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向田邦子と 村上春樹の表現 /比喩から学ぶ

「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回は「小説を書けるようになるにはどうしたら?」という悩みに対する解決策と、「巧みな比喩表現は巧みな人物描写にもなる」ということが分かる向田邦子さんと村上春樹さんの比喩についてご紹介します。小説家になりたいかたは、実践してみてください。

小説が書けるようになるための2つの方法&心得

小説の巧みな「比喩」表現の例として、前回は村上春樹の文章を引用しました()。

毎年ノーベル文学賞の候補に挙げられ、世界中に愛読者がいて、出す本は必ずベストセラーになる作家です。好き嫌いはともかくとして、それだけ読み手を魅了する世界があり、文章も優れているからでしょう。

少し脇にずれるのですが、「どうすれば書けるようになりますか?」という作家志望者からの質問を受けることがあって、いつも返答に困ります。というのは、その書き手の作品、レベルによって当然アドバイスが違ってくるし、当たり障りのない一般論や精神論は極力述べたくないから。

ただ、ほとんどの志望者に当てはまる方法なり、心得が2つあります。

ひとつは「書き続ける」こと。(試行錯誤や悩んだりはしつつも)真っ白な原稿用紙(パソコン画面)を埋め続ける。これができる人だけが作家になれますし、今プロとして活躍している人は、認められないアマチュア時代に、誰もがそうして来ました。例外はありません。

そしてもうひとつは、「優れた書き手の作品、文章から学ぶ(盗む)」こと。

両方とも一般論(精神論)じゃないか?と思われるかもしれませんが、多くの志望者の作品に触れていて、常々感じることです。それも2つ目の「学ぶ(盗む)」ということを、ほとんどの方はやっていない。

ただし、盗み方は要注意。例えば村上春樹の文体に影響を受けすぎて真似てしまうと、いかにも春樹調になってしまって、薄っぺらな雰囲気だけの現代小説になってしまう。

村上春樹が売れっ子作家になったばかりの頃(『羊をめぐる冒険』前後)、純文学系の小説コンクールには、いかにも春樹もどき小説ばかり集まっていたといいます。

学ぶ、盗むというのは、(むろん村上春樹じゃなくてもいい、自分の愛読する)作家の作品の表現法なり作劇法を探り出し、理解した上で参考にして、自分なりの文章、世界として書けるか?という意味です。

村上春樹と向田邦子の「比喩」の違い

「比喩」に話を戻すと、この連載で優れた文章として引用してきた向田邦子と村上春樹の表現を比較してみます。これは人物描写を学ぶということにも通じます。

例えばあなたが、大きなおっぱいを持つ女性を文章で表現するとします。どのように書きますか?

“彼女は巨乳だった。”あるいは、“彼女はDカップはありそうなおっぱいをしていた。”

ダメとは言いませんが、ありきたりでつまらない。

さて、村上春樹はとても大げさな比喩で、笑ってしまいそうです。

“彼女の乳房は見れば見るほど異常に大きいように思えはじめた。きっとゴールデンゲート橋のワイヤ・ロープのようなブラジャーを使っているのだろう。”(『羊をめぐる冒険』)

これに対して、女性作家らしい細かさ(ディテール)と、巧みな映像的比喩を駆使していた向田邦子の表現です。

“細い夏蜜柑の木に、よく生ったものだと思うほど重たそうな夏蜜柑が実っているのがある。結婚した当座の厚子はそんな風だった。さすがに四十を越して夏蜜柑も幾分小さめになったようだが、ここ一番というときになると、厚子は上に持ち上げて、昔の夏蜜柑にするのである。”(『かわうそ』)

この短編の『かわうそ』は、全部が丸ごと「比喩」のような小説で、下手なホラーよりも怖い傑作です。絶妙な手法を盗んで下さい。

出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2017年6月号)より
次回は10月3日に更新予定です

村上春樹さんの比喩についてはこちらの記事「小説の比喩表現 村上春樹の小説に学ぶ」もご覧ください。

※要ブックマーク!これまでの“おさらい”はこちらで↓
小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧はこちらからご覧ください。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう。

※シナリオ・センターの書籍についてはこちらからご覧ください。 

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