宮沢あけみさんに聞く 音楽療法と企画書を書く ことの共通点
『月刊シナリオ教室』掲載企画「先輩のオ・シ・ゴ・ト」と連動して、皆さんの“先輩”がシナリオ技術を仕事にどう活かしているのかお聞きしているこのコーナー。「シナリオ技術って脚本家になる以外にも使えるのかな?」というかたは参考にしてください。
今回の先輩は、宮沢あけみさん(研修科【柏田クラス】修了)。
『とうめいな刻』で2000函館映画祭・シナリオ大賞・審査員特別賞を、『天寿をまっとう』でサンダンス・NHK国際映像作家賞2005・日本部門・優秀賞を受賞。
手掛けた作品は、ドキュメンタリー作品『映画人・大杉漣』『浅草ロック座 in ブラジル』『ぷかぷか』(全て監督)、鹿児島市民ミュージカル『ゴンザ』(脚本)、長野県岩村田小学校『音楽劇・お舟さま』や望月小学校『音楽劇・望月の駒』(どちらも演出・脚本)、書籍『ミラクルBaby~620gのそらが教えてくれること』など。
現在は映像作家としてだけでなく、アントロポゾフィー音楽療法士としても活動されています。
アントロポゾフィー音楽療法とは、人間を身体・心・精神の統合された全体として捉える「アントロポゾフィー医学」に基づき、目に見える身体と目には見えない心・精神を見つめます。
具体的には、患者さんの状態に合わせて治療計画を作成。音楽の力を使って、内面にそっと語りかけます。宮沢さんによると、病気や障がいの治療や症状の改善をしたり、亡くなるかたに音楽で寄り添うこともあるそうです。
療法の際に使うのは、ライアー、木笛、ゴングやミニシンバルといった響きの金属楽器、民族楽器、木や石など自然のものなど、素朴で落ちついた音がするもの。
皆さん、ライアーをご存じですか?
膝に乗る大きさの竪琴で、治療用に生まれました。
このライアーに出会い、魅せられたことがキッカケで宮沢さんはアントロポゾフィー音楽療法士に。
現在、「Andante~ライアーとの時間」を主宰し、横浜市・長野県佐久市の病院/障がい者施設/子育て施設で、音楽療法/音遊びの講座/ライアーレッスン/コンサートなどの演奏活動を行っています。
『月刊シナリオ教室 2020年2月号』(1月末発行予定)では、宮沢さんの活動内容の詳細や音楽療法とシナリオの共通点を掲載しますので併せてご覧ください。
こちらのブログでは、『月刊シナリオ教室』には載せていない、「音楽療法と企画書の共通点」をご紹介。
映像化に至るまでに、脚本家は企画書を書くことも求められます。「企画書を書くのが苦手…」というかたは特に参考にしてください。
まずは、宮沢さんがどんなふうに活動されているのか、ある日のスケジュールからご紹介。
宮沢あけみさんのある日のスケジュール
〇宮沢さん:あまり決まってないんですけど、朝の4~5時ごろには起きます。私は朝が一番好きなんです。
例えばその日の前日に行った“療法” (=音楽療法)があれば、そのまとめをします。ない場合は、ライアーの練習をします。
6時からはラジオで英語講座を聞いて勉強しています。英語は必要だなと思っているので。
午後~夕方に、クリニックや「放課後等デイサービス」(障がいや発達に特性のある6歳~18歳までのお子さんが放課後や夏休みなどの長期休暇に利用できる福祉サービス)などの療法が入ることが多いので、朝食の準備などをして家族を送り出してから、特に予定がなければ午前中はライアーを弾いていますね。
ライアーはピアノなどに比べると低い音程に設定されていて、繊細な音がします。弦を直接指でなでるので、音楽との距離が縮まり、身体で響きを感じられます。
日常の中にライアーを弾く時間を作るのは大変なんです。自分の中に「静けさ」がないとできないことなので。
忙しくて弾けないときもあるんですが、そうするとストレスになってしまって…。もしライアーをやっていなかったら、日常のいろいろなことに追われてカーとなってしまうんじゃないかな。
ライアーの調弦がこれまた大変で、気候や湿度によって毎日狂うんです。木が生きているから。でも、だからこそ、「生きた音」がする。
ライアーは聞く人にもそうですけど、弾いている自分にも「落ち着く時間」を与えてくれるというか、弾くこと、調弦することによって自分を整えてきたと思います。
