「せっかく書いたシナリオを文字のまま眠らすのは惜しい」「自分のシナリオを映像化したい」というかた、今回ご紹介する月足直人さん(研修科)のコメントを参考にしてください。
月足さんは、2014年『ハンガーゼット』で映画監督として商業映画デビュー。2018年、短編映画『MARCY』が渋谷TANPEN映画祭 観客賞2位に。2019年、短編映画『Are you happy?』がTOKYO 48 Hour Film Project2019で観客賞1位になるとともに、出演者が最優秀助演男優賞を受賞。
そして、監督・脚本を手掛けた短編映画『こんがり』では、
・鶴川ショートムービーコンテスト 観客賞
・函館港イルミナシオン映画祭 実行委員会特別賞
・TOP SHORTS BEST Narractive
・Los Angeles Film Awards Best Comedy
――を受賞し、このほど、第23回小津安二郎記念・蓼科高原映画祭 第19回短編 映画コンクールでグランプリを獲得。
『こんがり』あらすじ
これはとある関西人家族の物語。亡き父のため、“あるもの”をどうしても棺桶の中に入れたい姑・恵子は東京から嫁いだドジで忘れ物が多い嫁・千秋に買い物に行かせる。しかし嫁は告別式が終わってもなかなか帰ってこない。タイムリミットは出棺されるまで。はたしてこの家族は亡き父のために“あるもの”を入れることはできるのか?
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短編映画「こんがり」予告編
“あるもの”とは何なのか、気になりますよね?
ぜひ、小津安二郎記念・蓼科高原映画祭公式サイトの審査員長評をご覧ください。“あるもの”の正体および作品の魅力が分かるとともに、「審査員はどこを見ているか」の勉強にもなりますので、コンクールに出したいかたは必見です。
こちらのブログでは、受賞作『こんがり』はどのようにして出来上がったのか、また、脚本・監督をするときに意識していることなどお聞きしました。
受賞作『こんがり』について/
「主人公をとことん困らせること、成長していく姿を見せることを大切に」
――これまでいくつも賞をとられていますが、今回のコンクールは手応えはありましたか?
〇月足さん:いえ、まったく手応えはなかったです。正直、グランプリと読み上げられた時、頭が真っ白になりました。
映画祭はシナリオコンクールと同じように傾向の違いがあるので、いつも最後までどんな作品が選ばれるのかわかりません。毎回、期待半分・不安半分で映画祭授賞式に参加しています。
ただ本作は国内最後の映画祭だったので、最後に一番いい結果が出て本当に良かったです。
――執筆・撮影のキッカケを教えてください。
〇月足さん:研修科に所属していまして、課題の「葬式」で書いたものがキッカケになります。実は20枚シナリオ内で起承転結ができていたので、現場台本と内容はほぼ同じです。
クラスで『こんがり』を発表した際、読み終わった後、クラスのみなさんや先生がたくさん笑ってくださり、そしてほっこりしたというご感想をいただけたので、「これはいいコメディ作品になりそうだな」と思い、すぐさま撮影にふみきりました。
――作品に込めた想いとは?
〇月足さん:よく棺桶には故人の好きだった物を入れると聞きますが、それは故人の為にできる家族の最後の愛だと思いました。その棺桶に入れる副葬品がありえないものであればあるほど、亡くなった最愛の人の為に家族が一生懸命右往左往する姿が視聴者に共感を得られるのではないかと思いました。
「大切な人が亡くなった時、あなたは何を棺桶に入れますか?あなたが死んだ時、何を入れて欲しいですか?」を考えるキッカケになる作品作りを目指しました。
――脚本を書く際、特にどんなことを心掛けましたか?
〇月足さん:本作はコメディ映画になるのですが、コント作品にならないように気をつけました。
今回その時々のセリフやキャラの行動で笑わせるシーンが多いのですが、ただ笑わせるだけのものではなく、のちのちその滑稽なセリフや行動は「全部大切な人のためであった」と裏付ける構成作りを意識しました。
また主人公をとことん困らせるのはもちろんですが、最終的にはきちんと成長していく姿を見せることも大切にしました。
――審査員長評に「悪趣味で行儀の悪いことこの上なしだが、極上の喜劇に仕上がっている」とありますが、ブラックユーモアは意識されていますか?
