「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
「物語の発想法でいい方法ないかな…」とお探しのかたは、今回ご紹介する「向田式比喩的発想法」で着想してみてはいかがでしょうか。まずは、向田邦子さんはどのような比喩表現をしているのか、というところから柏田講師が解説いたします。
『かわうそ』『だらだら坂』にある比喩
向田邦子の傑作短編集『思い出トランプ』を教材としつつ、短い小説を書くためのレッスンです。まず発想の方法からで、向田方式を検証することで、その手法を使ってみようというアプローチ。勝手に名付けますが「向田式比喩的発想法」。
短編集の第1作目の『かわうそ』は、脳卒中の発作で妻の介護を受けるようになった初老の男が、妻の中に潜む本性、魔性に気づいてしまう物語。その妻がかわうそという動物に見えてしまう、その比喩(タイトルが先なのか、物語のテーマなり骨格があって〝かわうそ〟を思いついたのかは不明ですが)ゆえに、この小説が成立していることは間違いありません。
他の短編も同様でしょう。2作目の『だらだら坂』は、小さいながら会社の社長である50歳の庄治が、会社の事務員に応募してきたトミ子という女を愛人として囲い、坂の上にある中古マンションに住まわせているという話。
このマンションに行く道が〝だらだら坂〟で、まさにこれは庄治という男が歩んできた人生の比喩です。ただ、「人生=坂」というだけならば、ありきたりな比喩かもしれません。ですがじっくり読むと、向田作品共通の「毒」が仕込まれていて、単純な比喩になっていないことが分かります。
社長で愛人を囲っているという境遇ならば、通常だと恵まれている部類に入ります。そうではなく、少しもうらやましく思えない仕込みがされている。まずは庄治が愛人としたトミ子の、容姿であったり生い立ちだったりを読んで下さい。
で、(愛人を囲う身分ながら)タクシーのメーターが気になる性分の庄治(あだ名は鼠)は、坂の下でタクシーを降りて、ゆっくりと坂を登ることに満足感を得ていたりする。ところがそうして得た彼のささやかな人生の優越感も、まさにだらだらと昇る(下る)坂のように、次第に憂いものになっていく。その比喩としての表題です。
「向田式比喩的発想法」で着想する
こうした物語の発想法、アプローチの仕方が特別だということではないかもしれません。誰でも多かれ少なかれ、そうしたプロセスをとっている気もします。
例えば、研修科のゼミに進むと、20枚シナリオの課題があります。例えば「雪」という課題で書くとして、雪の降る情景であったり、登場人物が雪の中を歩いていて、雪に閉ざされた街で、あるいは雪を見たことない人がいて、というように、あれこれとイメージを拡げた上で、着想となる何かを見つける。
そうした発想の方法のひとつとして、「比喩的発想法」もあるかもしれない。雪を何かに喩えてみる。結晶ならば、花とかダイヤモンドから、意匠としての文様。あるいは、冷たさや量となると雪害という面もあるかもしれません。
さらに比喩を拡げるために、雪にまつわる用語なり関連を探してみる。皆さんに勧めているのですが、こういう時に『歳時記』の「冬」を開いてみるのです。
たくさん出てきますよ。とても全部を書き切れませんが、「大雪」「初雪」「粉雪」「吹雪」「深雪」「雪催い」「雪気」「雪暗」「雪の花」「雪月夜」「しずり雪」「雪冠」……さらには、「雪女」「雪見酒」「札幌雪まつり」「除雪車」「雪だるま」「雪合戦」……
それぞれの意味などは調べて下さい。ひとつあげると、「雪催い」って聞いたことがないかと思いますが、〝全天に雲が重く垂れこめ、暗くどんよりとして、いまにも雪が降り出しそうな空模様をいう〟のだとか。知りませんでしたね。
ゼミで「雪」をすでに書いた方、ご自身の作品、発想のアプローチ法だったりプロセスを思い出してみて下さい。
あるいはこれから書こうという人は、向田式の比喩的発想もあるかもしれません。「雪催い」というタイトルの比喩で、登場人物の人生なのか日常なのかを喩えてみる。人と違う物語の切り口が見つかるかもしれません。次号に続きます。
出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2019年5月号)より
★次回は8月1日に更新予定です★
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小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧はこちらからご覧ください。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう。
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