マンガ『花井沢町公民館便り』(講談社)/ヤマシタトモコ
注目ポイントはテーマ
ある事故のせいで「生命体は出入りできない透明な膜」で覆われた花井沢町。あと200年もすれば住民は死に絶え、町は滅びてしまう。そんな世界の日常を描く。
シナリオや小説についてなど、創作に役立つヒントを随時アップ!ゲストを招いた公開講座などのダイジェストも紹介していきます。
アニメや漫画にはシナリオ創作に役立つヒントが満載。魅力的なキャラクターとはどんなものなのか。設定だけで面白いと思わせるにはどうしたらいいのか。その答えは話題のアニメや漫画にある!シナリオ・センターでマンガ原作講座やSFファンタジー講座を担当する仲村みなみ講師の『マンガから盗めっ!』『サブカル総合研究所~マンガとアニメと、ときどきラノベ~』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
「SFものを書きたいけど、途中で書けなくなってしまった…」というかたは、今回ご紹介するコラム&マンガ『花井沢町公民館便り』をオススメいたします。仲村講師が特に注目しているのはこのマンガの「テーマ」。皆さんもテーマに注目してみてください。そして、もし自分が日本を舞台にしてSFを書くとしたら、どんなテーマにするか、考えてみてはいかがでしょうか?
注目ポイントはテーマ
ある事故のせいで「生命体は出入りできない透明な膜」で覆われた花井沢町。あと200年もすれば住民は死に絶え、町は滅びてしまう。そんな世界の日常を描く。
少しだけ風邪気味の日が好きだ。「ひきはじめのうちにしっかり睡眠をとるのが大切よねえ」などと自分に言い訳し、風邪薬と生姜湯飲んで家事も仕事もさぼって1日寝ていられるからだ。もちろんただじっと寝ているのは退屈(おいおい(^^;))なので、大量にベッドにマンガを持ち込む。一応病人なので、なるべくのんびりほんわかした作品で、心も脳もリラックスさせたいところだ。
だが今日、私は大きな間違いをしでかしてしまった。ヤマシタトモコの作品を読んでしまったのだ。読む者の心に重い棘を残し果てしなく深い沼に引きずり込む彼女の作品は、体調の良い日にしか読まないと決めていたのに。ほんわかした表紙絵とタイトルに騙されてしまった。なんたる不覚。
最初の1ページからぐいぐいひきこまれ、胸をわしづかみにされ、心が引きちぎられそうに痛み、それでもページを繰る手を止めることが出来ず、全3巻一気に読んでしまったではないか。そしていま、その興奮もさめやらぬまま、こうしてPCに向かっている。ぜひ読んで欲しい。日本を舞台にした近未来SFである。
2055年5月15日、花井沢町は外の世界から突然隔絶されてしまう。シェルターや刑務所用に研究開発中だった「生きている生物だけを通さない透明な膜」がある事故によって花井沢町一帯を覆ったからである。
最初は一時的な不具合だと思われたが、結局その膜を破ることはできなかった。このままではあと200年もすれば町の住人は死に絶えるだろう。そんな試算がはじき出される。この物語はそんな花井沢町を舞台にした群像劇だ。
政府からの配給や通販で物資や食料はまかなえる。電気も水道も届く。ネットを仲介すれば在宅で仕事もできるし教育を受けることもできる。そう、物も情報も金だって手にはいる。ただひとつ、「外」の誰かの生身のぬくもり、触れあう手の感触は手に入らない。
ゆっくりと滅亡に向かう自分たちをただ見ているしかできないこの閉塞感、無力感、虚無感…。それでも人は生きようとし、自由であろうとし、希望を見いだそうとする。第2巻に登場する小説家は閉ざされた世界で作品を書き続ける。そして賞を受賞した折、取材に対してこう言う。
「ここにある本すべてがわたしです (中略)わたしは 竜を見たことがあり 宇宙のにおいを知っている(中略) どこにあってもわたしたちは自由です」
各話の時間軸がバラバラなので一度読んだ後、改めて時間軸(公民館の荒れ具合やセリフから類推するしかないが)の通りに読んでほしい。新たな感動や思いに気付くはずだ。
出典:仲村みなみ著『マンガから盗めっ!』(月刊シナリオ教室2017年5月号)より
※【要ブックマーク】漫画やアニメには創作のヒントがいっぱい!今まで掲載したこちらのブログをまとめた記事「漫画・アニメのストーリーを書くには」はこちらからご覧ください。
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