「 脚色って 何?」というかたは上平満さんのコメントが参考に!
6/14公開の映画『泣くな赤鬼』(角川映画)。
原作は作家・重松清さんの『せんせい。』に所収の同名短編小説。
監督の兼重淳さんとともに脚色を担当されたのが、作家集団所属の上平満さん。
上平さんは、シナリオセンター通信講座基礎科修了後、通学で本科・研修科のゼミを経て、現在、作家集団に在籍されています。その間、第17回シナリオS1グランプリで佳作を、第3回富士山・河口湖映画祭シナリオコンクールでは審査委員長賞を受賞。映画『フォルトゥナの瞳』(2019/東宝)の構成協力などを経験後、今回の映画『泣くな赤鬼』(KADOKAWA)で脚本家デビュー。
【映画『泣くな赤鬼』あらすじ】
陽に焼けた赤い顔と鬼のような熱血指導から“赤鬼先生”と呼ばれていた、城南工業野球部監督・小渕隆(堤真一)。甲子園出場一歩手前までいきながらも夢叶わず10年の月日が流れ、今では野球への情熱は衰え、定年間際の疲れた中年になっていた。ある日、かつての教え子・斎藤智之(愛称:ゴルゴ/柳楽優弥)と偶然、病院で再会する。野球の素質はあるものの、堪え性のない性格ゆえに挫折し、高校を中退したゴルゴだったが、結婚して家庭を築き、立派な大人に成長していた。そのゴルゴが、末期がんで余命半年であることを知らされる。あの時、かけてやれなかった言葉、厳しくすることでしか教え子に向き合えなかったあの頃の後悔―。赤鬼は、ゴルゴのために最後に何ができるのか―。(KADOKAWA公式サイト『泣くな赤鬼』より)
※You Tube
KADOKAWA映画
映画『泣くな赤鬼』本予告(出演:堤真一/柳楽優弥 川栄李奈)より
公開を記念して、映画『泣くな赤鬼』のシナリオと上平さんのインタビュー記事が『月刊シナリオ教室2019年7月号』(6/28発行)に掲載。
また、ブログ掲載用にもコメントをいただきました。小説を脚色するにあたり心掛けたことや、シナリオ・センターで学んだことで脚本家として活動するいま役立っていること、また、特に「映画の脚本を書きたい!」という脚本家志望者にむけたコメントもいただいております。
映画と『月刊シナリオ教室 2019年7月号』と併せて、ぜひこちらもご覧ください。
「回想については、すごく考えさせられました」
――小説『泣くな赤鬼』をお読みになったとき、どういったイメージが浮かびましたか?例えば「このシーンはこういう風に脚色したいな」など、感じられたことを教えてください。
〇上平さん:ゴルゴとポジションを競う和田という登場人物がすごく気になりました。
原作では、和田の心情を伝えるような描写はなく、ゴルゴとの対比で情報として触れられるだけなのですが、それでも、「ゴルゴと和田ってどんな関係だったのかなあ」「赤鬼を挟んでお互いのことをどう思っていたんだろう」と、イメージを刺激にするのに十分でした。
和田のイメージを膨ませられたことで、悲しい題材を扱いつつも、最後には前向きな気分にさせてくれるシナリオになったのではないかと思います。
また、原作の「走り去った彼らは、ずっと学校に背中を向けたままだったのだろうか…(中略)遠ざかってから走るのをやめ、ふと学校の方を振り返るー…」の箇所を読んで、野球を辞めても気になってこっそり球場に来ているゴルゴの姿が浮かびました。シナリオでも特に情感たっぷり描いたシーンの1つです。
――原作者の想いを読み取ったうえで、脚色する際はどのようなことを特に意識されましたか?
〇上平さん:ゴルゴは赤鬼先生に褒めてもらいたいのに、そういう言葉をかけてもらえない。赤鬼の方も、ゴルゴに期待しているから厳しくするのに、全く響かない。
両者のすれ違いと、互いに伝わらないもどかしさ、叫びのようなものが濃くなるように意識しました。その心情が際立つように、母親一人子一人という設定に脚色することで、どこかで赤鬼先生に父親像を求めるゴルゴにしたいと思いました。
制作発表時のリリースで、赤鬼先生役の堤真一さんのコメント中に「野球部監督と一生徒の関係が丁寧に描かれていますが、どこか親子にも通じるような…」という言葉を目にして、「ちゃんと伝わってる!」と思って、本当に嬉しかったです。
――本作は回想法が巧みに使われていると思うのですが、回想シーンではどんなことを心掛けましたか?
〇上平さん:回想については、すごく考えさせられました。赤鬼先生視点のシーンから、過去回想へと入っていくことが多かったので、最初は赤鬼が見ていない過去を書かないようにしていました。
でも、そうすると、回想のゴルゴが、赤鬼が見たままのキャラクターにしかならず、下手すると不貞腐れているだけで、何を考えているのか、何で辞めていったのかが、うまく伝わらないというジレンマに陥りました。
途中から、赤鬼が目にしていないところのゴルゴ視点の回想シーンも描くことで、シナリオ上の約束事よりも、ゴルゴの心情を拾っていくことを優先しました。
ただ、赤鬼視点から過去に移行する入り口のシーンについては、赤鬼視点で通すように気を付けました。
「作品を分析し、具体的に言葉にする能力は、脚色する際も重要」
――脚本家として活動されている今、シナリオ・センターで学んだことで役立っていることはありますか?
〇上平さん:シナリオやプロットを書いて、ゼミで読んで、ダメ出ししてもらって、コメントを持ち帰って、直す―。実際の現場も、それに似たサイクルで行われるので、ゼミでやっていたことが生きています。
また、他の人が読んだ作品に、単にジャッジするのではなく、どう直したら良くなるかを考えて、コメントしています。作品を分析し、具体的に言葉にする能力は、単に直しということだけでなく、原作小説をどう脚色するかを考える際にも、重要だと思います。
――上平さんのように「映画の脚本を書きたい!」という生徒さんがシナリオ・センターには沢山いらっしゃいます。そんな“仲間”に向けて一言メッセージをお願いいたします。
〇上平さん:映画脚本を書きたいかたに向けてということで言えば、1時間モノのコンクールなどから始めて、書けるようになったら、段階的に、映画向けのシナリオコンクールにも挑戦して、フォーマットに慣れていくのがよいかな、と思います。
…などと、偉そうなことを書きましたが、私自身、発展途上なので、またチャンスを貰えた時のために、体力作りをしっかりして、準備しておきたいです。
※そのほか脚本家・小説家・映画監督の出身生コメントはこちらから。
シナリオ・センター出身の脚本家・小説家・映画監督の方々のコメント記事一覧『脚本家・小説家コメント記事一覧/脚本や小説を書くとは』をぜひご覧ください。