「言いたいことが、上手に伝わらない」ことで生まれる損失って、すごく大きいと思いませんか?世界規模で考えたら、伝え方は世界経済を左右する問題とさえ、言えそうです。
初めまして。
ライフワークとして『一億人のシナリオ。』プロジェクトのお手伝いをしている野村郁と申とします。普段は某フィットネスチェーンの店舗運営に携わっております。
フィットネスチェーンですので、チェーン理念も「世界中の人を健康に」というよくあるもの。これでは、なかなかスタッフたちに、何のために仕事をするのかが“伝わらず”、日々モヤモヤを抱えています。
そこで、今日ご紹介するのは、シナリオ・センターが出前セミナーをした『ずれない伝え方セミナー』です。相手に上手に伝える方法を、私も受講者として参加させてもらったので、その目線でレポートします。
セミナーを開催したのは6月某日、秋葉原。採用活動での説明会や面接、キャリア支援の講座などの場面で、企業のビジョンや求める人材像などの「思いを伝える」ことが、仕事のキモになる企業の人事採用担当者、研修担当者、学校関係者の方々にお集まりいただきました。
『ずれない』とは?
シナリオ・センターや、講師の新井の自己紹介を簡単にすませて、さっそく本題に入ります。
▲スーツの海の中、ゆるっとしたカーディガン姿の新井。紳士淑女の皆様が好意的に話を聞いてくださるので、ずんずん調子に乗ってきた模様。
まず、今日のテーマである『ずれない』ですが、具体的にどういう状態なのでしょうか?
たとえば、あなたは昨日、晩御飯に何を食べましたか?
そう聞いて、頭の中には何が浮かんだでしょうか。
オムライスを食べたのだとしたら、オムライスという「文字」ではなくオムライスの「絵」が浮かんだことと思います。
ケチャップで文字が書いてあったのか、デミグラスソースだったのか、つけあわせの野菜は…
自分の頭に浮かんできたオムライスの「絵」を細部まで思い出して、「ふわふわたまごにデミグラスソースがかかっていて、ブロッコリーが添えてあって…」と伝えて、相手の頭の中にあなたの頭に浮かんでいるオムライスとほぼ同じ絵が浮かんでいたら、しっかり伝わったと言えます。
つまり「文字」ではなく「絵」こそが、どんなオムライスだったかを雄弁に語ってくれる訳です。
この原理を仕事上の場面に置き換え、「ずれないで伝わる」ためのポイントを3つ設定して、それぞれワークを実施しました。
①伝えたいことが言葉にできる状態
②絵(イメージ)が自分の頭の中にある状態
③絵が相手の頭に浮かんでいる状態
「で、それとシナリオがどう関係するの?」となるわけですが、シナリオはドラマを映像化するための設計図、絵を伝えるためのツールなので、使えるワザが盛りだくさんなのです。
①伝えたいことが言葉にできる状態
これが一番のキモでもあります。ここがずれると、ずれたものを絵にして、相手の頭に浮かぶのもずれた絵になってしまうからです。
「自分の言いたいことを言葉にするなんて簡単だろう」と思われがちなのですが、そうでもないことを思い知らされるのが、ビジネスシナリオの鉄板ワーク「健太くんの質問に答えよう」です。
▲生意気な健太くん(10歳)
見るからに生意気そうですね〜。こんな健太くんから、仕事についての質問をどんどん突きつけられ、それに対する答えを書きます。セリフの応酬なので、まさにシナリオです。
制限時間は各質問に対してたった1分。1分しかないからかっこつけられないし、子供相手だから分かりやすく言わないといけない、ましてや大人気なく怒ることもできない。
自分の理念を子供にもわかることばで説明するというのは、もっともらしいビジネス用語を駆使してそれっぽく話すよりずっと難しいのです。
このようなワークを繰り返すと、自ずとあなたの根っこにある=あなたが仕事において大事にしているキーワードが出てきます。
私の場合、この第1のワークで出てきたキーワードは「健康」「好き」「世界中」「元気」でした。
はい、なんのヒネリもない、芸のないことばばかりです(笑)
でも心配ご無用です。伝えるのは「ことば」ではなく「絵」なので。
▲「当たり前の言葉しか出てこない…」「なんか恥ずかしい」そんな感想が漏れ聞こえていましたが、それでいいんです!
②絵(イメージ)が自分の頭の中にある状態
つぎに、①のワークで出てきたキーワードを軸に、自分の頭の中に絵を描きます。
まずキーワードをもとに自分の理念を一文にするのですが、私の場合、「健康」「好き」「世界中」「元気」というキーワードからは「世界中の人を健康にすることで、世界を平和にしたい」という、これまた青臭いきれいごとのような理念しか思いつきませんでした。
が、ここでシナリオ技術の真骨頂が発揮されます。
この理念を、「そんなのきれいごとじゃん」と思わせることなく、「ああ、それはいいですね!」と伝わるために重要なのが、「天地人の設定をせよ」という第2のワークです。
天:時代・時期
地:土地・舞台
人:人物
「世界中の人を健康にすることで、世界を平和にしたい」
この理念を説明するための設定を天地人で考える…個人的にはこのワークが一番難しくて、周囲の方々も一番悩まれていたように思います。
あまりに難しいので、こっそり新井に「ほんとにこの設問でいいの?」と噛みつきつつ、うんうん唸りながら考えること数分…突如、ある設定が頭の中に浮かびました。
天:2100年
地:北朝鮮平壌にあるフィットネスジム
人:老若男女、様々な人種の人達が楽しそうにトレーニングしている
そうです、まさに理念を表す「絵」が頭の中に表れたのです。正直、この瞬間はめちゃくちゃ気持ちよかったです。
▲休憩時間も惜しんで「天地人」に没頭される方多数。みなさん真剣に取り組んでくださって本当にありがたいです。
③絵が相手の頭に浮かんでいる状態
最後に、②で自分の頭の中に浮かんだ「絵」が、相手の頭にも浮かんでいる状態にします。具体的には、天地人で考えた設定を映像化するために
柱 :場所
ト書 :状況・人物の動作
セリフ:人物のセリフ
に展開してシナリオを書くのが第3のワークです。
ここからは一気呵成に進めることができました。一場面が頭に浮かぶと、それを映像にするのはさほど難しくありません。心なしか、他のみなさんもするする筆が進んでいるようです。
もはやはっきりと頭の中に映像が再生されているので、絵心があればその1場面を切り取ってイラストを描くこともできますし、映像を集約した文章を書くこともできます。
その文章は、先ほどのきれいごととは全く違うものになっていました。
▲「世界中の人を健康に」というお題目も、シナリオを通すと自分だけの「絵」になります。
職場に戻って、早速スタッフたちにこの日のことを話しました。
というのも、フィットネスチェーンですので、チェーン理念も「世界中の人を健康に」というよくあるもので、単なるお題目にしかならず、なかなかスタッフたちにハラ落ちしなかったからです
が、私の思う理念を「絵」を見せながら話したところ、そんなにワクワクする未来を実現するために、今自分たちはがんばっているんだ!!と、モチベーションアップにつなげてくれたようで、感無量でした。
ずれなく伝わるのって、なんかすごくうれしい…
『一億人のシナリオ。』プロジェクトのサポーター野村郁でした。