日本の他に台湾・タイ・スペイン語圏など6つの地域でも展開し、今年5月には世界累計で3000万ダウンロードを突破した、NHN comicoさんのマンガ・ノベルアプリ「comico」。
配信されているマンガ作品の中には、アニメ化・実写化されたものが沢山あります。例えば、
■アニメ化・実写化ともにされた作品
『ReLIFE』夜宵草さん ※映画の脚色は出身ライター阿相クミコさん
■アニメ化された作品
『ももくり』くろせさん/『ナンバカ』双又翔さん/『ピアシェーヴォレ!~piacevole~』Nab_Atさん/
『ネト充のススメ』黒曜燐さん/『ミイラの飼い方』空木かけるさん、など。
■実写化された作品
『こえ恋』どーるるさん ※テレビドラマの脚色は出身ライター大林利江子さん
『傷だらけの悪魔』澄川ボルボックスさん ※映画の脚色は出身ライター松井香奈さん
そんな数々の人気作品を生み出しているNHN comicoさんで今回、編集部の皆さんを対象にした【ずれないディレクション研修】を実施いたしました。NHN comicoさん用にアレンジした【ずれないディレクション研修】は3段階で構成(図参照↓)。
【ずれないディレクション研修】は時間にすると合計24時間!
長丁場だったこちらの研修、本当に編集部の皆さんのお役に立てたのか。率直なご感想をお聞きするため、編集部のNさんとKさんに、研修を担当した新井自らインタビューしました。
まずは、「沢山のヒット作品を生み出している今、ずれないディレクション研修をなぜ受けようと思ったのか」というところからお聞きしました。
①導入研修を受けて
「なんかちょっと…」という“感覚”を言語化して作家さんに話せるように
*
Nさん
このサービスを開始した当初は雑誌や書籍など“紙”の編集経験者がゼロだったんです、今はいるんですけどね。いろいろ手探りで編集の業務をやってきたので、個人の経験値に基づいて、それぞれのやり方でやっている部分がありました。編集者間で、また編集者と作家さんの間でも通用する“共通言語”をもつにはどうしたらいいかモヤモヤしていました。
そんな中、シナリオ・センターさんが映像制作会社さんやゲーム制作会社さんで行った研修の紹介記事を読みました。映画・ゲーム・マンガと媒体は違っても、「物語を作る」ということには通じるところがあるので、多少アレンジしていただくにしてもレクチャーしてもらえるんじゃないかなと。それから、弊社の社長 兼 編集長の武者正昭がシナリオ・センターで学んだことがあるというのも大きかったです。シナリオ・センターで学んだ武者を通して、私たちが学ぶことがすごく多かったので。
新井
「ずれないディレクション研修をやる」という話を聞いて、編集部の皆さんの反応は?
Kさん
みんな、それぞれの編集論で作家さんと向き合っているところがありました。編集者間で感覚的に「そうだよね」というところはあったんですけど、それを言語化してロジック立ててというところまで追いついていなかったので、みんな「学びたい!」という熱量が高かったと思います。
新井
良かった!では、研修のご感想をお聞きしたいのですが、今回最初に受けていただいたのが導入研修。シナリオ8週間講座に来ていただく前に、「こういうことをまずはおさえておきましょう」というポイントをお伝えしました。いかがでしたか?
Kさん
感覚的に「そうだな」と分かっていることを、どんな言葉で言えばいいのか“言語化”していただいたので、作家さんに説明しやすくなったなと思います。導入研修の次の日、実際に作家さんと打ち合わせをしたときもけっこう使いましたね。プロットをみていたときに「このキャラクター、なんか弱いな」と思って。そこで、「なんか弱い」という感覚を、導入研修で教えていただいた「憧れ性と共通性が足りないのでは?」と言語化して指摘しました。
新井
おお!早速使っていただいたんですね!
Kさん
自分の感情のままに「面白いんだけどなんか違うんですよね」とざっくり言っても作家さんには伝わらないし、そういう言い方だと作家さんが自分のセンスを否定されたような気持ちになってしまうこともあるので。だから、ちゃんとロジック立てて「こうだからこう」と言えると、納得してもらいやすいと思います。
Nさん
それから、「シナリオについて勉強したんですけど、こういうことも基本としてあって」と言うことで、説得力も増したんじゃないかなとも思います。
②シナリオ8週間講座を受けて
“発見”が半分、もう半分は“裏打ち”
*
新井
では、シナリオ8週間講座はどうでしたか?
