脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者は大いに参考にしてください。映画を普通に観るよりも、勉強になって、なおかつ何倍も面白く観れますよ。
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その9-
『 ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』三幕構成と人物の掘り下げ不足
大ヒット中の話題作。記念すべき第1作目の『ゴジラ』と、ほぼ同じ頃に生まれた私は、まさに怪獣映画と共に少年期を過ごした世代です。ハリウッド大作として、日本が生んだゴジラのみならず、モスラ、ラドン、キングギドラのそろい踏みは、もうそれだけで感無量。特に伊福部昭さんのテーマ曲には涙々。
すでにいろいろと語られている本作ですが、ここではまだおそらく、誰も語っていない「構成」について述べたいと思います。あくまでも私なりの分析ですし、なるべくネタバレしないようにします。
日本でも最近取り入れられつつある構成法が「三幕構成」です。ハリウッド映画は、物語をおもしろく運ぶベースとして研究されてきて、エンタメ映画は特に、この「三幕方式」となっています。
これについて詳しく知りたい方は、第一人者のシド・フィールド先生による指南書が出ています。ついでに宣伝ですが、拙著の『ドラマ別冊 エンタテイメントの書き方3』では、アカデミー賞受賞作をサンプルに、「三幕方式」について解説にしていますので、読んで下さい。
さて今回の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』も三幕で構成されています。観ている間はほとんど夢中なので、そんなことは気も付かないのですが、後でちょっと思い出してみて下さい。
冒頭シーンは、前作2014年版の『GODZILLA ゴジラ』で、サンフランシスコを破壊するゴジラ、という張り手型。
その折に息子を亡くしたエマ・ラッセル博士(ベラ・ファーミガ)と娘のマディソン(ミリー・ボビー・ブラウン)、別れた夫のマーク・ラッセル博士(カイル・チャンドラー)の紹介です。この冒頭で5年前が描かれますが、以後、「回想シーン」はいっさいないというのも注目。エンタメ作では〝極力「回想」を入れない〟というのもハリウッド映画ノウハウのひとつです。
で、この母と娘が何の研究をしているかだったり、トラブルの発生。さらにモナークという巨大怪獣研究対策チームがあって、ここに所属しているのが芹沢博士(渡辺謙)ら主な登場人物たちです。
事件を絡めてのそれら人物の紹介と、敵となる傭兵部隊の暗躍、そして、南極で眠っていた最大の敵(キングギドラ)の覚醒、そしてそのキングギドラとゴジラとの第一ラウンド。ここまでが発端の第一幕。
それから加速度的に、ラドンやモスラの出現、さらにゴジラとキングギドラの第2ラウンドがあり、ゴジラは死んだ(?)といった局面を経て、芹沢博士によるある行動が行われる。それによって……
ここまでが中盤の二幕。
そして第三幕はボストン。主戦場としての野球場を中心とした怪獣たちによる怒濤のラストラウンドと、結末まで。
さて、さすがにCGを駆使した怪獣バトルシーンは大迫力の見せ場なのですが、登場人物たちのドラマ要素が薄く、明らかにシナリオとして失敗しています。人間ドラマとしてメインに据えられた、ラッセル家の葛藤やら家族愛に新味がなく、描き方がパターンになってしまっているのです。特に中心人物であるエマの「動機」と「目的」が、ストーリー上の都合になってしまっていて、貫通行動としても一貫しておらず、感情移入できません。
私が日本人だから、ということではけっしてないのですが、我らの渡辺謙さんが演じた芹沢博士のドラマ性、ディテールがほとんど描き込まれていないので、プロットポイントとして重要な彼の行動も感動を呼ばない。
元祖1954年版『ゴジラ』の、平田昭彦演じた芹沢博士は、脇キャラなのにちゃんと彼の履歴があって、ゆえに彼の選択に心が揺さぶられます。
こうしたスペクタクル映画であっても、ドラマ性をどう入れ込むべきか? シナリオとしての問題点もチェックしてみて下さい。
※You Tube
