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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

柏田道夫おすすめ 映画『 万引き家族 』を楽しむ 見どころ

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者は大いに参考にしてください。

柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その7-
『万引き家族』疑似家族の住む家と、映画のまなざし

いまさら、という感じもする『万引き家族』ですが、公開されたのがちょうど一年前で、最近ソフトも販売、ネットとかでも見られるようになりましたので。私も最近見直して、再感動でじんわりと涙しました。

カンヌでのパルムドール受賞を筆頭に、さまざまに語られている傑作ですが、作劇的なところを中心に改めて。

この物語はジャンルとすると〝疑似家族〟ものでしょう。いわゆるホームドラマの亜流ともいえますが、本物以上に結びつきの強い、血の繋がっていない家族の綱渡りの生活、危うさから、現代日本で置き去りにされている人たちの姿、ほとばしる思いを描いています。

彼らが生きるための術として〝万引き〟という犯罪を繰り返す様に、映画を見もせずに非難した議員がいたり、ネットで「日本の恥をさらす映画だ」みたいにバッシングする書き込みがあったりしました。こうした下らない間違ったレッテル貼りに負けることなく、創作者を目指す皆さんは、是枝監督のように、作りたいもの作る姿勢を貫いて下さい。

話を戻すと、ホームドラマで基盤となるのは、彼らがどんな家に住んでいるか、ということです。

ここのところ「ロードムービー」の構造をあれこれ取り上げましたが、旅ものと対する基本構造となるのが、「空間限定」(=グランドホテル形式)です。

この「空間限定」も程度があって、ホテルの一室とかひとつのホテル内、あるいはひとつの町というように、空間を決めることで構成が違ってきます。また、空間を限定することで、群像劇的な描き方がしやすくなります。

『万引き家族』は特に空間を限定しているわけではないのですが、彼らの住む隅田川近くの下町、それも〝四方をコンクリートのマンションやビルに囲まれた平屋の(掃きだめのような)一軒屋〟に集まった6人の物語。

この空間の絶妙さと、集まった6人は世代もバラバラで、それぞれが事情なり秘密を抱えている。彼らに共通するのは、今の日本にあって忘れられ、捨てられようとしている弱者でしょうか。

もともとこの家は、樹木希林扮するおばあちゃん(初江)が、独り暮らしをしていたらしい。モノが散乱する狭さと散らかりぶりや、風呂場の汚さといったディテールも素晴らしいのですが、名場面となっているのが、隅田川花火大会の音しか聞こえない縁側で、彼らが花火見物をするシーン。

この疑似(あるいは偽装)家族が、生活の拠点とする一戸建てボロ家の作り、ディテールを見つつ、テーマと重なるこれらの場面を注目しましょう。

そのほかにも、彼らが海水浴に出掛けるシーンであったり、安藤サクラの取り調べシーンであったりの個々のシーンの密度の濃さ。それぞれの人物の過去や事情、関係性などを説明ではなく、物語の進行とともに分からせていく手法も。

もうひとつ、是枝監督作品に共通する点としての〝人物のまなざし〟について。監督がそれぞれの人物に注ぐまなざしであったり、その人物たちのまなざし。

例えば、ラスト近くでバスに乗って振り返る翔太君は何を見たのか? 1人ビー玉で遊んでいたユリ(リツ)が、手すり越しに何を見ているのか?

その先に見るものについて、観客に問いかけている、預けているわけですが、これも映画の映画たる描き方です。

で、これはあくまでも私だけの感想ですが、こうした映画、それも日本映画特有のまなざしということで思い出したのは、成瀬巳喜男監督でした。成瀬監督は、同時代の黒澤明監督のダイナミックな映像で展開する映画とはある意味正反対で、けれども独特な作為の小津安二郎監督とも違う。

吸って吐く息みたいな呼吸で、そこにいる人の生活なり必死に生きる姿を見せていく。そうしたまなざしの邦画に、久しぶりに会った気がしました。

※日本アカデミー賞授賞式での是枝裕和監督のコメントを掲載しておりますこちらのブログ『第42回日本アカデミー賞レポート/映画業界 に入りたくなるコメント集』も併せてご覧ください。