Nさん
“発見”が半分、もう半分は“裏打ち”でした。
新井
「そうか!」という部分と、「自分の経験に基づいてやってきたことは正しかったんだ!」と再確認できた部分の両方があった、と。
Nさん
はい。“発見”という部分でいうと、キャラクターの作り方について。マンガは特に“キャラクター勝負”と言われることが多いのですが、どうやったら魅力的になるのかモヤモヤしていたところがあって。そういった中で、まず「〇〇すぎる性格」というのを決めてから、そこに紐づいた憧れ性と共通性を考えていけばいい、というのは「そういうことか!」と腹落ちしましたし、作家さんにも説明しやすい。
「〇〇すぎる」という極端な性格なら、何かしらの事件を起こしやすいので、物語が転がりやすくなるんですよね。マンガやイラストの専門学校でお話しさせていただくこともあるのですが、「絵を描くのは好きだけど物語は苦手」という学生さんにもこの話は納得していただくことが多いですね。
新井
なるほど。物語が転がらないとき、「〇〇すぎる性格になっているか」を見直すと突破口になりますね。
Nさん
“裏打ち”という部分で言うと、テーマを作ることですね。20~30代ぐらいの作家さんのプロットで「こういう世界観が好き!やりたい!」というのは分かるのですが、何を伝えたいのかが曖昧で、「テーマは何ですか?」とお聞きすると「特に言いたいことはないです…」となることがありました。
でも、生きている中で絶対に伝えたいこととか言いたかったけど飲み込んできたことがあると思うんですよ。だから「中学生のとき、親や同級生に対してこんなこと思ってたなとか、そういうことをブレイクダウンしてテーマにしてみませんか?」と。で、テーマが決まったら「主人公を〇〇すぎる性格にすると、そのテーマがより伝わりやすくなりますよね」と。
新井
たしかに。テーマを決めることから始めると、考えるのがスムーズになりますね。
Nさん
そうなんです。例えば「何かを決めることは何かを捨てること」をテーマにするなら、主人公を優柔不断すぎる性格にすれば、成長していく過程において色々な決断を迫られて、そのたびに葛藤して…、というふうに物語が転がっていきますね、とか。
心掛けているのは、僕たち編集者が思ったことじゃなくて、作家さんご自身が伝えたいことを必ず起点にして考えること。で、そこが決まってから、学園モノにするのか恋愛モノにするのかといった“がわ=舞台設定”を決めていく。テーマを決めるなんて当たり前のことなんですけど、でもやっぱり大事。打ち合わせがスムーズになったと気づきました。
新井
Kさんは、8週間講座を受けてどうでしたか?
Kさん
発想についてはすごく勉強になりました。どうやってネタを集めるのかとか、ミソ帳をつけるとか、発想の仕方を教えていただいて。例えば「何を書いたらいいか分からない…」という作家さんにアドバイスがしやすくなりましたし、自分が企画を立てるときも「もし〇〇が〇〇だったら」というところから考えてみようとか。
あと、「今日性(こんにちせい)」。「なんで今、このテーマの作品をやるのか」を考えるのは凄く大事なんだと腑に落ちました。今日性をきちんと考えた作品は読者の皆さんにもささると思うんですよね。ドラマ『わたし、定時で帰ります。』(2019年/TBS/※出身ライター清水友佳子さん脚色)は「すごい今日性だな」と思って観ていて。だからあのドラマはヒットしたんだなって。
③特別講義を受けて
作家さんとやり取りする際の“チェック機能”として使用
Kさん
8週間講座の課題で毎回シナリオを書いたことで、テレビドラマだけじゃなくて映画の見方もちょっと変わりました。「このシーンをト書きで書くとこうかな」とか「こんな演出があるんだな」とか。
新井
実際にシナリオを書いてみると、ドラマや映画を「なんとなく観る」じゃなくて、「コレこうときに使えるな」とかアンテナを張れるようになりますよね。
Nさん
あと、実際に課題を書いてみて「〆切って大変だな」と(笑)。
新井
作家さんの気持ちも実感できますよね(笑)。
導入研修と8週間講座を経て、ここまででもけっこう色々学んでいただけたのかなとは思うのですが、その後実施した特別講義(特講)はどうでしたか?特講の前半は登場人物のキャラクターについてさらに詳しくご紹介し、後半は構成(起承転結)とディレクションの方法についてご紹介しました。
Nさん
導入研修と8週間講座を踏まえての特講だったので、これまでの復習にもなりましたし、特講前半で教えていただいた「登場人物のキャラクターと関係性」のお話は作家さんに説明する際にすごく使っています。