〇月足さん:はい。いくら一緒に焼けるからと言って、生のお好み焼きを棺桶に入れるなんてナンセンスだなと自覚はしています 笑。
ただ、今回は葬儀場の方に何回も取材をして、燃えきらないものは入れてはいけないけど、燃えるもの、そしてそれが大切な人のためのものであれば入れていいとお聞きして、自信をもって入れました。
ただ先述の通り、ただ笑わせたいだけで棺桶に、しかも顔の上にお好み焼きを入れた話だけだと不愉快なコントになってしまうので、最終的に家族愛につながるように泣かせるシーン、ほっこりさせるシーンで終わらせることで不愉快さを一転させ、ブラック・コメディとして成立できたかなと考えています。
――監督する上では、特にどんなことを心掛けましたか?
〇月足さん:役者さんが考えてきた演技プランは積極的に採用させていただきました。
どうしてもシナリオを自分で書いていくと、「このシーンの役者はこうでなければいけない」と頭でっかちになってしまい、狭い範囲内での演出になってしまいます。そこで自分でも考えつかなかった演技プランを見て、シナリオの枠を超えたおもしろさが生まれたときはとてもうれしく思います。
また今回はドタバタ会話劇なのでなるべく臨場感・リズムをそこなわないように、長回しでカット割りは極力しないように心がけました。そのためにも本番前には入念な段取りを繰り返し、役者さん、スタッフの目標を明確にしていけたと思います。
監督として、脚本家として/
「“不謹慎と愛”を大事にしています」
――監督・脚本を兼ねることで、発見したことや勉強になったことはありましたか?
〇月足さん:役者の「気持ちのつながり」を意識することが大切だと思いました。
シナリオを書いて、作者都合で「ここで泣きながらセリフを言ってほしい」などよくありますが、「このままじゃ泣けない」と言われることがよくあります。もちろんプロの役者さんだから無理して泣きながらセリフを言ってもらうことは可能なんですが、セリフに説得力がなくなり、観客が白けてしまうことがあります。
ですので、シナリオの段階で、ちゃんと説得力のある泣きの演技につながるように、その前のセリフや行動を役者の気持ちになって書くことを今後も意識していきたいと思います。
――今回の作品だけでなく、いつもテーマにしていることや気を付けていることはありますか?
〇月足さん:自分自身の作家性というかテーマとして「不謹慎と愛」を大事にしています。不謹慎だけだと観客の方に不愉快な思いをさせるだけですが、そこに愛があれば笑って許してくれるのではないかなと考えています 笑。
今まで作った映画作品やシナリオ・センターで書いている課題もそのテーマを主軸に考えています。
今後は純粋なコメディだけではなく恋愛やサスペンス、シリアスドラマでも上記のテーマを踏まえつつ、演出的にコメディ要素を取り入れたエンタメ作品を作り続けたいと思います。
――今後の展望をお聞かせください。
〇月足さん:ここ数年、自主短編映画を中心に制作してきましたが、来年は長編映画にトライしていこうと思います。
今までは映画祭に提出することがメインでしたが、やはり映画作品は一般の観客の方に見ていただいてなんぼの世界なので、商業映画として映画館で興行できるように頑張りたいと思います。そのためにも良いシナリオをかけるようにシナリオ・センターで勉学に励みたいと思います。
――最後に、監督 兼 脚本家になりたい “ゼミ仲間”に向けて一言メッセージを。
〇月足さん:誰もが自分が書いたシナリオは一番面白いと考えているはずです。そんなせっかく書いたシナリオを文字のまま眠らすのは惜しいなと自分は思っています。
多少お金がかかったり、苦労はするかもしれませんが、形になるととても嬉しいです。そしてそれが他者に評価されると「本当に作ってよかった」と自信になります。時には失敗することもありますが、その失敗も反省材料になって次の作品に繋げられると思います。
今はスマホでも十分映画撮影できる環境なので、実現可能で眠っているシナリオがあれば、すぐに行動することをおすすめいたします!
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