フィクションとノンフィクション
シナリオ・センター代表の小林です。今年後半のスタートを切りました。あまりの時の過ぎゆく速さに、ゼイゼイ言いながらやっとの思いでついていっていますが、後半スタートにエンジンを掛けなおすつもりで、映画を観てきました。出身ライターの方が関わった映画ではないのですが。
「新聞記者」
東京新聞の女性記者望月衣塑子さんの「新聞記者」(角川新書刊)を原案にして、作られた映画です。
原作は、あの菅官房長官の記者会見の天敵望月記者です。
菅官房長官がなんでそんな彼女の質問にいつも答えないのか、不思議でなりません。望月記者は、安倍政権が提唱する活躍する女性のトップを走っていると思います。まさに安倍内閣のスローガン「すべての女性が輝く社会づくり」の大先端を行っている女性だと思うのですが。(笑)
そんな彼女の原作をもとに、森・加計問題や伊藤詩織さんのレイプ事件をモチーフにしていますが、藤井道人監督がご自分でおっしゃっている「空気を読む第一世代」らしい、どちらが悪いともいえないうまいシナリオです。
W主人公の新聞記者と内調の官僚の二人が、どちらも「国を守る」という大義をもっている、だからこそ己自身と葛藤し、周りとの軋轢に葛藤するのです。 人として葛藤する様を主体に、出てくる誰ひとり悪人ではありません。
なので、学生運動世代の方もたくさん見にいらしていましたが、ちょっと物足りないかもしれません。
この作品に関わったらテレビの仕事が来なくなるといって断った製作会社が2社あると藤井監督がインタビューで話しておられましたが、もしこの映画でテレビ業界が政府をビビって忖度するとしたら、あまりにも情けないかと思います。そこまで強烈ではありません。(笑)
監督は新聞を読まれないし、映画でモチーフになっている伊藤詩織さんの話もモリカケ問題もニュースを見ていないからわからなかったそうですが、その何も知ろうとしない何も知らない世代だからこそ描ける「違う立場の二人がともに人間としての生き方」を模索している姿が見事です。
どう生きるか
藤井監督は、オファーした河村プロデューサーに「俺たちみたいな反政権の気持ちが強い人間が集まってこの映画を届けるんじゃなくて、お前たちの世代が、政治に興味のない人間が撮ったらどうなるか。だからこそ撮るべきだと思うなんだ」と説得されたそうですが、その意を見事に汲んで、どの世代にも考えていただけるようないい映画にできたかと思います。
観た方が、自分はどう思うのか考えるのかを問うような対立・葛藤を見事に描いています。
内調は世論操作をします。ある意味嘘も平気で流します。「いたしかたない」が「民主主義国家を守るために」。
新聞社はその嘘を暴きます。ずかずかと他人の中に入り込んだりします。「ものを言える国を守るために。」
善悪どちらが正しく間違っているか、本当のところは誰一人わかりません。
だからこそ、人は葛藤し対立するのです。ドラマそのものです。
集団の中の個としての在り方を考えさせられる映画です。
閉塞感のある今の時代を変えるためには、こういう映画を観てほしいと思います。
一人一人がなにをすべきか、人として生きるということはどういうことなのでしょうか。
夏の1日、自分を見詰める日を設けて、2019年後半に備えてみようと思います。