スタートしかない
シナリオ・センター代表の小林です。今週は新年初授業となるので、事務局のカウンターでは、「おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」の声が飛び交っています。
やる気が漲っているなあと、受講生の皆さんのお声を聴きながら、頼もしく思っています。
創立50周年の今年は、皆さんのやる気をより引き出せるように、より持続できるように、講師・事務局一同、色々な形で力を注いでいきたいと思っています。
どんなことにもゴールはありません。すべてがスタートラインです。
基礎技術を身につける、講座は修了してもゴールではありません。そこから自分の創作を作るというハードルへと向かうスタートです。
一つ越えたら、また次のスタートが待っている。
コンクールに入選する。目標であってゴールではありません。入選できる力を使ってデビューへと向かっていくスタートです。
デビューする。良しと思ってはいけません。ここもゴールではありません。ライターとして長く活躍できる力を持つ、またスタートです。
人生にゴールはなく、常にスタートです。
ちょっと疲れちゃいますよね。(笑)
そんな時のために学校があります。
「ああ、まだやれる、頑張れる」そんな気持ちを保つのは一人で学んでいては難しいですが、仲間がいてライバルがいて講師がいて、ほっと気が抜ける場所であり、やる気を出せる場所であるのが学校の良いところです。
出身ライターの方にも故郷として、実家に帰ってきたつもりでくつろいでいただきたいです。
私たち講師・事務局は、皆さんの背中を押す、モチベーションを保つためにご一緒させていただいています。
お師匠様、整いました!
昨年、「お江戸けもの医 毛玉堂」をご紹介した出身ライターの泉ゆたかさんの処女作、第11回小説現代長編新人賞受賞作の時代小説「お師匠様、整いました!」が文庫化になったので、読ませていただきました。
主人公の桃は寺子屋のお師匠様。
年の離れた亡き夫の跡を継ぎ、子供たちには厳しくこわいお師匠様と思われているが、実は学問は苦手。
そんな桃のもとに、15歳だが学問を一から学び直したいという春が訪ねてくる。この春を向かい入れたことから、熱血算術少女にはさまれて大奮闘しなくてはならなくなります。
両親を鉄砲水で亡くし一人で頑張るまじめで一生懸命な天才の春、金持ち商家の娘で寺子屋一の秀才で大の負けず嫌いの生意気な鈴、この二人に挟まれて、難しい算術の世界へと桃は導かれていきます。
二人が学ぶことでどんどん大きくなっていく姿を通して、桃も人としてお師匠様として成長していきます。
この春と鈴のキャラクターが特質しているので、対立はもちろん魅力的で、何をしでかすのか、桃に対してどうでてくるのか、とてもハラハラさせられます。
ですが、なによりも面白いのは、主人公桃がお師匠様なのに、学問はあまり好きではなく、算術は特に苦手、美人だけれど、年上の夫に甘やかされて家事もいまいちという、よくできたスーパーヒロインではないことです。
二人の自分より出来のいい生徒に対してお師匠様として見得を張らなければならない、よくできている二人に対しての嫉妬も恐怖心もあり、意地っ張りの性格だからこそ起きるその葛藤が面白いのです。
こんなかっこがよくないヒロインが、二人の生徒をものの見事にそれぞれを成長させていき、自分自身も成長していきます。このお話からは学ぶことの楽しさがあふれでてきます。
キャラクターづくりの巧さ、面白さはもちろんですが、私が心惹かれたのは、桃のお師匠様としての生きざま、出来の悪いお師匠様ですから葛藤の末なのですが、二人の全く性格も生き方も違った生徒に対して、その子の特性を活かして大きくしていく桃の姿です。
これはシナリオ・センターの講師にも全く当てはまることで、どれだけ個々の特性を見極めて、ひとりひとりに合う方向を導き出すかということ。
正解のない創作の世界だけに、講師が決めつけてしまったら、そこでその方の創作人生は断ち切れてしまうかもしれません。
今はうまくなくてもいつか化けるかもしれません。今はうまくても息が切れてしまうかもしれません。
どちらにしても「書き続ける力」を持っていただけるようにする、それが講師の役目です。
「お師匠様、整いました!」はまさに講師とはかくあるべきと語ってくれている本でもありました。