「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
「小説を書きたい!」「小説でこういうことを書いてみたい!」という気持ちはあるのに、いざ書こうとするとどうしたらいいか分からなくなってしまう…。こういうことありませんか?こういったお悩みをおもちのかたにオススメするのは、ショートショートを書いてみること。今回は柏田講師が「傑作ショートショートだ!」という星新一さんの『おーいでてこーい』を引用しながら解説。
ショートショートを書く
小説の文章力や、物語としての作り、構造、展開のさせ方などをレッスンするために、まずショートショート(掌編小説)を書いてみることをオススメしています。
ショートショートは原稿用紙1枚程度から、多くても20枚ほど、それ以上になると短編小説の領域に入るようです。ようですというのは、何枚までがショートショートで、何枚以上からが短編といった厳密な決まりが定められているわけではないから。
例えば、一番短い小説として知られているのは、SF作家フレッドリック・ブラウンの「地球最後の男がいた。そこにノックの音が……」というのがあります。またヘミングウェイが「6つの単語からなる小説が書けるか?」という賭けをして書いたという「For sale: baby shoes, never worn.(売ります:赤ちゃんの靴、未使用)というのもあります。
確かにこの2作、じっくりと噛みしめると、あれこれと想像が膨らみ、小説といえばそうなのかもしれません。
ただ、これらはいわゆるジョークとの差が曖昧ですし、日本が世界に誇る短詩型の俳句にも、ストーリー性を感じさせるものがたくさんあります。例えば芭蕉の晩年の句「秋深き隣は何をする人ぞ」や「旅に病で夢は枯野をかけ廻る」などは、小説的な味わいを感じませんか?
そういう領域に行ってしまうと、方向性が分散しそうですので元に戻すと、レッスンとしての小説、ショートショートを書くならば、もう少しまとまった分量にしましょう。
主人公のいない星新一の『おーいでてこーい』
ともかく、ショートショートはいわゆるオチ、結末できれいに着地させて読者を「おお、そうきたか!」とか「なるほど」と膝を叩かせるタイプの作品と、読み終わってしみじみと「いい話だ」とか「胸に染みた」と余韻を与える作品の2つに分けられるでしょう。
ショートショートの達人といえば星新一で、以前ここでも一人称の例として『地球から来た男』を紹介しました。星さんの代表作でオチが見事で、しかも特定の主人公がいない傑作として『おーいでてこーい』という傑作ショートショートがあります。枚数にすると400字10枚くらい。
台風が去って、すばらしい青空になった。
都会からあまりはなれていないある村でも被害があった。
村はずれの山に近い所にある小さな社が、がけくずれで流されたのだ。
朝になってそれを知った村人たちは、
「あの社はいつからあったのだろう」
「なにしろずいぶん昔からあったらしいね」
「さっそく建てなおさなくてはならないな」と言いかわしながら、何人かがやってきた。
という書き出しで、この社の横にぽっかりと底の見えない穴ができていて、若者が「おーい、でてこーい」と叫びますが、何の応答もない。次に彼は石ころを投げ入れてみるがそのまま消えていった。
この穴は何だろう?どこまで続くかなどを学者たちが調べても分からない。やがて利権屋がこの穴を買い取り、ビジネスにしようとする。ゴミやいらなくなったものをいくら放り込んでも穴は埋まらない。ついに原子力発電の核のゴミまでも捨てられるようになって、そしてある日……
この小説のラスト(オチ)は見事ですし、ほぼ半世紀前の作なのに、今の時代にこそ相応しいテーマです。ぜひ読んでみて、見事な造りを学んでください。
出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2017年12月号)より
★次回は9月7日に更新予定です★
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小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧はこちらからご覧ください。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう。
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