「時間経過を表現するときはいつも “×××(バツ・バツ・バツ)”を使っています」というかた、カットバック法をお忘れでは?今回ご紹介する“各駅停車ぶらり途中下車の術”を使うと、「時間の経過だけを表したシーン」から「何らかの“意味”を持ちあわせた時間経過のシーン」が書けるようになりますよ。
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
使わないことで上手くなる
回想やナレーションや×××、どうしてますか?
使ってはいけないと言われているので使いません、という人もいるでしょう。使ってはいけないと言われているけど、でも使っている人もいるでしょう。
だいたい、どうして使っちゃいけないの? と思っている人も多いのではないでしょうか。
使ってはいけないと言われているから使わないという方も、どうして使わない方がいいんだと思いますか? 学校の規則を守るように、ただ、そう言われているから守っているだけですか?
実は、回想もナレーションも×××も使ってはいけないわけではありません。いいんですよ、別に使っても。
な~んだ、いいのか、だったら遠慮なくバンバン使っちゃおうと思った方、ちょっと待って下さい。
回想もナレーションも×××も使わないことでシナリオが上手くなるとしたら、どうですか?
そうなのです、別に使ってもいいけど、回想やナレーションや×××を使わないことで「面白い」と思わせるシナリオが書けるようになるのです。だからこそ使わないで下さいと言っているのです。
今回は×××を使わないことで、こんなにもシナリオが違ってくるよ、というのを見ていきます。
というわけで、今回のシナリオ錬金術は、各駅停車ぶらり途中下車の術!
カットバック法を使おう
岡田惠和さんがシナリオを書かれた『天気予報の恋人』という連続ドラマの第1話に、こんなシーンがあります。
佐藤浩市さん演じる気象予報士の男と、深津恵里さん演じるFMラジオ局の覆面DJと、稲森いずみさん演じるシングルマザーが初めて出会います。
場所はフレンチレストラン。3人はメニューを見ながら会話を交わしていますが、実は、深津さんがDJであることがバレないように稲森さんがDJのふりをしています。
稲森さん演じるシングルマザーは、いつもは昼はウエイトレス、夜はホステスで働きづめ、休みは子育てに追われています。でも、今日はDJになりきって、子育てからも解放され、ちょっとリッチなランチを楽しんでいます。気分も、ちょっとハイテンション。
ここで時間経過があります。
次のシーンは同じレストラン。3人は、すでに運ばれてきた食事を食べながら会話を交わしています。
雨が降ってきて、佐藤さん演じる気象予報士が「この雨は、すぐに止みますよ」といって、子供のころ同じような雨の日に父親が遊園地に連れていってくれた思い出を話します。
と、稲森さんが、遊園地へ行こう! となるのですが、このレストランのメニューを見ているシーンと食事を食べながらのシーンの時間経過がポイントです。
×××でも構いません。決して間違いというわけではありません。
×××は使ってはいけないから、1行空けて柱を書いて…うーん、いや、それも、もちろん間違いではないんですけどね。
岡田惠和さんは、稲森さん演じるシングルマザーのアパートの部屋のシーンを挟んでいます。そして、そこではFMラジオ局の若いアルバイトが子守をしています。ひえ~大変だ、とヘロヘロになりながら。
そうです、基礎講座の時間経過でお話ししているカットバック法を使っているのです。しかも、このアパートの部屋のシーンを挟むことで稲森さんの日常から解放されてハイな気分が、より強調されて伝わってきます。
なので視聴者は、遊園地へ行こう! という気持ちに、より感情移入するのです。
このように×××を使わずカットバック法を使うことで、どんなシーンを挟めば、より効果的か、いろいろ考えることができます。
×××を使ってしまえば、それで済んでしまいます。何も考える必要はありません。スッと前に進むことができます。急行電車が駅を通過するように。
でも駅を通過せず止まるようにするのです。そのために1行あけて……とするのです。
で、カットバック法で、どんなシーンを挟もうかなあ、と考えるのです。
その駅で途中下車して、こんなシーンも挟めるな、あんなシーンも挟めるな、もっと他にもないかな、と道草を食ってみて下さい