例えば、相反する2人の登場人物がいるとして最初はすごく仲が悪いんだけど、いろいろな事件が起きて2人が協力しないといけなくなる。物語が進むにつれて「犬猿の仲→タッグを組む」みたいに2人の関係性は変わっていくんだけど、べつに2人が仲良くなったわけじゃない。2人の性格は最初と変わってないので。この「性格は変わらないけど関係性は変わっていく」という理論を作家さんに説明すると主人公のキャラクターがブレない“キャラブレ防止”になります。
Kさん
あと、特講後半のことでいうと、起承転結の“山の図”。これはめちゃめちゃ使っています。
作家さんからのプロットをこの図に落とし込んで、当てはめながら考えると、構成ができているか、また、この流れの中で主人公がちゃんと貫通行動(主人公が自分の目的に向かって進むための一貫した行動)できているか確認もできます。
新井
良かった!特講を最後に受けていただいたことは、作家さんとやり取りする際の“チェック機能”として使っていただけているんですね。
Kさん
教えていただいたことは編集者同士でもいろいろ使っています。この前、作家さんからいただいたプロットで「うーん」ということがあって、そう感じる原因を同じ研修を受けた同僚に相談してみたら「これは“張り手型”と“撫ぜ型”のどちらにも当てはまってないからそう思うのでは?」と。「あ!そうだった!」と思ったのと同時に、「教えてもらったワード、早速使ってる!」って(笑)。
本科ゼミに進級されたKさん
「小道具を効果的に使えるとカッコイイ演出になるんじゃないかな」
新井
Kさんは特講の後、自主的に本科ゼミに進級して、今も継続的にシナリオの勉強をしているんですよね。
Kさん
はい。やれるところまでもっとやらないと今まで習ったことが身につかないなって思ったんです。自主勉強でシナリオを書けるタイプでもないので、書かないといけないところに身を置こうと。
新井
本科ゼミの課題はどうですか?
Kさん
本科1本目の課題が「ハンカチ」だったり、小道具を使うのがすごく難しいです。
Nさん
普段、小道具はそんなに使わないんですよね。特に、comicoのマンガは縦スクロールなので、基本ずっとクローズアップということもあり、小道具をサラリと見せることが難しいんです。小道具がアップになると「これ、今後物語に関わってきますよ」みたいな、ちょっとわざとらしくなってしまうんですよ。
Kさん
でも、本科の課題で小道具を使って書いていると、これをうまくマンガの中に取り入れられたらすごく印象的なシーンにできそうだなとか考えますね。
例えば主人公がずっと包帯を巻いていて、その包帯を時折アップで印象的に見せる。で、実は包帯の下に痣があって、主人公には辛い過去があるということが伏線になって物語が転がっていく、とか。小道具を効果的に使ってうまくハマるとカッコイイ演出になるんじゃないかなと。
Nさん
マンガなのに、絵じゃなくてセリフに頼りすぎているところがあったりもするので。セリフで説明するより、1枚の絵でバーンと出せばそれだけで解決できるので、そういうマンガの特性をより活かせるように小道具も使えるといいなと思いますね。
Kさん
本科ゼミで皆さんの作品を聞いていると、ハンカチとか何の変哲もない小道具でこれだけ感動的なストーリーが作れるんだなと思って。だから作家さんにもあまり思考を狭めないで、面白い物語を沢山作っていただけれたらと今回改めて思いました。
新井
導入研修→8週間講座→特講、そしてKさんの場合は本科ゼミ、で習得していただいたシナリオの技術が実際のお仕事に“広がってる”という感じがしてすごく嬉しいです!comicoさんが発信する今後の作品も期待大ですね!ありがとうございました。
NHN comicoさん情報
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現在、マンガ家としてデビューする方法の1つに「マンガアプリに投稿すること」があります。
NHN comicoさんが運営するアプリには、同社が契約した公式作家さんたちによる連載「公式作品」や、誰でも投稿できる「チャレンジ作品」があり、チャレンジ作品の中で人気が出た作品や編集スタッフが「面白い!」「人気が出そう!」と思った作品はスカウトして、公式作家・公式作品になることも。例えば、空木かけるさんの『ミイラの飼い方』はチャレンジ作品からそのまま公式作品となりました。
“公式デビュー”の流れとしては、空木かけるさんのようにチャレンジ作品で投稿した作品で公式デビューする方もいれば、チャレンジ作品に投稿した作品が編集者の目に留まり、違う作品で公式デビューする方もいるんだとか。
すごいチャンスがありますよね!マンガ家志望のかたは要チェックです。
なお、NHN comicoさんでは現在、このようなコンテストを開催中。是非挑戦してみてください。
・裏切りCUP
詳細はこちらからご覧ください。
・学生選手権
詳細はこちらからご覧ください。