東宝MOVIEチャンネル
映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』予告3より
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その10-
『ダンスウィズミー』バディロードムービーと主人公の動機と目的
今回は、8/28(水)シナリオ・センターの公開講座「矢口史靖監督の根っこ」で、監督からいろいろと創作の秘密をお聞きすることになっている『ダンスウィズミー』。
私は知る人ぞ知る快作コメディ『ひみつの花園』(記念すべき西田尚美さんの初主演作)からの矢口監督の大ファンです。PFF受賞で注目された矢口監督が、メジャーになるきっかけとなった映画ですが、なにしろご自身で書かれたシナリオがシンプルかつ一直線で素晴らしかった。私がシナリオコンクールの審査員だったら、文句なしに大賞にしたでしょう。
西田さん扮する主人公の咲子は、子どもの頃から大好きなものが〝お金〟。その初心を貫徹すべく銀行員になったはいいけど、銀行強盗の人質になってしまう。強盗が富士の樹海で遺棄してしまった5億円を探すべく、地質学を学びロッククライミングやスキューバダイビングまで身につけて捜索に命を賭ける……
今回の『ダンスウィズミー』のヒロインの鈴木静香(三吉彩花)は、咲子とはちょっと物語の入り方が違うのですが、一直線であることや物語のシンプルさは共通点があるように思います。
この映画はジャンルとしてはコメディ、それも日本映画があまり得意としないミュージカルです。なぜでしょうか? 私もミュージカル映画大好きですし、いきなり(外国人の)俳優たちが歌い、踊り出してもすんなり楽しめるのですが、それが日本人の役者さんたちだと、気恥ずかしさを覚えたりしてしまう。
これがタモリさんみたいなミュージカル嫌いの人たちが、よく理由として挙げる感覚のようです。で、矢口監督がこの映画を作る発想のきっかけもここだったとか。その感覚をクリアする要素が、ミュージカル(音楽)嫌いの静香が歌ったり踊ったしてしまう〝事件〟であったり、履歴や背景づくりです。
その物語の前説的な造りを踏まえた上で、今回特に注目してほしいのは、まさに〝主人公の動機と目的〟です。
映画の基本構造としては、このコラムで取り上げた『グリーンブック』や『僕たちのラストステージ』のような、「バディ(相棒)ロードムービー」です。
静香は催眠術師のマーチン上田(宝田明)を掴まえるために、彼のサクラ役だった千絵(やしろ優)と相棒となって、東京から新潟を経て北海道まで旅をする。静香はなんとしても、公演旅行を続けるマーチン上田を掴まえなくていけない。彼に催眠術を解いてもらわないと、日常生活に戻れないし、せっかく憧れの人から指命されたプロジェクトチームにも入れなくなってしまう。
切実な「動機」と「目的」が掲げられているので、静香の行動は一貫していて、さまざまな困難、トラブルに見舞われながらも(おもしろく展開させるための必須要項)ひたすら突っ走る(貫通行動)。その展開で要所要所に観客を楽しませる見せ場こそが、歌って踊るミュージカルシーンです。
最初に矢口監督初期作の『ひみつの花園』(機会があれば合わせてご覧下さい)をご紹介しましたが、この物語の主人公の咲子の動機と目的が、自身が一番大好きな(静香とは真逆ですが)お金の行方をひたすら追いかける、というのと共通項なのはまさにここです。
咲子はお金持ちになりたくてお金が好きというのではなく、ただお金が好きというキャラクターです。対する静香は、ミュージカルが嫌いなのに、ミュージカル体質になってしまったこと。この必死さが笑いを呼びます。
さらに、ロードムービーの(に限らず物語のですが)基本は、主人公が旅を始める最初と、終わる最後で変化(成長)していること。静香はともに旅をする千絵との間に友情が芽生えますし、旅をする前とは180度の変化をします。
講座ではもっともっといろんな創作の秘密を、矢口監督から聞き出しますが、まずはしっかりと『ダンスウィズミー』を楽しんでから参加して下さい。
※You Tube
ワーナー ブラザース 公式チャンネル
映画『ダンスウィズミー』本予告【HD】2019年8月16日(金)公開より