「ゼミの課題でも小道具がテーマになっているものがあるけど、小道具を使うとなんかわざとらしくなるんだよな…」とお困りなら、小道具に因縁をつけましょう。では、因縁をつけるとどうなるのでしょうか。
シナリオ・センター創設者・新井一は、『シナリオの基礎技術』『シナリオの技術』などシナリオの書き方に関する書籍をいくつも執筆しています。また、『月刊シナリオ教室』でも連載ページをもち、シナリオの技術を解説していました。その記事は、いま読んでも全く色褪せていません。
そこで、当時の記事を皆さんにご紹介。「シナリオってどう書くの?」という初心者の方も、「一度学んだけど、忘れちゃった…」という方も、これを読めばシナリオ作りが一層はかどります!
「映画の表現は小道具である」(アルフレッド・ヒッチコック)
小道具を使って心理描写をしたのは、ヒッチコック監督です。ヒッチコックは「映画の表現は小道具である」と言い切りました。
その名の通り小さな小道具ですが、キャメラをそばに置いて大写し(アップ)にして強調することが出来ます。舞台劇では単なる出道具や持ち道具だったものが進歩したのです。
公園のベンチで拡げるハンカチという使い方は、それはそれでいいのですが、実はその小道具に意味をつけることによって、ドラマとして生きることになります。
私は昔から小道具には必ず、やくざの喧嘩みたいですが、「因縁をつけろ」と言っています。たいそう物騒な物言いですが、その小道具に何かの意味を持たせろということです。
小道具に因縁をつけると登場人物の感情がわかる
例えばハンカチにしても、単に買ってきたとか、家から出る時持ってきたというより、実はそのハンカチは、別れた彼女から贈られたものだったらどうでしょうか?
それを因縁と言っています。そうした因縁をつけておけば、ハンカチを眺めていると、「ああ、彼女のことを思っているな」というのがわかります。ハンカチを大切にするかしないかによって、ハンカチそのものの意味ではなく、2人の間の感情がわかるのです。
民族間で敵対する時には、国旗が可哀そうにも敵視されます。日本の自動車輸出産業が盛んでアメリカで失業者がたくさん出た時は、アメリカの失業者が日本の自動車をハンマーで叩き壊し、火をつけたりするニュースが流れました。自動車や日の丸が憎いのではなく、小道具によって業界や国家を象徴させて、アメリカ人の排日感情を表しているのです。
毎度申し上げている例で恐縮ですが、夏目漱石の『坊ちゃん』では、坊ちゃんは山嵐と肝胆相照らし、氷水屋で一銭五厘の氷水をおごってもらいます。しかし山嵐は悪い奴だと吹き込まれた単細胞の坊ちゃんは、おごってもらった一銭五厘を突っ返します。
つまり、小銭を突っ返すことによって、今まではおごってもらうぐらいに信頼していたが、もう信頼しない、という意思表示になります。
山嵐も小銭を受け取ろうとしないので、机の上に置きっぱなしになっている小銭を写すことにより、2人はまだ仲違いをしているというのがわかるのです。
出典:『月刊シナリオ教室』1996年4月号 「新井一 十則集」/2016年10月号「新井一.com」
★次回は8月14日に更新予定です★
※小道具はサスペンスドラマでも欠かせないですよね。併せてこちらの記事「小道具とサスペンス ドラマ」もご覧ください。
“だれでも最初は基礎講座から”~基礎講座コースについて~
今回の記事をご覧になって「ちょっとシナリオ、書いてみたいな…」と思われたかた、是非お気軽にいらしてください。
シナリオ・センターの基礎講座では、魅力的なドラマを作るための技術を創作初心者のかたでも楽しく学べます。また映像シナリオの技術は、テレビドラマや映画だけでなく小説など、人間を描くすべての「創作」に応用できます。
まずはこちらの基礎講座で、書くための“土台”を作りましょう。
■シナリオ作家養成講座(6ヶ月) >>詳細はこちら
■シナリオ8週間講座(2ヶ月) >>詳細はこちら
■シナリオ通信講座 基礎科(6ヶ月) >>詳細はこちら