「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
売れている小説やコンクールの受賞作品を読んで「このぐらいなら自分も」と思ったことありませんか?でもいざ書いてみると、そう簡単にはいかないですよね。自分にしか書けないものを書くために、柏田講師が今回ご紹介する村上春樹さんや宇野千代さんの書き方を参考にしてみてください。
「あのくらいなら、俺にだって書ける」にならないこと
(400字詰め原稿用紙で)30枚程度の短編小説を書くためのアプローチ法を考察しています。
その前にひとつだけ精神論を。
これまで村上春樹の短編小説への考え方を引用しましたが、別のエッセイ『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング)に興味深い記述がありましたのでご紹介します。「オリジナリティーについて」の中、書くことの本質も語っているので長めですが。
“『風の歌を聴け』を書いて、それが「群像」の新人賞を取ったとき、僕が当時経営していた店を、高校時代の同級生が訪ねてきて、「あれくらいのものでよければ、おれだって書ける」と言って帰って行きました。
そう言われて、もちろんちょっとむっとしたけれど、それと同時にわりと素直に「でも、たしかにあいつの言うとおりかもしれない。あれくらいのものなら、たぶん誰だって書けるだろうしな」とも思いました。僕は頭に浮かんだことを、簡単な言葉を使ってただすらすらと書き留めただけです。むずかしい言葉や、凝った表現や、流麗な文体、そんなものはひとつも使っていません。
言うなれば「すかすか」同然のものです。でもその同級生がそのあと自分の小説を書いたという話は耳にしていません。”
『風の歌を聴け』は村上春樹の処女作にして、受賞作となり、以後の村上ブームの出発点になる長編小説(短めで400詰め190枚弱)です。この後で村上さんは、実は「あれくらいのもの」という小説こそ、書きにくいかもしれないと述べていますが。
まさに村上さんの“謙遜”なわけですが、この同級生は、受賞作の感想であったり、それこそ小説に限らず創作の現場でわりと頻繁に見聞きする人物、光景ですね。皆さんも、こっちの同級生にはくれぐれもならないように。
で、ここに通用する小説の本質があります。
小説の書き手でこの反対の文章を書き連ねる人も多い。意図的に難しい言葉を駆使し、凝った表現で、流麗な(というよりもゴチャゴチャ飾った)文体。読み手にそう感じさせた段階で、(それが見事に作者の個性とかになっていれば別ですが)最後まで読んでもらえずにコンクールなら「落選」です。
実は「すかすか」と感じさせる小説もあります。電化製品の解説文とか、報告書みたいな文体でたらたらと書かれている。ト書、プロット文体もこれに近いかもしれません。むろん、『風の歌を聴け』は「すかすか」じゃありません。
ともあれ、(実は至難なのですが)誰もがスラスラと読める文章で、でもその人にしか書けない小説こそを目指して下さい。
純文学派なら毎日書いて、書くことのハードルを下げる
さて、短編ですが、以前述べたように、村上春樹的に、最初の書き出しとかを思い浮かべて、後は思いつくままに書き連ねるというやり方(これを仮に「純文学派」と呼ぶ)と、綿密に、もしくはある程度のプロット、構成を練る、あるいは結末を決めてから書く人(仮に「エンタメ小説派」)に大別できます。どちらが正解というのはなく、書き手の向き不向きもあるでしょう。
まず「純文学派」ですが、小説のレッスンとしてとにかく小説を書いてみる、ならばこのやり方から入っていい。故宇野千代さんは初心者に、
“臆せずに毎日机の前に座って下さい。それから偉大な小説ではなく、たった5枚か10枚の短編小説を書いて下さい。座ったら集中して書いて下さい。最初は、昨日何をしたかではなく、昨日何を考えたかということを書いて下さい。”
とアドバイスしています。
この心得のポイントは、まず「書き続ける」もしくは「書く習慣をつける」、さらには「文章を書くことのハードルを下げる、馴れる」といった意味合いが強いかと思います。
「エンタメ小説派」は書く前の段階をより必要とします。プロットを練ったり、調べたり。書く前からそっちで時間やエネルギーを費やして、それだけで書けなくなるよりは、ともかく「書く」べきですから。
出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2018年7月号)より
★次回は9月5日に更新予定です★
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小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧はこちらからご覧ください。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう。
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