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人物造型 の対比で物語を運ぶ

「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師 柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
シナリオでも小説でも、人物(キャラクター)の造型は大切ですよね。そこで今回は、柏田講師が“人物造型と人物たちの関係性ゆえに成立している作品の好例”としてオススメする向田邦子さんの『はめ殺し窓』を参考に、人物造形について考えていきましょう。

どういう主人公にするか

小説に限らずシナリオでも、人物(キャラクター)の造型が作品の方向性やテーマなども決めたりします。

書き手によって、あるいは作品によって違いはあるでしょうが、「こういう話を書こう」というアイデアなり設定が浮かんだとして、どういう人物(主人公)にするか? どういうキャラなら、この物語に相応しいだろうか? と考えながら構想を練っていきます。

向田邦子の『思い出トランプ』の諸篇も、それぞれの物語を運ぶに適した(というべきか、この人ゆえにということもできる)人物が描き込まれています。この短編集の共通項は、どこにでもいそうな庶民、それも「憧れ性」よりも「共通性」が強調された人物たちの悲哀です。

ただ、「共通性」であっても読者には、自分の日常にはあってほしくないと思わせる物語で、それこそが向田さんが仕込んでいる「毒」ゆえです(※)

向田邦子『はめ殺し窓』に学ぶ

少し「人物」から離れますが、皆さんが書いてくる作品で、物足りなさを感じる一番が「いい話にまとめました」的なものが多いこと。エッセイだったら、街で見た心温まるいい話とか、私が出会ったいい人との実話、でまとまるかもしれないような物語。

向田さんはエッセイも名手でしたが、小説やシナリオといったフィクションとの違いはここにある気がします。『思い出トランプ』諸篇は、人物としては身近な庶民でありながら、いわゆるエッセイ的な「いい話」は一作もありません。フィクションとしての造り、毒が仕込まれている。

以前、ダメ男の日常を描いた秀逸な「マンハッタン」の主人公、陸夫を取り上げましたが、この人物を冷静に突き放す作者の眼を参考にしてほしい。作者はどうしても、自分が作り出した人物に自身を反映させたり、いつしか可愛がったりしてしまう。もちろん、そうした登場人物への作者なりの感情移入はあっていいし、多少なりともなくては物語を進められないかもしれません。

その一方で、人物本位になった上で、作者として冷静に見ることができるか?

誤解しないでほしいのは、「いい話」がダメと言っているのではありません。結果いい話になったとしても、フィクションとしての造りがあるか? その決め手のひとつが人物造型で、これを向田作品から学ぶのです。

さて、人物造型と人物たちの関係性ゆえに成立している作品の好例が「はめ殺し窓」です。

主人公は出世から外された中年男の江口。五十坪の借地に建てた自宅は、今の自分のようにすっかりくたびれている。見合いで「なんだか牛蒡みたいなひとだねえ」と、母のタカから馬鹿にした笑いで言われた美津子が妻。美津子との結婚を決めたのは、〝白くて大きくてしっとりしている〟タカとは正反対だったから。

父は江口に似て、貧相で身体の弱い小男だった。その父は、〝美貌の妻を自慢しながら、一生嫉妬に苦しんだ〟。さらに嫁いだ娘の律子は、そのタカの質を継いでいて、夫とうまく行かずに実家に戻ってきたらしい。実際に江口は子どもの頃の記憶として、母タカの浮気や父の嫉妬の現場に立ち会っている。

この父の容貌や体質を継いだ主人公が、奔放さを秘めていた母に対しての複雑な思い。加えて母の素質を継いでいる娘への懸念と、牛蒡のような妻にも嫉妬心を抱いてしまう小人物ぶり。

美貌の妻(主人公にとっては母)に対しての、親子である男たちの憧憬がメインテーマですが、そのタカの人生を象徴するモチーフこそが、表題の「はめ殺し窓」です。ただし、この〝殺し〟という文字であったり、各人物への冷たい眼差しを据えながら、けっして怖いだけ、さらには不幸な人物たちの物語といった終わり方をさせていません。そうした【転】の造りも読み取って下さい。

出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2019年9月号)より
次回は2月6日に更新予定です

(※)「毒」についてはこちらの記事「向田邦子さんから学ぶ小説の書き方 向田式比喩的発想法」をご覧ください。

※要ブックマーク!これまでの“おさらい”はこちらで↓
小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧はこちらからご覧ください。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう。

※シナリオ・センターの書籍についてはこちらからご覧ください。 

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