脚本家志望者なら、視聴者にとっても、役者にとっても、心に残るセリフを書くことは最大の目標ですよね。その好例が、今年1月に放送されたNHK土曜ドラマ『心の傷を癒すということ』(全4話)ではないでしょうか。
脚本を担当されたのはシナリオ・センター出身ライター 桑原亮子さん。
このドラマは、被災者の心のケアのパイオニアである精神科医・安克昌さんの著書『心の傷を癒すということ 大災害と心のケア』(作品社)が原案。主人公である精神科医・安和隆(柄本佑さん)が、1995年の阪神・淡路大震災発生時、自ら被災しながらも、被災者の心の叫びと向き合い、奮闘し続けた物語。
毎回放送直後には「今の時代に必要なドラマ」等々、ネット上で話題となりました。
特に注目されたのが最終回で安が言った「心のケアって何か、わかった。誰も独りぼっちにさせへん、てことや」というセリフ。
この「誰も独りぼっちにさせへん、てことや」は、朝日新聞で連載中の哲学者・鷲田清一さんが古今東西のことばを紹介するコーナー「折々のことば」(2月16日付・朝刊)で取り上げられた他、主演を務めた柄本さんがあるインタビューで「このドラマから学んだことはありますか」と尋ねられたとき、このセリフを回答されたそうです。
このドラマにはこういった心に残るセリフやシーンが沢山ありました。
桑原さんはどんな風にこのドラマを書かれたのでしょうか。コメントをいただきましたのでご紹介。
特に「桑原さんが特に気をつけているシナリオの技術」については、脚本志望者にとって大変勉強になるコメントです。ぜひ参考にしてください。
※『月刊シナリオ教室 2020年6月号』(5月末発行)に桑原さんのインタビューを掲載。こちらのブログと併せてご覧ください。
「ご家族にお聞きしたお話や“愛情”もシナリオに反映」
――ドラマ『心の傷を癒すということ』では実在の人物が主人公のモデルになっており、また、ご本人と直接お会いできないという“カセ”もあったかと思います。執筆中に大変だったことはありましたか?
〇桑原さん:第1話の初稿を書いている時、安克昌先生のご遺族やご友人、そして患者さんを傷つけるような本には決してできないと思い、それが大きなプレッシャーになっていました。
その萎縮を演出の安達もじりさんが即座に見抜かれて、「桑原さん、のびのびと書いていいんですよ」と言って下さり、それから気持ちが楽になりました。
難しかったのは、ご本人にお話を伺えないため、推測するしかない部分も多かったことです。
――ご家族や関係者にも取材をされたとお聞きしました。どのような気づきやシナリオへの反映がありましたか?
〇桑原さん:演出の安達さんとプロデューサーの京田光広さんがたくさん取材をしておられて、安克昌さんのお人柄が分かる資料を作って下さいました。それを読ませていただいた上で、ご遺族にお会いしました。
奥様にお会いして真っ先に感じたのは、安先生への愛情の深さです。お2人とも映画がお好きで、よく一緒にご覧になったこと、お誕生日には安先生から花束を贈られたことなど、たくさんの思い出を生き生きと語って下さいました。
このとき聞かせていただいたお話と、奥様の温かさや強さ、そして歳月を越えた愛情が、シナリオに反映されています。
「セリフやト書きが質実剛健であること」
――今回だけでなく、シナリオを書く際に桑原さんがいつも大事にしていることはありますか?
〇桑原さん:このキャラクターだからこう言うのだ、という説得力があるセリフを書きたいと思っています。
――シナリオの技術(例えばセリフ、構成や柱、ト書等)は、どのようなことに特に気をつけていますか?
〇桑原さん:セリフやト書きが質実剛健であることです。綺麗な言葉を使おうとせず、意味がしっかり伝わるように気をつけています。
――脚本家になるため、ゼミで課題の20枚シナリオを書いている“後輩”たちへ是非アドバイスを。また、今のうちにやっておいたほうがいい勉強内容や練習方法があれば併せて教えてください。
〇桑原さん:20枚シナリオは、のちに長編を書くときの大事な基礎になります。自分の中の引き出しを増やすつもりで、楽しんで書いて下さい。
ドラマや映画を観て純粋に物語を楽しむことが将来の役に立つと思います。多くの作品を観て感動し、なぜ感動したのかを考えることがいい勉強になるのではないでしょうか。
※シナリオ・センター出身の脚本家・小説家・映画監督の方々のコメントを掲載『脚本家・小説家コメント記事一覧/脚本や小説を書くとは』はこちらからご覧ください。
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