コロナ禍にて
シナリオ・センター代表の小林です。東京の感染者602名、ついに600人を超えました。1月はもっと増えるというのが、医療関係者の方々の予想です。
おどろおどろしい2020年は、日本は無策のまま、世界中が混乱まま終焉を迎えそうです。
シナリオ・センターもご多分に漏れず、創立50周年は吹っ飛び、リアル授業は減少し、改たにオンライン授業の始まりと激動の1年を、今は粛々と終えようとしています。
今月はzoomゼミなので、受講生の方々のお顔を拝見できるのは作家養成、8週間講座のみ。寂しく静かな事務局は来年に向けの事務局会議です。
センターの中では、より描き続けていただくためのよい環境づくりなど、将来に向けての対応などは動き出してはいるのですが、世の中はどうなるかもあり、全員で悩みながらの会議です。
劇場は「政治の季節」に入ったといわれているようで、現実の政治を題材にした芝居や映画が相次ぎ、いずれも好評を得ているという記事を読みました。
このコロナ禍で、世界中の政治リーダーの振る舞いや言葉を見聞きするにつけ、今まで見えなかったものが、今まで知らなかったものが入り込んできて、今まで持っていなかった視点が授けられ、多くの人が今まで興味もなかった「政治」というものが自分たちの生活に大きく影響するのだということに目を向け始めたのでしょう。
私も「新聞記者」など何本かの映画、お芝居や講演などに行きました。
作り手のさまざまな角度からアプローチは面白く、興味深く拝見してきました。
政治というと、なんだか固い感じというか偏った感じというか、政治の話は誰とでも話せるものではないという雰囲気が見受けられます。
私は、生活を考えると当然政治に繋がってくるので、政治そのものに関心というよりは、人間として生きている立場から、自分なりの想いや考えを表現することが大事だと思っています。
たまに、お上への怒り方がひどい時は「小林さん左?」とか問われたことがありますが、左でも右でもなく「私」です。(笑)
大上段に政治を語るとか話すとかではなくても、自分の生活や社会の在り方から見て、それぞれが自分なりの表現することが、創作するものの作家性を構築するものだと思っています。
シナリオは、アクション・リアクションを描くことですから、登場人物がさまざまであることで対立、葛藤、相克が生まれ、面白くなるのです。
このコロナ禍は、ある意味、作家性を培うよい環境を与えてくれているのかもしれません。
政治的発言とかの狭い見方にこだわることなく、自分は何を表現したいのか、どういう想いを伝えたいのか、自分の目で見て、耳で聞いて、触れて、自分の表現をする。
それは、自分を高め、そして、社会を高める、「いつか来た道」にならない唯一の方法だと思っています。
いつも申し上げていますが、「人はみな違う」ということを誰しもが根幹に持って、他人に接し、他人への想像性を広げてほしいと願っています。
今度生まれたら
歳をとると、色々思うんです、腹が立つんです、言いたくなるんです。(笑)
内館牧子さんのとても痛快な小説がでました。
内館さん、さすがです、「老後小説」というジャンル創っちゃいました。
結婚至上主義時代に生きてきた主人公夏江は、70歳になり、夫の寝顔をみながらつぶやいた。
「今度生まれたら、この人とは結婚しない」
夫は退職し、趣味を楽しみ、息子二人も立派に独立、人から見たら何も不満もない老後のようだが、夏江は人生を振り返ると、節目節目で下してきた選択は本当によかったのか、進学は、仕事は、結婚は・・・と。
やり直しのきかない年齢になって夏江はそれでもやりたいことをはじめようとする。
「人生に年齢は関係ない」「何かを始めた時が一番若い」なんてウソだと思いながら。
内館さんの創られる主人公夏江は怒り、腹を立て、葛藤しまくりながら、自分で考えて、自分でつかんだ道を進んでいきます。
読後思ったのは、「老後小説」と出版社では売りにしているけれど、これは「生き方小説」だと思うのです。しかもめちゃ辛口の。(笑)
内館さんがあとがきに「私はやみくもに『人間はいくつになってもやり直せる』と力づけるのは、具体性のない励ましに過ぎないと思う」と書いていらっしゃるように、70歳へのエールなんてとんでもない。むしろ、70代は70代の、30代、40代など各年代に、生き方をガンガン問うていると私は思いました。
主人公の夏江と私は同世代ですが、私たちの若かれし頃は、「オールドミス」とか「いかず後家」とか、「売れ残り」とか辛辣な言葉を平気でいわれ、お茶くみは当たり前、男性社員の補助的立場以外女性の仕事はありえなかった時代です。
今だったら即パワハラ、セクハラで、訴えられちゃうに違いないくらいひどいことを言われたりやられたりしました。
そういう時代だから、いい男(出世できそうな?)をみつけて、ゲットするために努力を惜しまない女性がいっぱいいました。
夏江は、そんな自分の選択を70歳にして後悔しているのです。
もっと違った生きかたができるターニングポイントはいくつもあったのにと。
内館さんが「今度生まれたら」で書きたかったのは「時を外すな」ということだそうです。
ここで描かれているのは、70歳の夏江ですが、30代、40代、50代・・・若いうちは自分の人生に後悔のないように、なんでもやりたいことをやる方がいいとおっしゃっています。
内館さんご自身は、物書きになりたくて35歳で会社を辞めて、脚本を描くようになった時は年収2万円。
それでも書き続けて、好きな仕事ができることが喜び、独り身も快適なので「今度生まれたら」はないそうです。私もないな。
だからこそのこの小説です。これから物書きを目指すみなさんに、「好きなことを頑張れ!」っていうエールが隠されていますよ。(笑)
「時を外さず」70歳の今なにをやるか、内館さんが結論として出されたのが「恩返し」。
今までに自分が培ってきた力を世の中に還元する年齢じゃないかと。
仕事の経験でも趣味でもこれまで蓄えてきたものを社会に役立てることで生きがいを持つことができるとおっしゃいます。
なるほど、そうきたか!シナリオ・センターをやめた後のことは、ぼんやりすごすのかなくらいの気持ちでしたが、ありがとうございます。勇気、いただきました!
シナリオ・センターで、もう一踏ん張りさせていただきますが、いずれ、子供や未来を担う人たちや未来を感じられなくなった人たちに、シナリオを使って「人はみな違って、みんないいのだ」ということをお伝えできる活動をしたいです。「恩返し」をさせていただきます。。