作品フォーマットの構築も金城さんの大きな功績です。『~マン』『~セブン』では、「巨大な宇宙人が宇宙から飛んできて、巨大な怪獣と戦って地球を救う」という、今まで類を見ない奇想天外な作品にトライしました。
現場の監督やスタッフもこんな作品はつくったことがないわけです。後年、私はいろんなスタッフから話を聞きましたが、試行錯誤の連続で、「ホンに書いてあっても、それはできない」というようなこともしょっちゅうあったらしい。それを現場の意見を聴きながらブラッシュアップしていく。
アイデアが枯渇すると、スタッフと酒を酌み交わす。フッといいアイデアが湧いてくると、家に帰って徹夜でホンを書き上げたなんていうエピソードも随分聞きました。地に足の着いたモノづくりの中で、新たなフォーマットが出来ていったんだろうと思います。
つまり宇宙人がいて、怪獣が襲って来る、地球を守るために科特隊、もしくはウルトラ警備隊が出動して戦うけれども勝てない、いよいよって時にハヤタがウルトラマンに変身して戦う、というフォーマット。これを凌駕する作品はなかなか出てこない。だから金城哲夫賞を立ち上げたんですけどね。
金城哲夫は、ホンを書くことにプラスして、人的な調整力があった。当時の『ウルトラマン』の企画メモに、TBSと円谷プロの合意事項が記載されています。企画立ち上げにあたって、作品の方向性を取り決めたんですね。
・子供向け番組であることを確認し、ナレーションおよび会話は平易であること。
・ストーリーはシンプルであること。特に次の3点にユニークなアイデアを発揮する。
1.怪獣がいかに出現するか。
2.怪獣がどんな形をし、いかなる特性を持っているか。
3.科学特捜隊がどうやっつけるか。
・内容はインターナショナルであること。日本にしか通用しない習慣・状況設定はしない。
・巨体を持て余してビルを破壊するだけしか能がない怪物は、もはや怪物ではない。
・ウルトラマンは、科特隊が絶体絶命のピンチに陥った時、ハヤタ隊員からウルトラマンに変身して活躍する。
・いつどうやって変身するかにお客さんの興味は集中する。
・長時間ウルトラマンであることはできない。
・ショッキングなシーンは歓迎するが、生理的嫌悪感を持つようなシーンは避ける。
『ウルトラマン』は本当は1年間やるつもりだったようですが、撮影が押して放送が間に合わなくなって39本で終わり、この後、東映の『キャプテンウルトラ』を挟んで、半年後に『~セブン』がスタートしました。
次は『~セブン』の確認事項です。1967年の10月1日放送開始なので、その3カ月前くらいの企画書の一部です。
・大人の鑑賞に堪えるものを。ただし、これまでの圧倒的な支持を受けてきた低年齢層の理解の範囲を超えないこと。
・作品としての『ウルトラマン』の怪獣に代わる要素として、新たに宇宙人を設定する。これは単なる空想の産物ではなく、子供たちに親近感とリアリティを支える魅力ある存在に仕立てる。ただし滑稽さを避け、怖いものであることが必要である。
・アクションのみに頼らず、心理的なサスペンスと意外性、知力と知力の戦いを重視する。
・セブン自身も弱点があり、ダメージを受けることもあり得ることを確認し、ウルトラマンの能力をあまり広範囲に広げない。
・主人公ダンは隊員アンヌから好意を持たれるが、宇宙人である彼にとってその愛は受け入れることはできない。彼は宇宙平和への愛に変えて、力いっぱい地球を守る。アンヌとダンの関係は、強い友情あるいは淡い慕情の域にとどめる。
・極端な残酷なシーンは極力避ける。
企画書にここまで具体的に目指す骨子を書いて、何人かの脚本家がいる中でブレないように共有していく。これも金城哲夫の大きな功績です。
今のシナリオ作家も個性的な方が多いですが、50年前はもっと野心的な人たちがたくさんいらっしゃったはず。その才能を買ってお願いするわけですが、だからといって自由気ままに書かれてしまっては修正ができない。
だから「こういった要件を押さえてくださいね」ということを具体的に示した。我々もこれを踏襲しようとしています。