しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。
シナリオ・センターの新井です。同じドラマでも、観る時代によって、そのドラマから受ける印象は大きく変わるのではないでしょうか?シナリオ・センター創設者の新井一のことばに『ドラマは、観客とともに作るもの』といいます。
『風が吹くとき』というアニメーション映画をご存じでしょうか?『スノーマン』のアニメでもおなじみのイギリスの作家レイモンド・ブリッグズさんのグラフィックノベルが映画化されたのが、この作品です。
【あらすじ】
主人公は、イギリスの片田舎で静かな年金生活をおくっている老夫婦のジムとヒルダ。
しかし、世界情勢は日に日に悪化の一途をたどっており、ある日、戦争が勃発する。2人は政府が発行したパンフレットに従って、保存食を用意しシェルターを作るなどの準備を始める。
そして突然、ラジオから3分後に核ミサイルが飛来すると告げられる。命からがらシェルターに逃げ込んだ2人はなんとか難を逃れるが、放射線が徐々に2人を蝕んでいく。救援がくると信じて止まない彼らは、互いを励ましながらも次第に衰弱していく。
この作品が作られたのは、1986年。日本公開は1987年だそうです。当時7歳の私は、親に連れられて劇場で観ました。
今でも、戦争の怖さや核兵器の怖さについて考えるとき、この作品を見たときの気持ちを思い出します。この作品の何が怖かったのか?幼い自分の記憶をたぐり寄せながら考えと、核爆弾投下後の二人が、淡々と日々を過ごしながら、なにげなく、なにげなく弱っていくというところだったのではと思います。
1986年は、チェルノブイリ原子力発電所における事故が起きた年です。今この映画を観たら、私はどう思うのか・・・ふっと思いました。同じドラマでも、その時代によってイメージするものが異なります。
蜷川幸雄さんが、古代ギリシア悲劇『トロイアの女たち』を、イスラエル出身の役者の方などとともに、上演したことがあります。古代の劇を、現代に上演することで、現代にこそ立ち上がるドラマがそこにあります。
『ドラマは、観客とともに作るもの』というのは、こういった意味も含まれるのではないでしょうか?シナリオ・センターの大先輩ジェームス三木さんが、「脚本家は7割書けばいい。あとの3割は観客に委ねるんだ』とおっしゃいます。
2013年を生きる私たちは、『風が吹くとき』を観て、何を思うのでしょうか。