脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者は大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その23-
『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』脚色はこうあるべき!
久しぶりの「映画のここを見ろ!」です。ようやく映画館で映画が観られるようになりました!
足が遠のいてしまったのか、ネット視聴が定番になったせいか、空いているみたいですが、やっぱり映画は映画館ですよ。皆さんソーシャルディスタンスを守りつつ、映画館に行きましょう!
さて、ようやく新作が公開されるようになりましたが、今回脚本家(作家)志望者にこそ、ぜひぜひ観ていただきたい作品が『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』。
何度も映画化されているルイーザ・メイ・オルコット原作の文芸作ですが、今回あらたに現代版『若草物語』として脚本を書き演出したのは、前作『レディ・バード』で注目されたグレタ・ガーウィグ。
現代版と書きましたが、もちろん時代設定などは原作通りで、四姉妹のそれぞれのキャラクターやメインのストーリー展開は(続編要素も入れつつ)踏まえています。
加えられている現代性というのは、ここ数年来のMeYoo運動の高まりであったり、女性の生き方、自立というテーマ性がよりクローズアップされていること。特に主人公ジョー(シアーシャ・ローナン)の、作家として世に出ようとする夢、取り組み戦う姿は、すなわち原作者オルコット自身のサクセスストーリーであり、監督自身の思いが重ねられています。
女性だけでなく、作家志望の皆さんなら、ジョーに感情移入するはず。そうできるように描かれています。特にトップシーンのジョーの背中から始まって、ニューヨークの街を疾走する姿!
そして終盤のジョーの念願(夢)がカタチとなっていく過程を見せていく場面! どんなに苦しくても、困難があったとしても、この瞬間で報われる、やっててよかった! と思えるはず。
で、この映画での「ここを観ろ」は、原作の脚色の仕方です。
脚本家になれば、(善し悪しは別にして)原作物の脚色の仕事が増えます。その際、どう原作に向かい、どこを活かして、どう自身のオリジナリティを発揮しつつ、主張をするか? それも本作のように、何度も映像化されている古典となると、今どうして? 今やるならどうする? という命題を突きつけられます。
そこで脚色者の腕はもちろん、思想性とか、それこそ〝肝を据える〟ことが必要となるでしょう。「私はこれをこう描く、文句ある?」みたいな。
だからといって、ガーウィグ監督が開き直っているわけではなく、実に楽しくある意味軽やかに、四人姉妹家族の温かな頃の日常であったり、それぞれのその後の生き方(ベスの死も)描いています。
それも二つの時代を交互に展開するという構成になっていて、観る側の集中力も要求されるのですが、衣装や絵画のような画面も映画ならでは。
ところで日本にも愛読者がたくさんいる原作ですが、原題は『Little Women』です。1933年に映画が日本で公開される時に、つけられた邦題が『若草物語』で、以後このタイトルがスタンダードとなったのですが、なんと素晴らしい命名でしょうか。
その前は『小婦人』とか『四人姉妹』と付けられていたそうですが、やっぱり『若草物語』以上のタイトルは考えられません。
もうひとつついでに、日本で四姉妹ものだと、是枝裕和監督の『海街diary』(これも漫画原作の脚色!)が記憶に新しいところですが、私の世代だと谷崎潤一郎原作の市川崑監督作『細雪』です。
これも実は何度も映画化(ドラマ化、舞台化も)されていますが、もしこれをあの時代性だったり舞台、四姉妹の配置などを大きく変えずに、今映画化するとしたら、皆さんならどこに「脚色」を加えるでしょう?
そうした据える〝肝〟を見つけるところが脚色のスタートだったりします。
※YouTube
ソニー・ピクチャーズ 映画
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』6月12日(金)全国順次ロードショー
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その24-
『透明人間』古びた題材もジャンルの転換で新しくなる!
今回取りあげるのは誰もがよく知っているお話、設定なのですが、「なるほど、こうすれば新しくなるんだ!」と目からウロコ、コロンブスの卵みたいな発見をさせてくれる『透明人間』です。
前回、脚色のアプローチとして、今の時代感覚(女性の自立、MeYoo運動など)を取り入れて、古典を新しく生まれ返らせた『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』をご紹介しました。
この『透明人間』もどなたもご存じですね。そもそもは、SFの父と呼ばれるH・G・ウエルズが19世紀末に書いたSF小説で、科学者が自ら発明した透明になる薬を飲み、騒動を巻き起こすという話でした。
映画的な素材だったため、早速1933年ハリウッドで怪奇映画として公開されました。包帯ぐるぐる巻きの人物が現れ、それを解くと透明で、キャーと悲鳴があがって、という場面が思い出されます。
この特異な設定で、以後海外だけでなく日本でも、さまざまに映画化ドラマ化されました。怪奇映画のキャラクターとしては、フランケンシュタインや吸血鬼ドラキュラ、ミイラ男とかと並ぶ人気を博しました。
近いところでは、2000年製作ポール・バーホーベン監督の『インビジブル』。
ケヴィン・ベーコン扮する科学者が、自らが実験台となって透明人間になったことから狂気に走り、犯罪行為に突っ走る。
CGを駆使して、人間から透明になる過程をグロテスクに描写し、ホラーというよりアクション、サスペンス映画になっていました。ヒットしたことから続編も作られました。
さて、今回の『透明人間』ですが、一応ウエルズの小説を原作としています。脚本・監督はかの画期的スリラー『ソウ』の脚本を書いたリー・ワネル。
コンビを組んでいたジェームズ・ワンは今回は不参加ですが、すでに『インシディアス』などでその手腕は発揮されていただけあって、本作もひたすら怖い!全編緊張感溢れるサスペンス。特に終盤近くのあのシーンなんて、座席でこっちの身体が硬直してしまうほどでした。
さて、ここを観ろ、は述べた通りです。そもそも透明人間はホラーのキャラクターで定着していたわけで、アプローチとしては今まで通りともいえます。
ただ、今の感覚(DV夫とかも)の(心理)サスペンス、スリラーテイストを追究して、ホラーとしての純度を高めています。
それもヒロインであるエリザベス・モス(好演!)扮する科学者の妻セシリアが、ひたすら偏執狂的な(死んだとされる)夫に脅かされる。なにしろ〝透明人間〟なので、誰にも見えない!セシリアにも見えないけれど、気配を察し「そこにいるのよ!」と叫ぶ。けれど……
浅田講師流にいうと、これでもかこれでもかと主人公を困らせる、追い詰める。果たしてたった1人で、見えない相手からどうセシリアは逃れるのか? 戦うのか?
つまり、古典的なキャラクター、設定を、たった1人の主人公の恐怖体験に絞り込んだことで、今までになかったホラー映画に生まれ変わらせたわけです。
それともうひとつ、チェックしてほしいのは科学的な裏付け。詳しくは説明されていませんが、一応納得のいく“透明状態”のリアリティになっている点。昔の『透明人間』って、包帯とって透明になるとすると、要するに素っ裸なわけで、寒くないかなとか、滑稽だよな、とか思ったりしましたが、これならと頷きました。
ファンタジーもそうですが、特にSFは、そうしたディテールをおろそかにすると、成立しなくなるわけです。
ともあれ、音の使い方も絶妙な本作こそ、ぜひ映画館で体験してほしい。暑さなんでふっとぶおもしろさですよ。
※YouTube
シネマトゥデイ
映画『透明人間』予告編
※前回の柏田道夫おすすめ映画の記事はこちらからご覧ください。
■その21・22柏田道夫おすすめ 映画『ジュディ 虹の彼方に』を楽しむ 見どころ