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シナリオの舞台設定(柱) どうするか

「柱はト書やセリフに比べてそんなに考えていないな……」というかた、今回の“海は海でもどこの海?の術”を使ってください。「この舞台設定(柱)で本当にいいのかな」と考える癖がつきますよ。
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。

オホーツク海なのか南太平洋なのか

あなたが書いているシナリオの舞台は、どんな街や地域ですか?
たとえば、スターバックスはありますか?観覧車はありますか?どんな名所やデートスポットがありますか?川や運河はありますか?

そこまで考えていないよ、という方が多いのではないでしょうか。確かに、そこまで考えていなくてもシナリオを書けないことはありません。

でも、自分の書いているシナリオの舞台となる街や地域に、どんな店や建物、設備などがあるのか具体的にイメージできていると、どんな場所で、どんなシーンを描こうという選択肢が広がります。

また、その街や地域ならではの場所を選べば、よりありきたりでない個性あるシーンを生み出しやすくもなります。

じゃあ、どうやって具体的にイメージすればいいのでしょう?

簡単です。実際に自分の知っている街や地域を思い浮かべればいいのです。いま住んでいる街でもいいし、生まれ育った地域でも構いません。友達や恋人がいて時々訪ねていく街でも、旅行や遊びに出掛けた地域でも。

もちろん、シナリオは実際にある街や地域を舞台にしてもいいし、実際にはない架空の街や地域を舞台にしても、どちらでも構いません。

実際にはない架空の街や地域を舞台にする場合、具体的なイメージを自分で作っていくわけですが、何となくこんな感じまでは考えられても、なかなか具体的なところまで作り上げていくのは大変です。

それより実際の街や地域を思い浮かべた方が、はるかに具体的にイメージしやすくなります。たとえば、魚の話を書くとして、舞台は海、でもいいのですが、もうひとつ具体的なイメージは浮かんできません。それをオホーツク海とか南太平洋とすると、波が荒くてカニがいるとか珊瑚礁があって熱帯魚が泳いでいてと具体的なイメージが浮かんできます。

というわけで今回は、海は海でもどこの海? の術!

『第三の男』のシーン

シナリオの本文は、柱とト書とセリフから成り立っています。これは基礎講座の一番最初に、お話しています。この3つだけ、この3つを組み合わせていくだけなんです、と。この3つのうち、みなさん、ト書やセリフは一生懸命考えていると思います。

でも、柱は?

あまり考えずパッと浮かんだものを、そのまま書いていることが多いのではありませんか?ゼミなどで20枚シナリオを受け取ると、パソコンでプリントアウトしたものに手書きで修正を入れてあったりします。たぶん前日の夜か、その日の朝にプリントアウトして仕事に行き、夜のゼミまでに、あれこれ考えて書き直したのでしょう。

でも、ト書やセリフは書き直してありますが、柱を直してあるものは、ほとんど見たことがありません。同じシーンを描いても、どんな場所を選ぶかによって、そのシーンが、もっと面白くなることだってあるのです。

実際の例を観てみましょう。

ちょっと古い映画ですが『第三の男』の舞台は、第二次世界大戦直後のウィーンです。アメリカ人作家のホリイ・マーティンス(ジョゼフ・コットン)は、旧友ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)に呼ばれウィーンにやって来ると、ハリーは事故死しています。

しかし、ハリーがペニシリンの闇商売で多くの人の命を奪い、しかも、死んだはずのハリーが生きていることを知り、当局に協力しハリーを追いつめていく、というストーリー。

たとえば、プラーター公園の観覧車のシーンがあります。この観覧車は1897年に作られた、現在世界最古の観覧車だそうです。ホリイが、生きていたハリーと再会、二人で話をするシーンを、この観覧車の中で描いています。

ハリーは高く上がった観覧車のドアを開けます。足下には人間一人一人が小さな点のように見えます。そして、ここで殺せば転落死で片がつくと脅します。ハリーは拳銃を持っているので、突きつけて脅せば特に観覧車でなくても、どこでもいいわけです。