あと、ライアーを弾く以外にも、午前中はオイリュトミーなどを練習しているときもあります。
オイリュトミーは、アントロポゾフィー医学の創始者である思想家ルドルフ・シュタイナーがつくった身体芸術です。ことばや音楽を身体で表現します。
企画書を書くことが苦手なかたは、ライアーを弾くこともそうなんですが、オイリュトミーをやることもオススメします。どちらもやっていただくと、“自分の内側のチカラ”を保てるようになると思いますよ。
音楽療法と企画書の共通点:“見せる手段”を考える
〇宮沢さん:“自分の内側のチカラ”を言い換えるなら、自分を保つチカラでしょうか。
ライアーを弾いたり、オイリュトミーをやると、自分の在り方みたいなものが分かってきます。周りがどうあろうと、自分をキープできる(音楽療法なら自分の音を出せる)、でも周りとの調和も保てる…たとえ、不協和音であろうと、それさえも楽しめる…というような在り方。
そして、自分の在り方が保てれば、人との距離感もつかめて、“見せる手段”も分かると思うんですよね。
企画書も音楽療法も、この“見せる手段”を考えるところは同じなんじゃないかと。
企画書はただ内容を書けばいいわけではないですよね。
「この企画はどうやって見せたら魅力的に見えるんだろう」「この部分をこう見せるには、セリフなのか、人物の行動やシチュエーションなのか、心理描写なのか、どの言葉で書こう」と考えるじゃないですか。
音楽療法も同じで、集団で行うグループセッションと個人セッションがあるのですが、「患者さんにこれが必要だから、そのためにこういうステップを踏んで、今回はこういう方法でやったらどうだろう」と構成します。
特にグループセッションは、ひとりひとりの患者さんの内面に耳を傾けつつ、全体をとりまとめることもするので、どうやって見せたらいいかを工夫することが音楽療法士の難関でもあり、うまくいって、患者さんが音楽の中で自由に呼吸をできたときには喜びでもあります。
コンサートでも、曲目をどう構成し、ステージングを工夫し、お客さまがずっと音楽に浸ってもらえるように考えますので、全く同じです。
どちらかというと、私は見せる手段を考えることは得意なほうです。だから研修科にいた頃も、柏田先生には「プロット(※)上手だね」と言われていました。
※プロット=企画書の中に書くストーリー
自分の中にある“想い”で書く
〇宮沢さん:企画書、で思い出したことがあります。
『天寿をまっとう』というシナリオで柏田先生から「うまくなったな」と感想をいただき、受賞した以上に嬉しかったのを覚えています。その後、柏田先生のご著書(『企画の立て方 改訂版』)に、これを企画書にして、企画書の見本として採用していただきました。
そのとき、「あ、そっか!」と。父のことを書いているので、「これを書かないと自分は先に進めない!」という想いがシナリオや企画書の中にあったんだなと思いました。それまでは、自分の中にある“想い”で書くというようなことはなかったと思うんですよね。頭の中や手だけで書くことが多かったと。
いまシナリオ・センターで学んでいる生徒さんや、受講を検討されているかたは、「書き方やノウハウを学びたい」と思っていらっしゃるかたが多いかもしれません。でも、それだけじゃなくて、「自分はこれを書きたい!」という想いも大事ですよね。
考えてみると、娘を出産したときの体験を基にした『ミラクルBaby~620gのそらが教えてくれること』も、ドキュメンタリー映画『ぷかぷか』(※映画詳細はこちらから)を撮影したときも、「今、私がこれを書かねば!」とか「これは社会にとって絶対大事!」といった内側から突き上げてくるような想いがありました。
だから皆さんも、こういう自分の想いを大切にして、そこから絶対にぶれないで(自分の内側を保って)書き終えていただけたら、よい作品、社会にとっても必要な作品になると思います。
※宮沢さん主宰「Andante」のFacebookはこちらからご覧ください。
※これまで取材させていただいた“先輩”の様々なお仕事は、こちらの「脚本技術を活かした仕事とは/インタビュー記事一覧」からご覧ください。