あなたの20枚シナリオ、柱の数はいくつですか?もし「10」を超えていたら、あらすじのようなシナリオになっている可能性が…。今回ご紹介する“つばなれに気をつけろの術”で、じっくりシーンを描き込むことを意識しましょう。
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
20枚シナリオで柱の数が10を超えたら要注意
落語の世界では、お客さんが10人超えることを「つばなれ」というそうです。ひとつ、ふたつ…ここのつ、と「つ」がついていたのが「十(とお)」になると「つ」がつかなくなるからです
落語のつばなれは大変結構なことですが、シナリオでは数が増えたからって喜んでいられないものがあります。それは柱の数。あなたのシナリオに柱はいくつありますか?そんなの考えたこともないという方、是非これからは自分のシナリオに柱がいくつあるか数えてみて下さい。
1時間や2時間のシナリオだと数えるのも面倒かもしれませんが、20枚シナリオなら大したことないので、つねに柱がいくつあるか数える習慣をつけておくといいかもしれません。
柱の数はシーンの長さと反比例します。もちろん長いシーンもあれば、たった1行の短いシーンもあるわけですが、平均すると、どれぐらいの長さのシーンを書いているかの目安になるわけです。20枚シナリオで柱の数が多いと短いシーンをたくさん書いていることになりますし、柱の数が少ないと比較的シーンをじっくり書き込んでいるということになります。
そうやって20枚シナリオで、どのくらいの長さのシーンを書けばいいか感覚的に身につけておけば、1時間や2時間のシナリオを書く時も、そんなに狂わないはずです。
ズバリ、20枚シナリオの柱の数は8からが目安です。
少ない分には問題ありません。でも10を超えてくると要注意。短いシーンが多いということは、次々と出来事を並べただけのあらすじのようなシナリオになっている可能性が大です。もっと、じっくりシーンを描き込むことを意識した方がいいでしょう。
20枚シナリオの柱の数は10を超えたら要注意、ということで今回は“つなばれに気をつけろの術”!
柱の数を数えてみよう
アトランダムに今、私の手近にあるシナリオの柱がいくつあるか数えてみますね。
まずはテレビドラマ。『ハケンの品格』の第1話はスペシャル枠で時間が長かったので73と多めですが、第2話が42、第3話が52、第4話が57です。
『ロング・バケーション』も第1話の放映時間が長く80、第2話が56、第3話が50、第4話が41、第5話が41、第6話が60。
どちらも1時間だと多くても60、平均すると、およそ50前後になっています。
連ドラの1時間ものは200字詰め原稿用紙で100枚から120枚なので、20枚シナリオは5分の1から6分の1です。なので、20枚シナリオの柱の数は多くても10から12、およそ8から10ぐらいが目安になるわけです。
次に映画のシナリオも見てみましょう。『晩春』は上映時間108分で103でした。『飢餓海峡』は上映時間183分で187。平均すると、ほぼ1分で柱が1つぐらいでしょうか。
ということは20枚シナリオで考えると9から10ぐらいということになります。
もちろん、たとえば『豚と軍艦』は108分で柱の数が147ですから、やや多めのものもあります。ただ多めといっても20枚シナリオで考えると12から13ということになります。逆に言うと、これぐらいだと、ちょっと多いかなあ、ということになるかもしれません。
確かに昔の映画は1つのシーンをじっくり描いているかもしれないけど、最近の映画はシーンが短くなっているんじゃないの?と思われる方も多いかもしれません。
ところが、たとえば『運命じゃない人』は上映時間98分で柱の数が78でした。『飢餓海峡』や『晩春』よりも少なめです。いやあ、『運命じゃない人』が『晩春』よりも柱の数が少ない、つまり1つのシーンをじっくり描いているというのは正直、驚きでした。
さらに『フラガール』は上映時間120分で柱の数が80!もちろん、この映画はダンスシーンが多いので長いシーンが多くなり、上映時間に対してシナリオの枚数は少なくなるわけですが、でも、シナリオは、ざっと200枚弱ぐらい。ですから、20枚シナリオで考えると8となり、やや少なめであることに変わりはありません。ちなみに『晩春』のシナリオは220枚弱ぐらいだと思います。
もちろん、たとえば『暗いところで待ち合わせ』のように上映時間129分で柱の数が195と、やや多めのものもあります。
柱の数を少なくするには
では実際に、みなさんの20枚シナリオでは、どうでしょう?おそらく柱が数が8から10という目安より多くなってしまいがちなのではないでしょうか。
つまり、ついついシーンが短くなってしまっているのではないでしょうか。
では、なぜ柱が多くなりがちなのか、逆に言うと、どうすれば柱の数を少なくできるのでしょう?