でも、観覧車という場所を選ぶことで緊張感を増すことができ、さらに、つねに二人の背後が斜めに揺れている映像は不安感をかきたてます。

クライマックス、追いつめられたハリーは地下水道へ逃げ込みます。この地下水道のロケ地は今では観光スポットになっているようです。何本もの地下水道の支流が集まっているところでハリーが立ち尽くすシーンがあります。追ってくる警官隊の声が響いています。

でも、それが、どの支流の穴から聞こえてくるのか、地下全体に反響しているので分からないのです。地下という場所を上手く使って、追いつめられていく心理を表現しています。

何度も地上に出ようとするハリーですが、どこも警官隊が待ち構えていて、その度に地下へ戻ってきます。ついに撃たれて倒れ、這いずりながら、ある階段を昇っていきます。頭上には格子状のマンホールがあり、ハリーは格子の穴から指を出します。でも、マンホールは固定されていて外れません。

カメラは地上を映します。マンホールの格子から指だけが出ています。指だけが蠢いています。「出してくれ! 出してくれ!」と言わんばかりに。このシーンは必見です!

そして、世界で最も有名なラストシーンは、長い長い並木道です。墓地でハリーの葬式が行われた後という設定ですが、実際にウィーン中央墓地に、この並木道はあるそうです。

実際にある街を舞台にして想像する

もう一つクラシカルな名作『ローマの休日』に、ちょっと面白い例があります。

ヨーロッパ歴訪の旅をしていた某国のアン王女(オードリー・ヘップバーン)は、ローマで宿泊先を抜け出し、新聞記者(グレゴリー・ペック)と出会って恋に落ちるが…というストーリー。この映画は、ローマにある観光スポットが、本当にたくさん出てきます。バルベリーニ宮殿の正門で現在内部は国立絵画館、共和国広場、トレヴィの泉、スペイン階段、コロッセオ、真実の口……などなど。

その中に、願いのかなう壁という場所が出てきます。そこは、長い石の壁に石版のお札がたくさんかけられています。戦争中、四人の子供を連れた男が空襲にあい、この壁の陰に隠れ神に祈りました。そして、全員無事だったことに感謝して、お札をあげたのが起こりで、一種の聖地になり、壁に願い事をして、それがかなうと、お札を上げるようになったという場所です。

そこでアン王女は願い事をしますが「私の願いはかなわないから…」と言い、ちょっと切ないシーンになっています。この願いのかなう壁という場所は、実際にはないようです。つまりフィクション。私は、てっきり本当に、こういう場所があるんだと思っていました。騙されました。

実際の街や地域を舞台にしていても、実際に存在する場所しか使わないというわけではありません。ここに、こんな場所があったら面白そうだなとか、こんな場所があったらどうなるだろう?と想像してみて下さい。その場合も実際にある街や地域を舞台にしていると想像しやすく、この願いのかなう壁のように、いかにも本当にありそうな場所のように描けます。

遊園地や墓地、観光スポットといった特有の場所とではなくても、その街や地域ならではの場所というのもあります。

たとえばテレビドラマ『たったひとつの恋』の舞台は横浜。亀梨和也さん演じる神崎弘人と、綾瀬はるかさん演じる月丘菜緒のデート場所は弘人の自宅がある造船鉄工所前の運河に停泊してある船の上でした。いかにも横浜にありそうな雰囲気の場所でした。

また、やはりテレビドラマの『木更津キャッツアイ』では酒井若菜さん演じるモー子が神社で神頼みして「木更津にもスターバックスができますように」というセリフがありました。舞台となる街や地域から発想して、こんなシーンやセリフができるんじゃないかと生み出されたものでしょう(ちなみに今は木更津にスターバックスができたようです)。

さらに、応用として主人公の住んでいる家や部屋の間取り図、仕事場や学校の全体図などを具体的にイメージしてみて下さい。リビングやオフィス、せいぜい玄関や屋上など、今までありきたりな場所しか思い浮かばなかったのが、こんな場所もあるかも!という思わぬ発見ができるかもしれません。

出典:『月刊シナリオ教室』(2010年1月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
次回は3月20日に更新予定です

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