『終わった人』企画の経緯
〇近藤さん:『終わった人』を監督した中田秀夫監督と私との出会いは1985年公開の『ビー・バップ・ハイスクール』に遡ります。当時、薬師丸ひろ子さんと柴田恭兵さんの『野蛮人のように』との2本立て上映でした。
2本立てのうち、メインになるほうをレコードのA面になぞらえてA面作品、もう1本をB面作品などと言って、『ビー・バップ・ハイスクール』はB面作品として作られたんですが、封切ってみたらシリーズが6作続くほどの人気映画になりました。
監督は、那須博之さん(※)という日活出身の監督が撮られていたんですが、助監督のピンチヒッターとして来たのが中田秀夫さんです。実は接点はそこだけでしたが、それからざっと30年経ち、私が『さらば あぶない刑事』をやっている時に『劇場霊』の仕上げをしている中田監督にバッタリ再会しました。
その時私は、ホラー風サスペンスの企画を1本持っていましたので、やりませんかということで企画のやりとりが始まりました。シナリオの検討稿を作って監督に見せたりもしたんですが、Jホラーの旗手として名を成したけれど、もう少し違うものを素材の段階からやってみたいと仰いました。
そのあとも紆余曲折があったんですが、内館牧子さんの『終わった人』が候補に上がり、私も知ってはいましたが手に取るまでに至っていなくて、原作として検討する段階で初めて読みました。とても面白いと思いました。
いわゆるコミック原作で若い男女が出てくる、今流行りの「キラキラ映画」は、人気の俳優さんたちを集めて、低予算で、合宿して一気に作るという公式に当てはめやすい。でも東映が、そういう路線を追いかけて真似しても二番煎じになってしまう。もっと違った路線でやりたいなと思い、『終わった人』ならまったく違う方向の作品になると思いました。
実は『終わった人』の原作を持ってきてくれた時、中田監督は先輩の明石知幸監督と一緒にいらっしゃったんです。明石監督は『免許がない』という舘さんの映画を監督された方です。
『終わった人』も舘ひろしさん主演でやりたいということだったので、だったら『あぶない刑事』シリーズで30年のつきあいのある私がプロデュースをするのがいいだろうと。それに『あぶない刑事』で定年退職した舘さんの役者としてのキャリアと、主人公の状態がちょっと重なるんじゃないかと思って、すぐに検討に入りました。
〇柏原さん:『あぶない刑事』を担ってきた近藤さんなら、この企画をうまく成立させるんじゃないかと思ったわけだね。『免許がない』は、アクションスターが実は免許を持っていなくて密かに教習所に通うっていうコメディ。
舘ひろしで何か撮る場合には、格好良く撮るだけじゃ面白くない。それよりも定年になって右往左往する男を演じたほうが面白いっていうのは、『免許がない』と似た発想だね。
「この人だったらやっぱりこれ」っていう役と、逆に「全くそうじゃないから面白い」っていうのが両方あるよね。舘さんの場合は、そうじゃないほうをみんな狙いたがる。
〇近藤さん:原作はかなりビターでシニカルです。ですが明石さんがいらっしゃったっていうことは、コメディにしたいという意図が感じられました。
ですから、この映画の企画成立に、舘さんがやるかやらないかは重要なファクターでした。映画の主役を張れる役者さんとなると、特に設定が60代ですから限られてきます。でも舘さんならピッタリだと思いました。
ただ『終わった人』っていうタイトルの映画をやってくれるかなという心配はありました。企画書を書いた時、一部に反対がありました。「舘ひろし、終わってないじゃん」っていうことです。
ただ『終わった人』というのは反語的なタイトルで、読むとおわかりのように、実は、「人生まだ終わってないよ、捨てたもんじゃないよ」という逆の内容なので、ちゃんと読みこむとピッタリなんですよね。
〇柏原さん:舘さんは内館さん原作の映画『義務と演技』にも出てるし、内館さんの作品にハマるのかもしれないね。内館さんはカッコイイ男が好きだけど、カッコイイだけじゃなく、みっともないところがあったりとか、男の可愛らしさを出すじゃない?
〇近藤さん:男を解剖していく辛辣さっていうのがあって、そこが面白いんです。舘さん以外のキャスティングでは、医療機器会社の社長&副社長役の温水洋一さんと清水みちこさんが最初のほうで決まりました。もうこの2人じゃなきゃダメだからと、半日でもいいからスケジュールを押さえてくれと頼みました。
〇柏原さん:あそこ、面白かったね。