まず第一に、とにかく、つめこもうとしないことです。20枚シナリオを書き始めた頃は、みなさん、1時間や2時間、下手をすると連ドラぐらいの話を考えて、それを無理矢理20枚につめこもうとしてしまったりします。そうすると柱が次々と変わっていって、あらすじみたいな20枚になってしまいます。
それほどではなくても、1つの話を考えて、それを20枚に収めようとすると柱は多くなりがちです。あくまでも20枚は部分と考えて下さい。
また、20枚シナリオを書いていると、ほとんどの人が枚数オーバーになってしまうことが多いのではないかと思います。
その時にオーバーしたもの全体を20枚に入るように削っていませんか?逆です。おそらく枚数オーバーのシナリオを書いている時は何とか20枚に収めようと無意識にシーンを短めに書いていると思います。特に後半。10枚ぐらい書いてみて、あれ?これじゃあ20枚に入らないぞと後半スッ飛ばして書いてしまうのです。
こんな時こそ「つばなれ」を目安にしてみて下さい。
枚数オーバーしてしまったら柱が8から10の部分を選び出してみて下さい。おそらく20枚より少なくなっていると思います。場合によっては10枚にも満たないかもしれません。その部分を20枚になるように、シーンをしっかり描き込んでみて下さい。
少し20枚シナリオを書き慣れてきたら、逆にあえて1時間や2時間のシナリオをイメージすることもオススメです。最初から、これは1時間なり2時間のシナリオなんだというイメージを持つのです。だったら20枚でなんか書けっこないわけです。そして、その1時間なり2時間のシナリオの、どの20枚の部分に絞り込んで描こうかと考えていくのです。
柱ひとつで書いてみる
さらに、みなさんに是非やってもらいたいことがあります。それは20枚シナリオを柱ひとつで書くことです。実際やってみたことがあるという方もいらっしゃるでしょう。そういう方は、もう一度チャレンジしてみて下さい。
20枚シナリオの柱の数の目安は8から10ですが、最初にも書いた通り少ない分には問題ありません。少なければ少ないほどいいということでもありませんが。
もちろん20枚を柱ひとつで書くことは簡単なことではありません。いや、ただ書くだけだったら書けますが、たとえばゼミで発表したときに「面白い」と思ってくれるまではいかなくても、せめて退屈しないように書くだけでも結構、大変です。
でも実は、柱ひとつで書く大変さは、いくつかの柱を立てて書いているときと変わらないはずなのです。ただ、柱を立てて場所を移動させていると誤魔化されているだけにすぎません。
特に、どんどん柱が変わっていくことがテンポがあると勘違いしている方がいますが、本当は場所が変わらなくても事件を起こしたり人物を出入りさせたりして主人公にリアクションさせ、ドラマを起こしていくことでテンポを生み出していけるはずなのです。
最近の映画では『キサラギ』が、20枚どころかどころか上映時間108分、基本的には柱ひとつでした。基本的にというのは回想シーンやイメージシーンが挿入されているからですが、時間経過はなくひとつの場所でリアルタイムで描かれていました。それでも、とてもテンポよく、ぐいぐいとドラマに引き込まれていきます。
時間経過はありますが、川島雄三監督の『しとやかな獣』も、ほとんど柱ひとつで描かれていました。ヒッチコックの『裏窓』もそうですね。
時々、20枚シナリオを柱ひとつで書いてみると、どれぐらい自分に力がついたか、よく分かると思います。
出典: 浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P70/『月刊シナリオ教室』(2007年10月号)より
★次回は10月17日に更新予定です★
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