キャラクター作りのきっかけ
皆さんから質問をいただいております。
キャラクターについての質問で多いのが、「周りにいる人たちをモデルにすることはありますか?」。
周りにいる人たちをモデルにしていたら、1作は書けたとしても、2作、3作とは続きません。皆さんの周りには殺人犯だとかシャブ中だとか、いないでしょう?(笑)。でもシャブ中のことだって、殺人犯のことだって、例えば人間以下の行為だって書くことがあるかもしれない。だから周りにそういう人がいなければ書けない、と言っていてはダメ。
私自身、周りにいる人をモデルにしているかといったら、たまにきっかけはありますが、その人をモデルにして、連続ドラマ10本書けと言われたら、書けないですものね。
じゃあ、きっかけってどういうものか。
男の人に振られた友達がいたんです。友達が別れ話をしに行ったら、そこに新しい女がいて鉢合わせた。これ自体は珍しいことではないですが、彼女は負けてスゴスゴ帰ってきた。
それで私に、「ダメだったのよね。なんだかさ、お腹空いちゃってさ、アンパン食べちゃった」って言うんです。「あなた、振られてそれだけの目に遭って、アンパン食べたの?」って言ったら、「お腹って空くよね」。これ面白いなあって思いました。モデルにするんじゃなくて、そのきっかけなんです。
この間、ジェームス三木さんのお話で、『月刊シナリオ教室』に「男に捨てられたかなんかして公園でわんわん泣いている女の子が、水道の蛇口が緩んでいて、泣きながら締めていた」って書いていらしたけれども、まさにそれなんですね。全然別のところに気が行くわけです。
「アンパン食べた」っていうのが、私も面白いなあと思って、そういう時にアンパン食べちゃうキャラクターを書いたんです。新宿の副都心の大きな歩道橋の上で、向こうにキラキラ街が見える。主人公はそこでアンパン食べる。そういうシーンにした。
ところがですね(笑)。こういうことがままあるんですけれども、送られてきたビデオを見たら、アンパン食べるシーンで女優が缶ビールを飲んでいるの。私は激怒しました。
「男に振られて缶ビールを飲むんだったら、私は原稿料もらえないわ! これ、アンパンでしょ!」って言ったら、どうも現場で女優が「振られたらヤケ酒でしょう」って言ったらしいんです。彼女はアンパンまでは思い至らなかったのでしょう。
私が、なぜアンパンかということをト書に書くなんて考えもしませんでしたし。昔の話なのに、あの時のショックはいまだにあって、それからはト書をちょっと増やすようにしています。
そんなわけで、男に振られた時にどうする女なのか、というのがキャラクターです。 例えば、男に振られた時に、少なくとも私の女友達は相手の男のところに話をつけに行っている。行く女なのか、行かない女なのか。これがキャラクターです。
行く女だった、行ったらそこに新しい女がいた、その時にどうするか。これがキャラクターですよね。私の女友達は負けて帰ってきたわけです。帰って来る時にメソメソ泣いて帰ってくる女か。泣かないで帰ってきて、その足で男の会社に行って、上司にぶちまける女か。これもキャラクターです。
キャラクターを押さえていないと、セリフが出てこないし、アンパンも食べない。「ヤケ酒でしょ」って通り一遍の話になってしまうんです。
だから履歴書としての「何とか中学を出て、何とか高校に行って、何とか大学では何を専攻して、出身地は大阪で、お父さんお母さんはどんな仕事をして」っていうのも必要ですが、キャラクターとは、そういうことばかりではないんですね。