※You Tube
ギャガ公式チャンネル
【公式】『万引き家族』大ヒット上映中!/本予告より

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その8-
『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』主人公の葛藤と、一貫した動機と目的

今回は、バレエファンなら誰でもその名を聞いたことがあるルドルフ・ヌレエフを描いた『ホワイト・クロウ』です。原題は〝白いカラス〟、転じて〝類稀なる人物〟さらには〝はぐれ者〟で、まさにこの両方の意味が含まれています。

監督は『シンドラーのリスト』『イングリッシュ・ペイジェント』などの主演だったレイフ・ファインズの監督3作目で、約20年も映画化の機会を狙っていたとか。脚本は『めぐりあう時間』や『愛を読む人』など、重厚なドラマに定評のあるデヴィット・ヘアー。

で、今回作劇のポイントとして見ていただきたいのは、主人公の「動機」と「目的」、そこから派生する「貫通行動」。これを貫こうとするがゆえに、人物を追い込む「対立・葛藤」のドラマ性です。

さて前々回は、実在したお笑いコンビのローレルとハーディの、落ち目になった後半生を描いた『俺たちのラストステージ』(※)でしたが、『ホワイト・クロウ』も偉大なアーティストとして名を刻んだ人物の一代記ものです。

こちらでは、ヌレエフが冷戦時代にあって、当時の大国ソ連から西側に亡命する事件を中心に、一流のダンサーとして頭角を現していく若き日のヌレエフのサクセスストーリーと、彼自身の幼少期の回想を織り込みながら辿っていく。

ヌレエフは1938年(それもシベリア鉄道の列車内で)生まれ、亡命が61年ですから23歳の時、死亡は93年で享年54歳(死因はAIDSの合併症)。亡命後のヌレエフの後半生もドラマチックに作れるでしょうが、それには目もくれずに、故国を背負い、大国のプレッシャーと闘い、亡命を実行する前半生だけに焦点を絞り込んでいます。

ちなみにヌレエフを演じたオレグ・イヴェンコは、現役のバレエダンサーで、演技だけでなく見事にバレエシーンもこなしています。

脚本家はキャスティングには通常大きく関わりませんが、こうした実在したアーティストを映画とする場合は、主演が映画の出来を左右します。大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』で、フレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックがアカデミー賞の主演男優賞をとったのは、まさに彼なしでは音楽シーンも成立しなかったと思わせるゆえでしょう。

さて、物語の人物、特に主人公のキャラクター造型で不可欠なのは、物語の中でその人物が何をしようとするのか? 前進させるための「動機」で、人物が目指す「目的」はどこ? 何なのか? 

作者はこれを据えることで、主人公は「貫通行動」をとります。途中で挫折したり負けたり、葛藤したり、カセや敵が行く手を阻んだりするけれど、最終地点を目指して前進する。物語はここを外してはいけません。

この映画のヌレエフの「動機」と「目的」(映画を観て確認して下さい)は、実にシンプルです。国家や人間関係というしがらみが障害となりますが、彼はこのシンプルな「動機」で物語を突き進みます。

ただ、落ち着いたタッチでじっくりと見せる佳作なのですが、若干物足りなさも感じました。
で、私ならばですが(皆さんも作劇法を吸収するだけでなく、「自分ならどう描くか?」と考えましょう)、あのクライマックスの後に、もうひとつ(それこそ『ボヘミアン・ラプソディ』が、観客を揺さぶったあの再現場面のような)、まさにヌレエフならではのダンスシーンを、最後の見せ場としてもってきてほしかった。

もうひとつだけミソ帳にメモ。
バレエの表現法と技法の習得に悩むヌレエフに、師(レイフ・ファインズ)が技術偏重を否定し、「バレエの目的とは、何かを伝えること、物語ることだ」という印象的なセリフがあります。

※前々回ご紹介した『俺たちのラストステージ』はこちらのブログ「柏田道夫おすすめ 映画『 運び屋 』を楽しむ 見どころ」をご覧ください。

※You Tube
キノフィルムズ
映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』2019.5.10(金)公開より

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