美術監督をされていらっしゃるのですが、この「夢みるように眠りたい」は林海象監督のデビュー作、シナリオ・センター時代に撮られたものです。
その頃は、まだ監督ともいえない、将来も見通せない時代の林海象監督でした。
友人に連れられて、お正月に木村さんのお宅にお邪魔して、映画化を相談されたのがきっかけで、快く美術監督を引き受けてくださったというのが伝説になっているそうですが、まさに海のものとも山のものともわからない青年に力を貸された木村さんの人を見る目の確かさ、やさしさに驚きを感じます。
木村さんの力は、林海象の世界をより強烈にインパクトのある美術で映画を盛り上げていました。その一つの逸話として、本篇に登場する「永遠の謎」の撮影場所に困ったとき、経験豊かな木村さんの「竹藪を探せ」の一言で、事なきを得たというお話もあります。
美術監督の大御所が、若手の林海象という人間の才能に賭けてくださったからこそ生まれたことなのだと思います。
もちろん、魅力的な作品を創られている林海象監督の力があったからのことですが。
林海象監督のデビュー作「夢みるように眠りたい」は、11/9 15:00・11/18 16:45の2回上映されます。木村美術監督とのお話を思い出しながら見られると、また違った角度から興味深く見ることができそうです。
何度か拝見していますが、その都度新しい魅力を感じさせるこういう映画こそ、名作と呼ぶにふさわしいものなのだと思います。
たくさんの名作を生み出した影の力美術監督木村威夫さん。 映画は、多くの人の力の結集から生まれてくるものだと感じます。