最初は、いいシーンが浮かばないかもしれません。でも、そのうち2つ浮かび、4つ浮かび、8つ浮かび、16浮かび……と倍々ゲームで浮かぶようになっていきます。
シーンは掛け算で
もう1つ連続ドラマ『ビューティフルライフ』の例を見てみましょう。
第9話、常盤貴子さん演じる車椅子の女性が、キムタク演じる美容師の部屋で待っています。するとキムタクが帰ってきて、シチューを作ったから一緒に食べようとなります。
ここで時間経過。
次は2人で洗ったお皿を拭きながら、その日、キムタクの後輩が店の顧客リストを盗み出そうとした話をします。
また時間経過。
2人はテーブルに座って、キムタクが、どんな美容師になりたいかという話をします。その話の中で「ここに君がいて」とキムタクは言います。常盤さんは「あなたの未来に私はいるの?」と訊ねます。キムタクは「いるよ、当たり前だろ」と。
まあ、ざっくり言うと、これからも2人ずっと一緒にいようね、みたいな甘~いシーンなわけですね。
この時間経過のところ、×××でもいいんです。
でも、カットバック法を使っています。
しかも、常盤さん演じる車椅子の女性の兄(渡部篤郎さんが演じました)が、常盤さんの主治医に呼ばれ、病院で待たされ不安が募り、ついに主治医から先日の検査の結果、常盤さんの病気が悪化しはじめ死に向かい始めたと宣告される流れと交互に組み合わせているのです。
最も甘いシーンと最もシビアなシーンを交互にカットバックで出して組み合わせているのです。
なので視聴者は否応なく「いや~ん! どうなっちゃうの~?」と引き込まれます。
このように×××を使わないでカットバックを使うと、どういうシーンと、どういうシーンを組み合わせるか(=モンタージュ)をイメージする力がつきます。
「シーンは足し算ではなく掛け算で書く」などと言ったりもしますが、これもシーンの組み合わせで伝えていくということです。
『たそがれ清兵衛』のクライマックス
時間経過ではないのですが、シーンの組み合わせの例として是非とも山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』のクライマックスを観て下さい。
主人公は、民家に立てこもった武士を討たなければならなくなります。
主人公も立てこもった武士も、互いに恨みがあるわけではありません。ただ藩の命令によって戦わなくてはならないのです。しかも、2人とも身分が低く貧しい下級武士で境遇も似ています。
そんな2人が、雨戸を締め切った暗く狭い民家の中で血みどろの無残な斬り合いになります。
途中、主人公は一度、雨戸に体当たりし外に転げ出ます。
その時、外の風景が映し出されます。
穏やかに晴れ渡り、草花が咲き乱れ、その花から花へと蝶がひらひら飛んでいます。
主人公は、また暗く閉ざされた民家の中へ飛び込み無残な斬り合いが続きます。
この蝶のシーンです。
これがあるので民家の中の斬り合いの無残さや不条理さが際立ち強調されます。
ちなみに私は映画館で、この蝶のモンタージュを観たとき、黒澤明監督の『野良犬』の蝶のシーンを思い出しました。そして『野良犬』を改めて観てみると思った以上に共通点が多いことに気づきました。
おそらく山田監督は、『野良犬』のエッセンスを抽出し、自分の作品に生かしたのではないかと想像します。
先人の名作の技術を盗むには、まず自分がシナリオを書くときに、たとえば×××をやめてカットバックを考えようとすると、上手く考えられたり考えられなかったりして悩みます。
すると、一体、他の人たち、とりわけ名作といわれる作品を生み出した人たちは、どうしているのだろう、と自然に意識して観るようになります。
回想やナレーションも同じです。回想を使わないで、ナレーションを使わないで、どうやって表現しているか、意識して観ると今まで気づかなかったことに、たくさん気づくようになるでしょう。
先人の名作から技術を盗むためにも、各駅停車で途中下車してみて下さい。
出典: 浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P107/『月刊シナリオ教室』(2007年8月号)より
★次回は7月18日に更新予定です★
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