「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
「小説を書きたいけど、どこから手をつけていいか分からない…」というかた、短編小説の最初の1行を書き出してみましょう。その1行をキッカケに想像力が拡がっていくこともあります。今回はこういった訓練方法を村上春樹さんや短編小説の名手レイモンド・カーヴァーの創作術を引用しながらご紹介いたします。このコラムを読んだ後、ぜひ実践してみてください。
短編小説への取り組み方
小説修行としてまず(400字詰め原稿用紙で)30枚程度の短編小説を書くことから始めてみよう、という提案をしています。前回は、日本が生んだ世界的小説家の村上春樹の短編小説の考え方、取り組み方をご紹介しました。もう少し続けます。
『若い読者のための短編小説案内』(村上春樹/文春文庫)には、
“長編小説を1冊書き上げるにはずいぶん長い時間がかかりますし、多大のエネルギーが必要とされます。それなりの準備も必要だし、覚悟も必要です。”
さらに、
“それに比べると、短編小説を書くことは多くの場合、純粋な個人的楽しみに近いのです。とくに準備もいらないし、覚悟みたいな大げさなものも不要です。アイデアひとつ、風景ひとつ、あるいは台詞の1行が頭に浮かぶと、それを抱えて机の前に座り、物語を書き始めます。”
“すべては数日のうちに終わってしまいます。数日かければひとつの物語はできあがります。”
とのこと(抜粋引用ですよ)。
ただ簡単に書けるという意味ではなく、
“片手間にひょいひょいとできることではありません。(略)鋭い集中力が、そしてもちろん豊かなイマジネーションが、要求される作業ではあります。”
と述べた上です。
最初の1行を書き出してみる
で、短編小説の名手として知られるレイモンド・カーヴァーの創作の例を挙げています。
カーヴァーは短編の枠組み自体は、朝に書き始めたら夕方までには書き終えるようにしたそうです(ただし、あとの書き直しに時間をかけたとか)。
「電話のベルが鳴ったとき、彼は掃除機をかけているところだった」
という文章から物語を開始したが、この時には頭の中にはこの文章ひとつしかなかったとか。つまり、村上さんのいう“アイデアひとつ、風景ひとつ、あるいは台詞の1行”から書き始めるということ。
村上さん自身、
「その女から電話がかかってきたとき、僕は台所に立ってスパゲティーをゆでているところだった」
という1行から書き始め、何のアイデアもなかったが、そのイメージ(映像シーン)から、誰からの電話で、彼は茹でかけのスパゲッティーをどうするのだろう? といった疑問を招集してひとつの物語に換えていった。
そうして『ねじまき鳥と火曜日の女たち』という80枚ほどの短編になり、さらにここから5年後に長編への構想に発展し、2年かけてかの『ねじまき鳥クロニクル』という長編小説になったということ。
もちろん、プロの作家であるレイモンド・カーヴァーや村上春樹のやり方を、皆さんも踏襲すればいいということではありません。それで読むに値する短編が書ければ、誰でも作家になれてしまう。
その前に、一口に短編小説といっても、書き手によって手法なり取り組み方が違うでしょう。ミステリーのように綿密な伏線を張ったり、最初のトリックのアイデアがあったり、オチ(結末)のイメージなりがあって、そこに向けて導入や全体の構成を立ててから書く場合も当然あります。
ただ、短編を書く心得、もしくは、こういう方法もアリかな? とも思えます。小説を書きたいけれど、どこから手をつけていいのか皆目分からないという人は、何でもいい、心に浮かんだイメージ(風景)、誰かのセリフ、何かに対して浮かんだ疑問などをとっかかりにして、最初の1行を書き出してみる。
そこから想像を拡げていく。確かに、そこから先に進めるかは書き手の資質、村上春樹のいう“鋭い集中力”“豊かなイマジネーションが要求される作業”になります。ともあれそうした書き方でも、訓練として有効でしょう。
村上春樹はこのエッセイで、“作家は短編小説を書くときには、失敗を恐れてはならない”と述べています。長編ではそうはいかないが、短編は自由に好きなことができるし、それが利点なのだと。
出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2018年5月号)より
★次回は3月7日に更新予定です★
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